2話 ~カース・ソード~ 呪いの魔剣、あるいはおっぱいマニアの呪い
ピョコーン、ピョコーン。
……ピク……ピクピク!
「みみ……耳が、耳が頭に生えて、きた?」
“ニホントウ”とかいう魔剣を抜いてしまった僕の頭に、突然耳が生えてきた。
当然顔の横にあるべき耳は、いつの間にか無くなっている。
「……猫耳……だな」
ゾーイは半笑いで、そう僕に教えてくれた。
「この剣はな、抜くと一年後に猫耳少年になっちまう呪いがかかってるんだ」
心なし服がダボダボするのは、若干僕が小さくなったってことか?
ただでさえチビッ子呼ばわりされているのに、これ以上小さくなるなんて……
何なんですか、その変な呪いは!
猫耳少年って、誰が考えればそうなるんですか!
というより……
「一年後って……今なってますよね?」
「……だよな。何でだ?」
「そんなの僕に分かる訳無いじゃないですか!」
「……だよな」
「さっきから『だよな』ばっかりじゃないですか! どうにかして下さいよ」
「うーん……発動しちまったからどうなるかは分からんが、本当はその呪い、一年以内にある条件を満たせば解けるんだよな」
「えっ! じゃあその条件を満たせば、僕の猫耳も、この体も元に戻るんですか?」
「それはさすがにわからん。そもそも呪いが発動するのは、一年後なはずだからな」
「じゃもう無理ってことですか?」
「それもわからん。わからんが、やってみる価値はあるかもな。少なくとも、オレには呪いは解けないぜ」
確かにそうだ。
何もしなければこのままなのだ。
もし条件を満たす事が出来れば、元の戻れるかもしれない。
「でもよ。別に猫耳でも良くね? 初めから獣人族だと思えばいいだけだろ?」
「確かにそうかもしれませんけど、問題は猫耳より少年なんです!」
猫耳は百歩譲って良しとしても、少年は困る。
「だって、ずっと少年なんですよ!」
「……それが? 別にたいして困らんだろ」
「いやいや……困るんですって!」
「世の中には少年愛好家というのがいてだな。猫耳少年なんてモテモテ――」
「そういう事じゃないんですっ!」
「じゃあどういう事――」
「とにかく元に戻りたいんです! とにかく、その条件とやらを教えてください」
「あ……うん、わかった。その条件と言うのはだな……」
なんだろう。
なぜか言い難そうだな。
「女性の……おっぱいを…全種類集める事だ」
え? 今なんて……?
「その上で、魔王を倒す。それが条件だ」
「え? いや、魔王を倒すのは置いておくとして、その前がよく分からないんですが」
「正確に言うとだな。魔乳、超乳、爆乳、巨乳、豊乳、美乳、微乳、貧乳、無乳、そして普乳の女性を仲間にして魔王を倒す。そうすれば呪いは解ける、はずだ」
「つまり……その……その女性たちとパーティを組んで魔王を倒すのが条件だという事ですか?」
「そういう事だな」
なんだそれ?
そもそも、巨乳と貧乳の区別ならともかく、そんな種類をどうやって区別するんだ?
「訳が分かりません。呪いといい、条件といい、どういう事なんですか?」
「オレに分かると思うか? そんなもの本人に聞くしかないだろ」
「それはそうですけど、本人なんていないですし……」
「目の前にいる、はずだ」
はい?
目の前って、ゾーイかフルールドラゴンのドーラしかいませんが?
「フィル。お前の持ってるその“ニホントウ”の中に、本人がいるはずだ」
「ええと……言ってる意味がよく――」
「実は、呪いを解くのはその剣に中にいる、呪いをかけた張本人だ。条件をクリアすれば、剣から出てきて呪いを解いてくれる」
「え? な、なんでそんな――」
「だ・か・ら、そんなの事オレが知る訳無いだろ! とにかくそういう事だ」
全く意味不明だ。
呪いの内容も、それを解く条件も、そして呪いをかけた張本人も、何もかも訳が分からない。
しかし、訳が分かららいとばかり言っていてもどうしようもない。
かなりの魔道士と思われるゾーイが呪いを解けないのなら、残された可能性は二つしかない。
ゾーイより上の魔道士を探すか、条件を満たすか……
少なくとも、ゾーイより上の魔道士を僕は知らない。
そもそも、そんな高位の魔道士に、どうやったら会えるのかも分からない。
いや、ゾーイだったら知っているかも。
「ゾーイ、この呪いを解けそうな魔道士の知り合いはいないかな?」
「いないな。オレは解けない呪いを解ける奴は、オレの知り合いにはおらん」
つまり残された可能性は一つ、条件を満たすことだけだ。
すべてのおっぱいを完全制覇して魔王を倒す!
………………マジで?
底辺冒険者のこの僕が?
猫耳少年の姿で?
無理だろ……
「おい、フィル。どうした?」
いや、まだ可能性は……ある。
それに……賭けるしかない!
「ゾーイ、お話しがあります」
「お、おう?」
「僕は、その……全てのおっぱいを完全制覇して、魔王を倒しに行こうと思います」
「お、おう」
「それで、ゾーイにお願いが――」
「待て、フィル! 無理だ、無理だぞ! お前、オレを仲間にする気だろ!!」
その通り。
今の僕の出来る最大の事は、彼女を仲間にすることだ。
その為には……
「そもそもゾーイが、自分の家の結界も魔剣の結界もちゃんと張らないから、こんな事になったんですよね」
そう、責任転嫁です。
今は勝手に剣を抜いた自分は棚に上げて、ゾーイを責めるしか……手はない。
「いや、それは……なんだ、そんなはずはないんだが……確か結界は張ってたはずなんだが……」
「……」
「……」
「……分かったよ…そんな目で見るなって! 分かった、仲間になるよ。……ただし、条件がある」
よしっ! ……って、あれ?
条件? 条件って?
「呪いを解く条件を満たした暁には、オレの助手をしばらくしてもらう。それが嫌なら、オレも仲間になるのは断る!」
助手? 魔法の実験とか?
えーっと……どうする?
「どうした? オレはどっちでもいいぞ」
どうやら僕に選択肢はないようだ。
「分かりました。その条件、飲みます」
「よし! じゃあ仲間になってやるぜ。しばらくの間よろしくな、フィル!」
なぜだろう、嵌められた気がする。
その時。
手の中の“ニホントウ”が妖しく光り出し、僕の頭の中に声が響いた。