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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
20/32

09

 それからしばらくしたある日、今度は総務から内線がきた。

「煙草吸いに行くけど」

 春日だった。どうも気に入られてしまったらしい。

 元特務のリーダーだったということもないのだろうが、何となく彼には頭が上がらない気分だ。

 サンライズはせっかく引き出しにしまい込んでいた煙草を出して、上に向かった。

 先日と同じく、先に着いた春日が自分の煙草に火をつけて、一回思い切り煙を吸い込んでいた。

 彼の姿をみつけるとにやりとして

「デスですが」

 相変わらずのネタを繰り返している。

 赤く火がたったところを差し出してきたので受け取り、また、自分のを代わりに一本渡す。

 しばらくマイセンをふかしてから、春日がさらっと聞いてきた。

「ローズやゾーさんと、飲みに行ってるって?」

「ああ」

「アイツら、ザルだろ?」

「酒がもったいない」だよな、と春日が屋上からのぞく空をみて、煙を吐いた。

 誰もここまで登ってこない、しばらく静かな時が流れた。

「アイツら、話してただろう? オレのこと」

「まあ、少しは」

「てことは、聞いたんだ」

 春日が横目で、デスをふかしているサンライズをみた。

「オマエは平気なのか?」

 え、何が? と聞くと、まじめな目をしている。

「オレが吸ってたタバコだけど、気にならないのか」

「別に……」

 彼にまともに向き合う。

「学校でも教えるけど、唾液では感染しません、って」そしてサンライズは続ける。

「それにオレらが吸ってるのは、『死』でしょう? 煙草吸ってる人間に死が気になるかどうか聞くのは、どうかなあ」

 春日が笑いだした。「オマエ、ほんとうに変わってるなあ」

「えっ、」ついムキになって言い返す。

「言われたことないし」

「遠慮して言わねえだけだ、きっと。さすが、二年でリーダーに昇格しただけあるわ」

 そのまま黙って、また煙草をふかしている。サンライズも黙って続きを吸っていた。

 しばらくして、また春日が口を切った。

「ローズのヤロウに、いじめられてないだろうな」

「何で?」

 ふと思い出した。

 初めての飲み会で、ローズマリーはごく気さくな感じを崩しはしなかったものの、ずいぶんキツイことを言っていた。いつまでもこれ見よがしにギプスなんてはめているもんじゃない、そういうニュアンスだったのだと思う。しかしそれから後、特にいじめられたとか何か注意されたということはない。

 飲み会も何度か一緒に行っていたが、いつも屈託のない態度で接してくれている。

「オマエのこと、けっこう気に入ったらしいな」

「そうなのかな……」

 それでもどこか、少しだけ隔たりを感じることがある。

 笑顔にみえる表情だが、受け答えが中途半端で、さらりと次の話題に移っていたり、とか。

 そう言いたかったが春日にも弱みを見せるようで口に出せない。

 代わりにこう言ってみた。

「あの人、俺らは世間で弱みを見せちゃいけないっていうスタンスなのかな。多分」

「うん?」

 煙を吐きだして、春日が問うた。

「オマエさんはどうなんだ? 人前で自分の弱いところを晒せるか?」

「っていうより」サンライズも煙を吐く。

「俺自身弱い人間だと感じているし、弱い人間に対して寄り添いたいと思う」

 はああ、と春日はすでに煙っけのない息を思い切り吐いた。

「ローズはね、そんなタイプのヤツは徹底的にやっつけちまうんだがね、普通なら」

「えっ」思わず吸いさしを落としそうになる。

「いつも優しいけどな」

「だから」春日は煙草を灰皿にねじこんだ。

「オマエがよっぽど、気に入っちまったんだ。ヤツは俺と同じで、性悪説の狂信者だからね」

 ぽんぽん、と軽くサンライズの肩を叩いた春日は、それでも傷をちゃんと避けていた。

「ま、そういうことだから」

 どういうことなのかよくわからないが、サンライズはふうん、と後について屋上からまた中に入っていった。


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