04
その日もとっぷりと暮れた頃。三人は約束の店にいた。
モモちゃんのテーブル席に座ると、
「とりあえず生三つ、あと速効セット」
ローズマリーは慣れたように店員に告げ、おしぼりで手を丁寧に拭く。
「暑っちいよなあ、まだ」
隣のゾディアックに話しかけている。ゾディアックはまずおでこを拭いていた。
彼は口数が少ない。ローズマリーの言う事にいちいち返事はするが、あまりサンライズに直接話しかけることがない。
それでも飲むのは嫌いではないらしく、ここに来るまでの足取りは軽そうだった。
間もなく、ビールが運ばれてくる。
「カンパーイ」
ジョッキを打ち合せ、三人はほぼ同時にぐっと傾ける。
サンライズもかなり喉が渇いていたようだ、きんと冷えた金色の液体が喉を駆け降りてゆく。
ぷはー、三人で揃ってジョッキを置いた。顔を見合わせ、笑いだす。
「やっぱ、コレですね~」
「生ですね~」
「生き返った~」
それから生を数杯お代わり、日本酒にまで手をつける。
そこからは下らない話で色々盛り上がった。
ゾーさんはむっつりスケベで、飲めば飲むほど、人格が変わってくる、二次会には必ず不思議な名前のお店が登場する、ヴェンガ、ベソ、ピロポ等々……必ず可愛らしいオネエサンが迎えに出てくれて
「あら~マッキー(ゾディアックの会社名は牧原だった。でも本名は星野。まぎらわしいカイシャだ)、ひさしブリィねぇ、シャッチョサ~ン」
と優しくしてくれるのだと。
「オレが見つけてきたわけじゃない、紹介してもらっただけだ」
急に酔いが回ったらしい、ゾディアックは大声で弁解しているが、その声に張りが出てきた。
「でも好きじゃんかよ~、そゆ店がぁ」
笑っているローズマリーはもう少し硬派に、ワンショットバーがお好みらしい。
「ホントはね、ホントはひとりでしみじみ呑むのが好きなの、オレは」
「1人じゃねえだろ、オンナとだろ」
「ま、たまたまそこにいればね誰か」
「たまたまじゃねえよ、カウンターで釣り上げてんだろ、いつもさあ」
そんなふうに言い合っている二人を、サンライズは呆れながらも笑顔で見比べている。
「サンちゃん、次何飲む?」
急にゾディアックが聞いてきたので、サンライズは
「ちょっとメニュー見せてくださいよ」
腕を伸ばそうとして、痛めた肩をつい動かしてしまう。
「痛ってえ」
だいじょうぶ? と口々に連れが言っているが、それほど深刻な声音ではない。
「全く、何で新人さんにそんな危ない仕事振ったんだろうねえ。ドンパチなんて俺らでも関わりたくないのにさあ」
まるで他人事のような口調でローズマリーが言って、ぽん、とサンライズの肩を叩く。
「ってえなあ!」つい素に戻ったサンライズにゾディアックが笑いながらも、ローズマリーを押しのけた。
「ロージー、オマエほんとイケメン面して非道いこと平気でしやがる、ごめんサンちゃん」
そう言いながら肩を抱こうとするので
「ちょ、ちょっと止めて下さいよ!」
サンライズは座ったまま壁際まで追い詰められた。
「ホント、痛いんですってばまだ」
「舐めてやろうか、すーぐ治るからぁ」
ゾディアックは飲むと本当に性格が変わるようだ、妙にベタベタしてくる。
「サンちゃんけっこう可愛い顔してるよー、コンタクトにしなよー」
「やめてくださいよー、オレ、そんなケありませんて」
「オレもだよ、いいよ目覚めよう、二人でさー」
「イヤですよ!」
そんな二人を今度はローズマリーがニコニコしながら見守っている。
騒ぎが少し収まるとこう言った。
「サンちゃん、もうギプス取ってもいいんじゃない?」




