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14話 ~アーリー・キャット~ 路地裏の猫耳娘、あるいは勘違いから始まる仲間がいてもいいじゃない

 朝。

 いつもなら安いパンと目玉焼きを食べて、スライムの森へ出かけるのが僕の日常だ。

 そう、昨日までは……


 僕の人生は、たった一日で激変してしまった。

 いや、ゾーイに会ってから、まだ丸一日すら経っていない。

 なのに……


「ご主人様はもしかして、朝食をお取りにならない派ですか?」


「えっ? ああ……いや食べるよ、ちょっと考え事してただけだから」


 目の前には、焼きたてのパン、分厚いハムにスクランブルエッグ、サラダにオレンジジュース。

 昨日までの朝食とは、お金も栄養も格段の差だ。

 そして朝食後の行き先も、もちろんスライムの森ではない。



「フィル! 今日は街で人探しだ。それでいいだんだろ? ヴァニラ。」


「済まんな。ハーニアにいるのは分かってるんだが……」


 今日はハーニアの街で仲間探しだ。


「そうは言っても、ハーニア中を探すわけではない。大体の見当はつくぞ」


「ヴァニラが言ってるのは、あいつ・・・だろ? あいつ・・・ならすぐ見つかるだろ」


「まあ、そうだな」


 あいつ・・・が誰なのかは分からないけど、割と簡単に探せるみたいだな。



「それで、誰々街に行くんだ?」


「わらわは別行動じゃ。ハーニアのドワーフたちに挨拶して来ようかと思っている」

「オイラ……人ごみ、嫌い……ここにいる」

「わたくしは片付けやら掃除やらありますので、ご遠慮いたします」


 結局僕とゾーイとヴァニラだけみたいだ。

 まあ、街中を大勢でぞろぞろ歩いてもね……


「そう言えば、街で猫耳族の少年が攫われる事件が多発しているそうですので、お気をつけて」


 いや、アリス……

 僕は猫耳族じゃないから。


「オレとヴァニラがいるから心配はいらん。それより何をもたもた飯を食ってるんだ? 早く行くぞ」


 まったく。

 朝食位ゆっくり食べたいんだけど……






 朝食を済ませ、僕とゾーイ、そしてヴァニラは街へと繰り出してきた。


「それで、ヴァニラ。心当たりはどこなんですか?」


「たぶん……歓楽街だな」


 えっ? ヴァニラ、今何て? 歓楽街??

 確か今から探すのはヴァニラの元上司、つまりは元聖騎士だよね?

 そんな人が歓楽街にいるの?


「まあ、間違いないだろうな」


 ゾーイも同意してるし、よく分かんないけど歓楽街にいるんだろう。



「おいっ、フィル! 伏せろ!!」


 え? なに? 


 カンッ! ガッ! キンッ!!


 なにー???

 ヴァニラの声で思わず伏せたけど、一瞬の間に何やら不穏な音が、三回も……



「見つけたぞ人攫いども! その子を離すのニャー!!」


 ヴァニラに切りつけたであろう、その声の主。

 グレーの瞳にグレーの髪、そしてグレーの猫耳と尻尾。

 その猫耳の女性は、短剣を握ったまま、そう叫んだ。 

 


「今、何が……?」


「何だ、見てなかったのか?」


「伏せろと言われたので……」


「猫耳が投げてきたナイフを、ヴァニラが剣で振り払い、アサシンブレードを鞘で防いで、切りつけてきた短剣を返す刀で弾いただけだな」


 “だけ”って……


「ついでに言うと、その弾いた短剣を素早く拾って、猫耳は今、あの位置にいる」


 僕が一瞬体を伏せた間に、そんな事が?

 一瞬だよ、一瞬!

 攻撃する方も防ぐ方も、凄過ぎだ。

 見てても分かったかどうか……



「何をごちゃごちゃと言ってるのニャ!! その子を離せと言ってるんだニャ! それとも……死にたいのかニャ?」 


 えーっと、もしかして……

 僕が攫われてる、と思ってるって事?


「ごちゃごちゃ言っているのは貴様の方だろう、猫耳の娘! 貴様こそわたしの剣の――」

「まあまあ、ヴァニラ。落ち着いて!」


「何を言ってるんだ、フィル。私はいつも落ち着いてるぞ」


 ……そうだね。


「猫耳の君も、少し落ち着きなよ」


 僕も猫耳だけど。


「フニャ? あれ?? 君、攫われてるんじゃ……」


「この人たちは僕の仲間、人攫いなんかじゃないから!」


「ニャニャ?! もしかして、ボクの勘違い?」


 ええ……そうですねぇ。



「おーい! 人攫いの一団が捕まったぞー!! あれ、ニケはどこ行ったんだ? おーい!」


 何か遠くで聞こえてますね。

 もしかして、あなたがニケさんなのかな?



「貴様の言う“人攫い”は捕まったようだな」


「うっ!! す、済まないのニャ。勘違いなのニャー」


「勘違いで切り付けられてもな……私でなければ、どうなっていたか分からんぞ」


 ヴァニラの言う通りですね。

 もし切り付けられたのが僕なら、とっくにあの世行きですよ。


「この落とし前はどうつけるつもりなのか、教えてもらおうか?」


「ふ、ふにゃぁ……申し訳ないのニャ、ボクの出来る事なら何でもするのニャー」 


「何でも、だと? ……おいゾーイ、こいつ何でもするらしいぞ」


「ほう♪ それはいいな」


 ゾーイの笑みがヤバいぞ。

 人攫い以上のあくどい笑みだ。


「ニャッ!! な、何でもとは言ったけど、触手で○○とか××でホニャララとかそういった事は勘弁なのニャ」


 ○○とか××とかホニャララとか……

 まだ何も言ってないんだけど?

 しかも触手って……そんなの無いし、ね。


「ふむ、触手で○○も悪くないな」


「ひいぃぃ!」

「ひいぃぃ!!」


 おっと! つい僕まで声が……



「それよりお前……仲間になれ!」


「……ほえ? 今、ニャんと?」


「何でもするんだろ? 仲間になれと言ってるんだ」


 まあ、想定内だったけどね。

 今さっきヴァニラに切りかかった相手に言う台詞なのか?

 普通は誘わないよ、普通はね。


 ゾーイは普通じゃないけど……


「それとも触手でホニャララの方がいいのか?」


「ひいぃぃ!」

「ひいぃぃ!!」


「何でさっきからフィルまで叫んでんだよ」


 いや、ほら……つい、ね。


「それで、仲間とは何の仲間なのニャ?」


「魔王討伐パーティーだ」


「ま、魔王?! 魔王を倒しに行くのニャ?」


「そうだ。ちなみにフィルこいつがリーダーだ」


「この子が、リーダー? お子様なのニャ……」


「実はフィルこいつは、これでも16歳の人族なんだ」


「猫耳があるのニャ。猫耳族じゃないのかニャ?」



「この姿は、ある呪いのせいでこうなったんだ。その呪いを解く方法ってのがだな。全てのおっぱいを仲間にして魔王を倒す事なんだ」


「おっぱいを、仲間??? 意味が分からないのニャ」


「詳しく説明するとだな――」


 早くもゾーイによる、本日最初の“おっぱい完全制覇コンプリート”の交渉が始まった。

 もう“双嶺の魔女”ツインピークス・ソルシエールより、“双嶺の交渉人”ツインピークス・ネゴシエーターでいいんじゃないかな?

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