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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第1章 ここは新横浜・タカハマ屋
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07

 冬が過ぎ、また春がきた。


 このスーツ姿を目にするようになってからもう一年になるな、オジサンはいつものようにオカカとコンブのおむすびを包んで彼に手渡しながら、さりげなく彼の姿を眺め渡した。

 受け取る方も、ぎくしゃくした動きはすでに見られない。これもまた流れるような自然さで200円を皿に置いて包みとレシートを受け取った。

 土曜日だったせいで、人の流れは少ない。

 少し時間的に余裕があるのか、包みを受け取ってから、オジサンの目を見て、また足もとに目を落とす。

 そして

「ほんとうにオレはとことん使えないヤツなんだ」

 真面目な表情で言った。

 1年の成長ぶりにしみじみしていたオジサンは意外なことばに動きを止め、続きを待つ。

「……そう思い知らされる一年間だったよ」

 オジサンはゆっくり息を吐いてから答える。

「誰だって最初から上手くできるわきゃないさ。それにさ、アンタ最初から警備とかのプロじゃなかったんだろ?」

「え?」

 そこにちょうど、時々見かけるOLが立ち寄った。外の彼はさりげなく脇に寄る。

「おはよう、おじさん。やんなっちゃう休日当番よ朝からいきなり!」

「だんだん日が伸びてきたからありがたいさね、いつものでいいかい?」

「ええ」

 オジサンが半分自動的にシャケと梅干のおむすびを包んで、味噌汁を手際よく上に載せて愛想よくOLに渡し、二、三時節のことばを交わした。

 女性客が駅の方に向かっていってもまだ、外の彼は立ち去らずにその場に佇んでいた。

 今朝はもう少し話したい気分だったらしい。

「さっきの話だけど、オジサンにはちゃんと話した方がいいかな……て思って」

「何だい?」

 彼が顔を上げて、いったん呑みこみかけたことばを発する。

MIROC(マイロック)、って聞いたことある?」

「ないねえ……」少しだけ後ろに下がって目を宙に浮かせる。「なんだって、もう一回言ってくんないか」

「いや、やっぱりいいよ、今の無し」

 彼があわてて打ち消した。

「警備に関係ある会社には違いない……ただ、守っているものがもっと広範囲なだけで」

「へええ」血が流れる話を思い出し、オジサンは頭の中に色々なシーンを思い浮かべる。

「何かそれよ、なんとか防衛軍とか、なんとかマンみたいな正義の味方系みたいだね」

「ただの公務員だよ」

「なんだ、じゃあおまわりさんかぁ」ようやく納得がいったぞ、とオジサンは手を打ち鳴らす。それも彼は慌てて否定した。

「いや、もっとマイナーなところだよ、やっていることは少し似ているけど」

「悪をやっつけるのか? やっぱり」

 鼻息の荒くなったオジサンに苦笑をみせ、それでも彼は少しだけ自分の『カイシャ』について説明した。


 彼が中途で入局したMIROCいう組織は、それに準ずる系列組織も含め、日本だけでなく主要国の各所に存在している。

 急速に資本主義経済の入り込んでいるロシアにさえ、旧ソ連時代からこの関連機関は機能していた。

 建前上ではあったが、グローバルな視点から宗教や政策、信条に関わらず『真の正義』を追求する、世界的にもユニークな国際組織であった。

 犯罪を抑制したりそれに関わる組織や個人を活動停止に追い込んだり更生させたりという社会の秩序維持のために働く裏方的な仕事ではあったが、警察や軍隊と大きく異なるのが『原則非武装で任務を遂行する』という点である。

 もちろん護身のために必要だということで、一通りの銃火器取り扱い講習や模擬戦などの訓練を積む。

 公務員からの中途採用も多かったが、彼の所属している特務課の面子はほとんどは警察、消防、海上保安庁、そして自衛隊での実務経験者だった。


「すごいねえ」かなりざっくりと簡略な説明で、聞いていたオジサンも半分かたぽかんと口を開けていたにも関わらず、聞き終わった時には拍手せんばかりの勢いでこう言った。

「アンタ、それじゃあ前の仕事もお巡りさんとかだったのか? だからアイツらが絡んだ時……」

「オレ、郵便局に勤めてたんだよ、前は」

 えっ、とオジサンは目をぱちくりさせた。


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