06
酒が進む。三人とも、酒好きという点では一致団結していた。
もう1つ、三人の共通点は、カラオケが結構好きだということ。
今度どこに行こうかと言う話になり、そこからカラオケの話題で盛り上がる。
「よく言ったよな~ジョイックス、カメさんがさあ」
酒が進んでからはペラペラしゃべっていたゾディアック、しかし急にぴたりと口をつぐんだ。
サンライズ、箸を止めてゾディアック、それからローズマリーをみる。二人とも目を合わせない。「ついオレ……悪りい」
「謝るこっちゃないさ」
ローズマリーが明るく言った。困ったように、サンライズをみて笑う。
「ついさ、前の連れのことを思い出してさぁ」
よく一緒に飲んだんだよな、ヤツも。そう言いながらも目は少し外している。
「その人、亡くなったとか?」
しんみりしていたので、勇気を出して聞いてみると
「いやそのね」
意外にも、ローズマリーがあわてて手をふる。
「ちょっとね……体を壊して、飲みに来られなくなっちまって」
「うん、カイシャにはいるんだけど」
ゾディアックが口をはさんでまた、あっと口を押さえる。
「オレもうヤバい」
「カイシャに、いる?」リーダーなのか?「誰? オレ知ってる人?」
「うん?」
いったん語尾を上げておきながら、ローズマリーは覚悟を決めたらしく、静かに話し始めた。
「総務に移ったから、今は本名だけどね、カスガヒロミツ」
あいつか。
今日、書類を突っ返された時の事を思い出した。あの手首の傷を。そして担架から別の生き物のように飛び出していたあの、血まみれの手を。
「カメさん、て呼んでた、オレっちはね」
ローズマリーが意味もなく、枝豆の鞘を解体し始めた。
「最後のミッションの後、ずっと入院してたんだけど、つい最近総務に戻ってさ」
「そうなんだ」
彼の言葉を思い出しながらサンライズは言った。
「たまたま、あのミッションの時、バックヤードにいた。運ばれるのを見たんだ」
「そうか……」
奇妙な縁かもな、とゾディアックがなぜかシシャモに向かってそうつぶやく。
「特務には戻れない。あのフロアに入るのも怖い」
と春日がそっぽを向いた瞬間、目の中に本物の怯えをみた。
心は、全然癒されていないのだ。なのになぜ同じカイシャに戻ったのか。
二人に聞いてみたが、どちらもそれには答えられないようだった。
ようやく、ローズマリーが言った。
「行き場所がないんだろうな……他にはもう」
絶対に他言は無用だ、と居酒屋には不釣り合いな真剣な目を向ける。
「これはオレらと、管理の数人しか知らない。多分支部長と担当医師だけかと思う」
「医師?」
「ああ」ローズマリーの手の中で、枝豆はすでにバラバラになっていた。
「あの時、HIVに感染したんだって。数ヵ月後に検査して判った。体調が安定している間は、カイシャにいるってさ。
ヤツから直接聞いたから、確かだ。オレはギリギリまでここにしがみついてやる、って……でももう一緒に飲んでくれないだろうな、多分」
サンライズは残りのビールを飲み干した。苦みだけが、口の中に残った。




