07
ちょっとした会話の切れめに、オジサンがぽつりと言った。
「実は」
言いにくそうに下を向いた。少し待つとようやくこう続けた。
「今年いっぱいで、店をたたむことになった」
オジサンの言葉に、サンライズは動きをとめた。
タカハマ屋に寄るようになってから、四年目になっていた、ある秋の日のこと。
オジサンは目の前のおむすびに目をやっていた。
「この辺も急に開発の動きが出てさ……新しい駅前がこれじゃあ、って話になったらしい。ちょうど娘んところで来いって言ってくれてたし、福岡に行こうと思ってね」
「福岡、なんだ……」
少し遠いけどねえ、とオジサン、コンブとオカカを包みながら言う。
「それでも息子んところに世話になるよか、いいかな」
「息子さんもいるんだね」
「ああ。川崎にマンション買って住んでるんだ。でも、いまだに一人モンだしね。それに、全然あてになりゃしない」
子どもの頃からそうだったんだ、不器用でさ、いつもすねてやがって、いいトコロなんてこれっぽちもなくてさ、どこか自虐的な口調で語っている。
サンライズの中で何かが弾けた。
「オジサン」
手をケースの上について、店内に半身を乗り入れる。すがるような目になっていただろう。つい責め口調になっていた。
「本当に、そう思ってんの? 息子さん、本当にこれっぽちもいい所ないのか?」
「ええ?」
オジサンは、意外な反撃にしどろもどろになって答えた。
「いや……アイツだって、まあね、その少しは何か」
ダメだ、春日の時と同じだ。次々と言葉だけが出てしまう。
サンライズは口をつぐもうとしたが、なぜか更にこう訊ねてしまった。
「どんな所?」
そう突っ込まれても、オジサンは怒りだすことなく、そうさなあ……と真剣に考えている。
そこにたたみかけるようにサンライズは言葉を継ぐ。
「何か一つくらいないの? いい所が。考えてみてよ、頼むから」
しかし考えれば考えるほど、何も出てこない、オジサンの目はずっと泳ぎっ放しだった。
ようやく絞り出すようにこう言った。
「ごめんよ、ホント何も思いつかない」
その答えに、つい肩が落ちる。サンライズは一歩店先から下がった。
あまりのしょげようにオジサンはなぐさめようと思ったらしい。
「でもさ、こうしてアンタが息子みたいにのぞきに来てくれるから……」
と言った時、思いのほか強い口調でサンライズはこう言ってしまった。
「オレはオジサンの息子じゃあない。親子はやっぱり、親子なんだよ」
自らが発したことばに、呆然とする。
しばらくの沈黙の後、
「ごめん、何言ってるんだろうオレ」
小さな声でつぶやいてから
「行ってきます」
そう、肩を落としたまま店を後にした。
店が遠くなってもなお、オジサンが見守っているのを、背中で何となく感じていた。




