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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
18/32

07

 ちょっとした会話の切れめに、オジサンがぽつりと言った。

「実は」

 言いにくそうに下を向いた。少し待つとようやくこう続けた。

「今年いっぱいで、店をたたむことになった」

 オジサンの言葉に、サンライズは動きをとめた。


 タカハマ屋に寄るようになってから、四年目になっていた、ある秋の日のこと。


 オジサンは目の前のおむすびに目をやっていた。

「この辺も急に開発の動きが出てさ……新しい駅前がこれじゃあ、って話になったらしい。ちょうど娘んところで来いって言ってくれてたし、福岡に行こうと思ってね」

「福岡、なんだ……」

 少し遠いけどねえ、とオジサン、コンブとオカカを包みながら言う。

「それでも息子んところに世話になるよか、いいかな」

「息子さんもいるんだね」

「ああ。川崎にマンション買って住んでるんだ。でも、いまだに一人モンだしね。それに、全然あてになりゃしない」

 子どもの頃からそうだったんだ、不器用でさ、いつもすねてやがって、いいトコロなんてこれっぽちもなくてさ、どこか自虐的な口調で語っている。

 サンライズの中で何かが弾けた。

「オジサン」

 手をケースの上について、店内に半身を乗り入れる。すがるような目になっていただろう。つい責め口調になっていた。

「本当に、そう思ってんの? 息子さん、本当にこれっぽちもいい所ないのか?」

「ええ?」

 オジサンは、意外な反撃にしどろもどろになって答えた。

「いや……アイツだって、まあね、その少しは何か」

 ダメだ、春日の時と同じだ。次々と言葉だけが出てしまう。

 サンライズは口をつぐもうとしたが、なぜか更にこう訊ねてしまった。

「どんな所?」

 そう突っ込まれても、オジサンは怒りだすことなく、そうさなあ……と真剣に考えている。

 そこにたたみかけるようにサンライズは言葉を継ぐ。

「何か一つくらいないの? いい所が。考えてみてよ、頼むから」

 しかし考えれば考えるほど、何も出てこない、オジサンの目はずっと泳ぎっ放しだった。

 ようやく絞り出すようにこう言った。

「ごめんよ、ホント何も思いつかない」

 その答えに、つい肩が落ちる。サンライズは一歩店先から下がった。

 あまりのしょげようにオジサンはなぐさめようと思ったらしい。

「でもさ、こうしてアンタが息子みたいにのぞきに来てくれるから……」

 と言った時、思いのほか強い口調でサンライズはこう言ってしまった。

「オレはオジサンの息子じゃあない。親子はやっぱり、親子なんだよ」

 自らが発したことばに、呆然とする。

 しばらくの沈黙の後、

「ごめん、何言ってるんだろうオレ」

 小さな声でつぶやいてから

「行ってきます」

 そう、肩を落としたまま店を後にした。

 店が遠くなってもなお、オジサンが見守っているのを、背中で何となく感じていた。


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