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10話 ~アドベンチャー・イズ・アバウト・イン~ 冒険と言えば宿屋、あるいは意味不明な論理


「おーい! ただいまなのじゃ」


 リエルが貧乳認定されて間もなく、ロッティとヴァニラが帰って来た。


「向こうに灰色熊グリズリーが数匹おってな、少しは運動になったのじゃ」


 灰色熊グリズリー数匹相手で、少しの運動なんだ。


「そいつらはどうしたんだ? 灰色熊グリズリーなら毛皮が高値で売れるはずだぞ」


「ああ……それなら無理だな」


 ゾーイの問いかけにヴァニラが首を振った。


「ロッティの斧で真っ二つと、ハンマーでぺちゃんこだ。売れる訳もないな」


「思ったよりひ弱な奴らでな」


 灰色熊グリズリーがひ弱とか、何だかもう……別次元の話なんですけど。


 でもいいんだろうか?

 リエルが守る森に棲んでいるなら、それは魔物でもリエルの守護すべき対象なんじゃないだろうか。


「いいの? リエル」


「……何が?」


「何がって、灰色熊グリズリーはリエル守ってるこの森に棲んでたんだよ?」


「オイラが守ってるのは……森だけ、だから」


「そ、そうなんだ……」


 森だけ守ってるって意味わかんないよ。

 まあ、森すら守ってるのかどうか怪しいけど。



「フィル! オレの持ち駒はこれで終わりだぞ。次はどうする?」


 僕に女性の知り合いは無いに等しい。

 ましてや、魔王討伐に参加するほどの強さの女性なんて、いるはずもない。


「次って言われても、ね」


  僕はどうしようも出来ないんだけど。


「私の知り合いに当たってみようか?」


「ヴァニラの?」


「聖騎士時代の上司だから腕は確かだぞ」


 聖騎士時代の上司って事は、その女性も元聖騎士って事だよね。

 その人まで参加したら、凄い事になりそうだな。


「確かハーニアにいるはずだが……」


 ハーニアと言えば、けっこうな大都市だ。

 魔物の森といわれるハースの森に近いから冒険者もたくさん住んでるらしい。

 行ったことないけど。  

 

「そうか。じゃあハーニアに行って、宿でも取るか?!」


「えっ? 宿ですか……」


 魔法で誰かの所に戻ればいいだけでは?


「何だよフィル! 冒険と言ったら宿屋だろ! 宿屋で宴会するのが楽しいんだろ?!」


 何なの、その意味不明な論理。


「でも僕、お金が――」

「心配するな、金ならオレが出す。こう見えても金なら腐るほどあるからな」


 何故だか知らないけど、お金持ちなんだよね、この人ゾーイは。


「わらわも出すぞ。宿屋か……楽しみだな♪」


 ロッティも金には困らないよな。

 お姫様だし。


「奢りなら私は構わないぞ」

「オイラ……お金ない。……でも泊まりたい」


「よし! そんじゃ、決定という事で!」


 リーダーって何なんだろう……






 ゾーイの転移魔法で、あっという間にハーニアに着いた。

 本日三度目の爆乳攻撃を喰らいながら……


「町外れですね」


 着いた場所は町外れの裏通りのようだ。

 人通りの多い場所にいきなり出現するのは、ざすがのゾーイも気が引けたのだろうか。


「ハーニアみたいな大都市は、中心街に転移防止の結界が張ってあるからな。仕方ないのさ」


 気が引けた訳ではないらしい。


「オレにとってはこんな結界、蜘蛛の巣以下だが、見つかるといろいろ面倒だからな」


 面倒なのは僕もごめんだ。

 しかし蜘蛛の巣以下って表現は、あんまりだよな。


「ゾーイ、どこに泊まるのじゃ?」


「どこって言われてもな。オレはハーニアなんて知らんぞ!」


「私も来たことはないな」

「オイラも……ない」

「もちろん僕もないです」


「ちょうど向こうから人が来たな。ちょっと聞いてみるか……おい、そこの娘!」


 路地からとぼとぼと出てきた少女に、ゾーイが声を掛けた。

 

「今日もお花が売れなかったわ……えっ? は、はい何でしょう? お花ですか?」


「花などいらんが……いや、全部貰おう。その代り聞きたいことがある」


「全部ですか! はい、何でも聞いてください」


「この街で、一番の宿屋はどこなんだ?」


「宿屋ですか……宿屋と言っていいのか分かりませんが、Sランクの冒険者は“シャングリ・ラ”に泊まってると聞きますよ」


「ほう! で、その“シャングリ・ラ”はどこにあるんだ?」


「それなら、ここから見えるあの建物です」


 少女が指差した先には、10階建てほどの高い建物が見えている。


「ほほう♪ なかなか良さそうだな。あそこにするか」


 あそこって、宿屋というより高級ホテルでは?


「では、行くと……おっと、花だったな。これで足りるのか?」


 足りるよ、絶対。

 だって金貨だもの。


「えっ……金貨?」


「ん? 足りなかったか? もう一枚必要か?」


「いえ、逆です……多すぎです」


「お釣りなら要らんぞ、取っておけ」


「ええっ!」


 当たり前の反応だよな。

 バケツ一杯の花に金貨一枚なんて、ありえないし……

 スライムを何十匹倒せば金貨一枚になるんだろう?

 よく考えたら金貨なんて、我が家で見た事なんかないな。


「おいフィル! 何やってんだ? 置いて行くぞ!!」


 置いて行かないでくださいよ。

 これでもリーダなんだから……






「ここですね」


 お目当ての“シャングリ・ラ”に着いた。


 途中、道行く人にジロジロ見られた気もするけど、気のせいだろうか。

 たぶん気のせいだ、という事にしておこう。

 決してヴァニラのビキニアーマーとか、ロッティの大きな武器とか、ゾーイの爆乳のせいではない。

 ……と信じたい。


 いや、信じよう。

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