26話 ~フラワー・ガール~ 花売りの娘、あるいは普乳の娘
「どうすんだよ?」
「どうしましょう?」
たまたまなのか何なのか、ギルドに普乳の冒険者はいなかった。
待っていれば来るのだろうか?
「他が強いんだから、別に冒険者じゃなくてもいいんじゃないのぉ?」
確かにグレモリーの言う通りなんだよな。
もはや最強レベルのパーティーなのだから、今更誰でも構わない。
一般市民なら普乳もいるはず、いやいなければおかしい。
普通なのだから。
だけど、普通の女性が魔王討伐なんて参加するはずがない。
いくらゾーイの巧みな話術でも、それは不可能に近い……よな?
「とにかく、街で普乳を探してみるぞ」
いや……ゾーイなら可能かも。
「どうだフィル、普乳はいるか?」
広場に行ってみると、朝市のようなものをやっていた。
様々な屋台が並び、女性客も多くみられる。
が……
「意外といないね」
肝心の普乳がなかなか見つからない。
普乳は、ハーニアでは普通ではないのだろうか?
……と、その時。
「あっ……あの娘」
一人の普乳を発見した。
花売りの少女だ。
ん? 花売り?
「あの娘、一昨日の花売りだろ?」
そう、一昨日の夜に出会って、シャングリ・ラを紹介してもらったあの少女だ。
あの娘、普乳だったんだ……
「もうあの娘でいいんじゃないのぉ?」
いや、グレモリー……花売りの少女だよ?
魔王討伐に花売りって、どうなの?
「無理だって! いくら何でも承知しないでしょ」
「いや……とりあえず話しかけてみよう。もしかしたらって事もあるからな」
もしかしたら、があるの?
無いでしょ、普通。
まあ、見知らぬ人でもないし、聞くだけ聞いてみるのは有りなのか。
「おい!」
「は、はい! お花ですか? って……あれ? 一昨日の魔道士さんですよね?」
「ああ、よく覚えていたな」
「そりゃ、その大きな胸ですもの……いえ、金貨を貰ったんですから忘れませんよ」
金貨を貰った事より、爆乳の方が印象が高かったみたいだな。
「今日は違う方と一緒なんですね。胸の大きな方ばかり……あ、いえ何でもありません」
ゾーイの爆乳でも充分印象に残るんだ。
それより大きな、魔乳のグレモリーと超乳のミルだからね。
つい口走るのも無理は無いよな。
さっきから、通りがかりの男性の視線が痛いし……
「売れ行きはどうだ?」
「さっぱりです。こんな事なら薬草取りでもしていた方がよかったわ! お金が必要なのに……」
どうやらこの娘はお金を稼ぐ必要があるようだ。
「金が必要なのか? よかったら理由を教えてくれ」
「ええ……弟が難しい病気になって、治してもらうのにお金がかかるんです」
「病気か……何ならオレが治してやろうか?」
「えっ?!本当に?」
「本当だとも。こう見えてもオレは優秀な魔道士だからな! 奇病だろうが何だろうが簡単に治せるぞ」
「ああ! ありがとうございます。でも、お金が……」
「金なんて要らん。その代り、弟が治ったらこちらの願いも聞いて貰いたいが……それでもいいかな?」
「はい! もう娼婦になるしかないと思っていましたから、弟が治るなら、何でもします!!」
上手い。上手すぎる!
巧みな話術とはこういう事を言うんだろうね。
ゾーイなら奇病くらい簡単に治しそうだ。
これでこの娘は、パーティーに参加が決定したようなものだ。
「よし分かった。弟の所に案内してくれ」
こうして僕たちは、花売りの少女の家に向かう事になった。
「ここがそうです」
彼女の家は、街外れの、彼女と最初に出会った場所の近くにあった。
貧困街とまではいかないが、あまり裕福ではない家が並んでいる区画のようだ。
僕の家もあまり変わりないけど……
「弟は、奥の部屋に……」
小さな家なので奥と言っても、すぐそこだ。
部屋の扉を開けると、そこには異様な姿の少年がベッドの上に寝ていた。
「(魔茸)マタンゴの幼体を食ったからだな」
弟君は、体のあちこちから茸が生えていた。
(魔茸)マタンゴは茸の魔物で、成体になると手足が生えてきて動くことが出来る。
だけど幼体は普通のキノコと変わりない。
いや、むしろ美味しい。
「(魔茸)マタンゴの幼体って、普通は食べても何ともないはずだよね?」
「こいつは普通の奴とは違ってな。他の魔物や動物に寄生するタイプの奴だ。結構なレア種だぞ」
初耳です。
世の中知らないことだらけだ。
「普通は人間が食ってもなんともないんだが、稀に寄生される奴がいるんだ。……まあ、体質的なものだろうな」
結界が効かない体質もいますからね。
ええ……僕の事ですけど。
「このままだと(魔茸)マタンゴに栄養を奪われて死んじまうぞ」
「はい……街の魔道士もそう言ってました。でも治すにはお金が必要で……」
「魔道士とて商売だ。金をとるのが普通だからな」
だけど今は、目の前に普通じゃない魔道士がいる。
爆乳の話しじゃないよ。
「だが、オレはただで治してやろう。その代わり……」
「分かってます。何でも言う事は聞きます。弟を……弟を助けてください!」
「よし、分かった。この薬を弟に飲ませな! 一時間もすれば茸は取れるぞ」
弟思いのいいお姉さんだ。
これからどうなるか分からないはずなのに……
って、ただ魔王討伐に同行するだけなんだけどね!




