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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
16/32

05

「医局で、2ヶ月は付けてるように言われたんだけど……」

 つい弁解口調でそう言うと、ローズマリーは穏やかな表情のまま

「アイツらは何も分かっちゃいないんだよ、世間一般と同じことを言う」

 意外なことにゾディアックもうなずいている。

 ローズマリーが続けた。

「オレらさ、世の中から悪事を無くすとか、紛争を未然に防ぐ、とかさテイのいい理由で何かと汚い仕事させられんだよ。暴力を減らしてやろうと動きまわって、でも実際その裏じゃ何かと誰か血ぃ流したりしてるだろ? つまりは単に弱肉強食の世界に生きているんだよ誰もが。単なるパワーバランスの問題だ。

 だからそうして怪我してるのを見られると、ますます悪いヤツらにツケ上がる隙を与える。弱っているところをできるだけ敵に晒さない方がいい」

 サンライズは真顔に戻る。「うん? 意外な見解だな」

「世の中は案外平和だと思われてる、いや……」

 ローズマリーが少し遠くに視線をさまよわせる。

 先ほどの話とどういう関係があるのか分からず、サンライズは続きを待った。

「そう思い込まされている人間は多いんだよ、そんで俺らは平和幻想を維持する連中に加担しているってワケだ」

「でもさ」

 つい、反論が口を衝いて出た。なぜかタカハマ屋のオジサンの顔が浮かぶ。

「幻想でも平和を感じている人たちは、少なくとも自分からは争いは起こさないんじゃないのかな? だから幻想を抱えてる人が多ければ多いほど」

「そこなんだよ」

 ローズマリーは相変わらず、真面目なのかふざけているのか分からない目をしていた。

「草を食む羊は、実はオオカミなのかも知れない。自分が羊だと思っているだけで、草も食える。そんで群れの仲間も全部羊だと思っている。

 でも、オオカミはやっぱりオオカミなんだ。というより、一般市民という概念じたいが羊とオオカミとのハイブリッドなのかもな。どちらに転んでも不思議はない。俺らはそれを常に注意深く見守る牧羊犬なんだ」

「ふうん」

 サンライズはすっかり考え込んであごに手を当てていた。確かに一理ある。


 しかし、自分たちのやっていることはそこまで『特別』なのか、疑問もあった。


「いや、いやいやいや」急にローズマリーが慌てたように手を振り回す。

「悪いわるい、別にサンちゃんを責めてるわけじゃないんだ。たださ」

「ロージーはね、ケガしてる人みると自分が痛くなっちゃって泣けてきちゃうんだって」

 呑気に間延びした声でゾディアックがそう言うと、ローズマリーがふり返って彼の頭をぱしっとはたいた。

「痛いなあ、オレも頭に包帯巻いちゃうぞ」

「うるせえぞ、ゾーさん」

「サンちゃんのこともずっと心配してたじゃねえか。あの新しく来た人、いつギプス取れるんだろう? 痛いのかな、聞いてもいいかな、ってさ」

「うるせえ」ローズマリーが切れた。

「いいじゃん、心配なの! 痛々しいの何か苦手なんだよ!」 

 結局は心配性なだけなのだろうか。サンライズも思わず笑い出した。

 

 笑いながらも実はよく分かっていた。

 先輩として、ローズマリーは精一杯の警告をしていたのだろう。

 弱みを見せるな。頭から取って喰われないように。


 弱肉強食の世界に身を投じ、すでに百戦練磨の人たちの意見は貴重だが、果たして自分がどこまで承服できるか、それは疑問だ。

 それでも、考え方の違いを終いまで押しつけることなく思いやりを示してくれたローズマリーにも、ゾディアックにも、彼は心の中で頭を下げた。

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