05
寄る時は週に三回程度、来ない時は一と月以上も、という感じの、着かず離れずの客だった。
それでも、いつの間にか彼の来店が楽しみになっていた。
「オジサン、店一人でやってるんだ」
水が冷たく感じられようになった頃のある日、彼からそう話しかけてきた。
「ああ」
オジサンは、慣れた手つきで店仕事をこなしながら訥々と語る。
「カミさんが亡くなって、もう五年くらいかな? 元々作るのはオレだったから店はたたまずに済んだけど、やっぱりカミさんが一緒に店にいないのはさびしいもんだよ。ようやく馴れたけどね。でもさ、息子も娘も出ちまったし、オレが働けなくなったらこの店はお終いかな」
「そうか」しんみりと彼がつぶやいた。
「この味が好きなんだけどな。家庭の味って感じでさ。
コンビニのおむすびもたまに食うが、全然違うんだよ。ここのは何ていうのか……『暖かい』んだ。母さんや奥さんの顔が見える、って言うのかな」
「アンタ、独身なのか?」
オジサンも聞いてみる。
「いや、」照れている。
「二年前に結婚した」
子どもはまだいないらしい。それでも、「もう働ける所もないし」と言ったのは家族あっての言葉だったのだろう。
「奥さん弁当作ってくれないのかい?」
こんな聞きにくいことまで聞けるようになった。
いやいや、カアチャンは怖いけどさ、違うんだよ、とあわてて両手を振る。
「カイシャから前日夜遅く連絡あって仕事が急に変更されたりするもんだから、弁当持っていけないんだよ」
あわてぶりがいい。オジサンが笑った。
「悪いわるい、それでウチに寄ってもらってるんだから、ウチは感謝しなくちゃ。それにレシートもちゃんと奥さんに見せてるんだろ?」
ちょうど持ち上げた紙切れを、彼は「えっ」と言いながら慌てて掴み直す。
「カミさん思いなんだねアンタ」それとも単に尻に敷かれているだけかもだが、敢えて言わないでおいた。
「まあ……レシートは別に、何となく習慣というか」
あやふやにことばを濁し、あわてながらも、いつものように「じゃあ」と袋を持ち上げて彼は駅の方に向かった。