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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
17/32

06

 酒が進む。三人とも、酒好きという点では一致団結していた。

 もう1つ、三人の共通点は、カラオケが結構好きだということ。

 今度どこに行こうかと言う話になり、そこからカラオケの話題で盛り上がる。

「よく言ったよな~ジョイックス、カメさんがさあ」

 酒が進んでからはペラペラしゃべっていたゾディアック、しかし急にぴたりと口をつぐんだ。

 サンライズ、箸を止めてゾディアック、それからローズマリーをみる。二人とも目を合わせない。「ついオレ……悪りい」

「謝るこっちゃないさ」

 ローズマリーが明るく言った。困ったように、サンライズをみて笑う。

「ついさ、前の連れのことを思い出してさぁ」

 よく一緒に飲んだんだよな、ヤツも。そう言いながらも目は少し外している。

「その人、亡くなったとか?」

 しんみりしていたので、勇気を出して聞いてみると

「いやそのね」

 意外にも、ローズマリーがあわてて手をふる。

「ちょっとね……体を壊して、飲みに来られなくなっちまって」

「うん、カイシャにはいるんだけど」

 ゾディアックが口をはさんでまた、あっと口を押さえる。

「オレもうヤバい」

「カイシャに、いる?」リーダーなのか?「誰? オレ知ってる人?」

「うん?」

 いったん語尾を上げておきながら、ローズマリーは覚悟を決めたらしく、静かに話し始めた。

「総務に移ったから、今は本名だけどね、カスガヒロミツ」


 あいつか。


 今日、書類を突っ返された時の事を思い出した。あの手首の傷を。そして担架から別の生き物のように飛び出していたあの、血まみれの手を。

「カメさん、て呼んでた、オレっちはね」

 ローズマリーが意味もなく、枝豆の鞘を解体し始めた。

「最後のミッションの後、ずっと入院してたんだけど、つい最近総務に戻ってさ」

「そうなんだ」

 彼の言葉を思い出しながらサンライズは言った。

「たまたま、あのミッションの時、バックヤードにいた。運ばれるのを見たんだ」

「そうか……」

 奇妙な縁かもな、とゾディアックがなぜかシシャモに向かってそうつぶやく。


「特務には戻れない。あのフロアに入るのも怖い」

 と春日がそっぽを向いた瞬間、目の中に本物の怯えをみた。

 心は、全然癒されていないのだ。なのになぜ同じカイシャに戻ったのか。


 二人に聞いてみたが、どちらもそれには答えられないようだった。

 ようやく、ローズマリーが言った。

「行き場所がないんだろうな……他にはもう」

 絶対に他言は無用だ、と居酒屋には不釣り合いな真剣な目を向ける。

「これはオレらと、管理の数人しか知らない。多分支部長と担当医師だけかと思う」

「医師?」

「ああ」ローズマリーの手の中で、枝豆はすでにバラバラになっていた。

「あの時、HIVに感染したんだって。数ヵ月後に検査して判った。体調が安定している間は、カイシャにいるってさ。

 ヤツから直接聞いたから、確かだ。オレはギリギリまでここにしがみついてやる、って……でももう一緒に飲んでくれないだろうな、多分」

 サンライズは残りのビールを飲み干した。苦みだけが、口の中に残った。


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