12話 ~マーセナリーメイド~ 万能傭兵メイド、あるいは巨乳の「いらっしゃいませご主人様」
「ご主人様、皆様。お食事の用意が出来ました」
「おい“ご主人様”! 飯だってよ!」
「わざわざ繰り返さなくても、充分聞こえてますよ」
ゾーイは、アリスが僕を“ご主人様”と呼ぶのを面白がっている。
「おっ!美味そうだな」
「そろそろつまみが欲しかったんだよ」
「城のコック並みのメニューだな」
「……ごはん、おいしそう」
さすがSランクのメイドだ。
短時間で色とりどりの料理が出来上がっている。
「アリスも一緒にどう?」
こんな時、メイドはいつ、何を食べるのかわからない。
本来は一緒に食べる訳ではないのだろうけど、とりあえず誘ってみた。
「いえメイドがご主人様と一緒の席などもってのほか……そうですか、命令とあれば致し方ありません。ご一緒させて頂きます」
……えーっと、ですね。
命令なんてしてませんけど?
「では、わたくしも頂戴させて頂きます」
よく見ると最初から席が一つ多いんだよな。
つまりはそういう事なのね。
まあ、いいんだけどね、僕のお金でもないし……
アリスの料理は、見た目だけでなく味も絶品だった。
へたをするとロッティの城の昼食より美味いかもしれない。
リエルなんて脇目も振らずに食べている。
単にお腹が空いてるだけかのしれないけど……
「お食事中の所申し訳ございません。わたくし、皆様のお名前をお聞きするのを失念しておりました」
そう言われると、アリスが聞いたのは僕の名前だけだ。
「お食事を取りながらでもよろしいので、お教え頂けますか?」
「ああ、いいぜ。オレはゾーイ、ご覧の通りの魔道士だな」
「私は剣士のヴァニラだ」
「わらわはシャルロット。ロッティと呼んでも構わぬぞ」
「オイラ……リエル」
「ゾーイ様にヴァニラ様、シャル……失礼しました、ロッティ様とリエル様、それにご主人様の5名パーティーなのですね」
「そうだね。でももっと増やさないと……」
「まだ増やすんですか? これだけでも充分なパーティーに見えるのですが? それと……」
それと?
「ご主人様は、何故そのようなお姿なのですか? 冒険者なら15歳以上なのですよね? 10歳程度にしか見えないのですが……」
やはりそうだよな。
誰だって不思議に思うはずだよ。
「そ、それは――」
「オレから説明しよう。フィルはな、本当は16歳の人族の冒険者なんだ。この猫耳少年の姿は呪いのせいなんだ」
「呪い、ですか?」
「そう、その呪いを解く方法がだな。全ての種類のおっぱいを仲間にして魔王を倒す事なんだ」
「おっぱいを集めて、ですか?」
「そうだ、詳しく話すとな――」
本日4回目、ゾーイによる“おっぱい話”の始まりだ。
この間に食事を取ることにしよう。
でも何でゾーイはアリスに詳しい説明をしてるんだろう?
まさか……仲間にする気なのか?!
「――ということなんだ。どうだアリス、仲間になる気はないか?」
そのまさかだったみたいだ。
でも、アリスはただのメイドだよね。
仲間になる訳無いと思うんだけど……
「知ってるぞ、アリス! お前、冒険者だろう」
「ええっー?! ぼ、冒険者ぁ?」
「SランクのメイドでありながらSランクの冒険者。雇い主をご主人様と呼ぶ、万能傭兵メイドのアリスだろ? 有名だな」
「だな」
「ああ、知っておる」
「オイラも……」
有名人だったんだ……
「その有名冒険者が、何でこんな所で本当のメイドをやってるんだ?」
「ええ……実は先日、ご主人様を失いまして……」
失った?
それって死んだってこと……だよね。
「“リーダー生存率120%”と比喩されてるお前にしては、珍しいな」
「いえ、“珍しい”のではなく“初めて”なのです」
「どうしたんだ? 魔物にでも喰われたのか?」
「誤って足を滑らせ岩に頭をぶつけて、そのまま……」
……それってアリス関係無くね?
「瞬時にお助け出来れば良かったのですが、あいにく魔物と戦っていた為に対応が遅れまして」
アリスに戦わせて、傍観中に滑って転んだって事で、OK?
「まさか、その責任を感じて冒険者を辞めてここにいるって事?」
「いえ、それはありません!」
完全否定の、しかも即答……
「わたくしは冒険者ではありますが、お給金を頂いてパーティーに参加する傭兵でございます」
まあ、通り名がそうだしね。
「ただ、わたくしの場合は身の回りのお世話や炊事洗濯等も致しますし、Sランクですので、お給金を少々高く頂いております」
何となく読めてきた、つまり――
「ですが、高過ぎて新たなご主人様が現れないのです」
やっぱり……
「あまりにも暇なので、こうしてここでバイトをしておりました」
暇だからしてたんだ。
しかもバイトなのか……
「幾らだ?」
「何がでしょうか? ゾーイ様」
「アリス、お前をパーティーに雇う金額は幾らなんだ?」
「それでしたら、1日――ゴニョゴニョゴニョ――となっております」
また耳打ちですか。
聞いても払えないから聞かないけど。
「何だそんなもんか。それさえ払えばこのパーティーに参加するんだな?」
「お給金さえ頂ければ問題ございません」
「ここはどうなる? 途中で辞めても大丈夫なのか?」
「所詮、バイトですから、何の問題もございません」
「よし! アリス、お前を魔法討伐の日まで雇おう」
「ありがとうございます。雇い主様はゾーイ様でよろしいのでしょうか?」
「いや、オレは金を支払うだけで、雇い主はフィルだ。そうでなければ呪いは解けないからな」
「かしこまりました。それでは引き続き、フィル様をご主人様と呼ばせて頂きます。魔王討伐のその日まで、よろしくお願い致します」
「えっ、あ……こちらこそよろしく」
何だか勝手に話が進んで、あっと言う間に仲間が増えたぞ。
今までもそうだけど……
「いや待て! “おっぱい被り”しては問題だな。魔剣の判断次第では、仲間には出来んぞ」
“おっぱい被り”って……
いや、そうなんだけどさ。
もう少し言い方がありそうな気もするんですけど?
「魔剣が光るのを待つしかないですね」
って言ったそばから光ってるな。
《……巨乳》
あー、やっぱり。
何となくそんな気がしてたんだよね。
「おい、どうだって?」
だから何でゾーイはそんなに食い気味なの?
「……巨乳、だそうです」
「お! 巨乳か。大丈夫だったな」
「それって、わたくしのおっぱいが巨乳だという事でしょうか?」
「そうだぞ! 巨乳はいないからこれでアリスも仲間だ。ちなみにオレは爆乳な♪」
何その、勝ち誇ったような言い方。
「爆乳ですか……残念ながらその大きさには勝てませんね。結構自信があったのですが、残念です」
「いやいや、巨乳でも充分凄いと思うぞ。何せリエルは貧乳、ロッティに至っては無乳だからな!」
あー、言っちゃったよ。
ロッティは魔剣判定聞いてなかったのに……
一波乱あるのか……な?




