0:現実desorption
意識が現実に浮上していく。
薄目を開ける。視界はぼんやりとした白に覆われていた。
光で目が傷つかないよう、ゆっくりと目を開けていく。限界まで見開いているつもりなのに、視界は白のままだった。
もう、こんなに進行しているのか。かさかさというノイズが唯一無事だった聴覚すらも、少しずつ失われ始めていることを無慈悲に告げる。
「_____さん、起きてますか」
先生……私を担当する医師の声が微かに聞こえた。
「貴方の体は、もってあと3日、というところです。一度眠りについてしまえば、おそらくもう目覚めることはないでしょう」
何を今更、と思うようなことを告げられる。自分の体が限界を迎えていることは、自分で一番良く分かっていた。痛いという感覚すら無いのだ。目の周辺の筋肉以外、指先すらも動かせないこの体に、この命に、未練なんてものはなかった。
「ですが、『この世界』でなくても良い、というならば、ひとつだけ方法があります」
何、と耳を疑った。異世界転生なんて話がありえない事をほざく程、先生はおかしくなってしまったのだろうか。
「秘密裏に開発された新技術があります。我々はPBI、と呼んでいるものですが__________それを使えば、意識をデータ化し、貴方を電脳世界へ飛ばすことができます。ただし使ってしまえば最後、二度と此方には戻ってこれません。でも、あと3日の命よりは、長く生きられる。というよりも一応は不死身の体になれます。何分公に出来ない情報でして、これ以上の研究は不可能かと開発者も諦めかけていたところなのですよ」
それで、私にどうしろと?
「ああ、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。貴方には、このPBIの被験者になってもらいたいのです。VRMMORPG【Creating Tradition Online】でプレイヤーとして活動してもらいます。各国政府が時々VR実験用に用いる予定ですが、表向きは普通のVRMMOです。悪い話ではないでしょう?」
頷く代わりに、一瞬、心音が少しだけ早まった。先生は満足そうに笑う。
私が覚えているのは、ここまでだ。
次に目が覚めたとき、私は_______________________________。