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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
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08


 短い出張が何度かあって、サンライズもようやく出張経費報告書の書き方が上手になってきた。

 春日も特に文句を言うこともなくなった。

 表面上の付き合いは、ごく、落ち着いたものになった。

 しかしそれ以上の接点はない。

 特務課のフロアに行けない、と言っていたのは本当らしく、直接説明が必要な用事がある時には必ず、総務の方に来てもらえるよう内線があった。特務課内でも事情を知らない連中はよく文句を言っていたが、サンライズは黙って聞き流していた。


 おむすびは相変わらず時々買いには行っていたが、オジサンにきつい事を言ってしまったのが、まだ心の中にひっかかっている。

 サンライズはずっとチクチクしたものを抱えながらも、店に寄るたびにその話題は避けながら、相変わらずオカカとコンブを買って行った。

 オジサンは何のこだわりも無く、雨が止んでよかったね、とか寒くなったね、など他愛もない話題をぽんぽんと振ってきた。

 ただ、サンライズの問いかけに対して答えるそぶりは、まだまったく見えなかった。忘れてしまったのか、まるで気にしていないかのように。

 それはそれで辛い。しかし、単なる店主と客なのだ、どうしてそこまで人生に踏み込めるんだ?

 サンライズはひりつく心を鎮めようと、何度か自分にそう言い聞かせた。


 ローズマリーとゾディアックとの飲み会もたび重なった。たまに、彼らのつてで特務の別メンバーや資料課など他の面子も加わることもあったが、基本的には三人組が多かった。

 そんな折、またサンライズは総務を訪ねて行った。

 春日に提出した出張旅費の件で問い合わせがあったのだが、じかに説明した方が早そうな案件だった。

 デスクには、春日はいなかった。

「ハルさん?」

 隣の席にいる、陳というのっぽの男が無表情に答える。

「煙草、では?」


 非常階段を上っていってみると、屋上に続く喫煙コーナーに、ぽつんと一人で煙草をふかしている春日を発見した。

「カスガさん」声をかけると、ものうげにふり向いた。

「はい」

「こないだ聞かれた件だけど、直接説明しようかと思って」

「今、火つけたばかりだから……少し待って」

 サンライズも、隣に来て自分の煙草を出す。「オレも、いいかな」

 別に嫌がられることもなく、どうぞ、というように一歩横にずれたので、灰皿の横に入り、火をつける。

 ようやく禁煙できる、と思っていたがやっぱり吸ってしまった、と大きく煙を吐く。常に持ち歩いているのが、未練なのだろう。久々の味が口の中に広がる。

 春日がちらっと見て言った。

「マイセン三ミリかあ、オレも前はそれだったなあ」

「やめようと思ってたんですがね」

「じゃあ持つなよ」

 春日の口調に棘はない。サンライズは横目で彼を見てから、もう一歩踏み込んでみることにした。

「カスガさんは、今何を?」

 春日はにやっと笑って、胸ポケットの黒い箱をみせる。

 白い髑髏マークが真ん中についていた。

「デスです」つまらんダジャレは、好きらしい。「一本あげようか」

 どんなもんかな、ともらおうと手を出しかけたが、自分のに火をつけたばかりだった、と一旦引っこめる。

「これやろうか?」

 春日が自分の持っていた、火をつけて一吸いしたやつをこちらに渡してよこす。

「いいんですか?」

 と尋ねながらも、そのまま受け取り、代わりに火を点けたばかりの自分の煙草を差し出した。

 もらったヤツを一服してみたが、特に可もなく不可もない。

『死』というくらいだからもう少しクセのある感じかと思ったが、意外と普通の風味だった。

 案外普通っぽい、と感想を述べると、春日はまたにやっと笑った。

「さてと、」

 ひと息ついて吸殻をぐいぐい灰皿に押しつけ、

「先日のあの出張……急に外部アシスト頼んだ件だけど、経費で落ちないよ」

 と先に言い放つ。

 仕事はあくまでも、冷徹だった。


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