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この輝けない日々 弥勒の決死圏シリーズ#02  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 こちら新米リーダー・サンライズ
12/32

01

 今朝も小会議室にひとり陣取り、サンライズはおぼつかない手つきでおむすびの包みを開けた。

 前回のミッションで流れ弾が当たり左肩を怪我してしまっていた。まだ腕を吊っているので手先は使えるが腕全体を動かせない。そのうちに勝手に外してもいいだろうか、と思っていた。

 コンビニのお茶を脇において、まず、オカカの方にかぶりつく。

「久しぶり……やっぱ、うまいなあ」

 つい笑顔がこぼれる。

 平穏なるデスクワークの一日が始まろうとしていた。


 出張から帰って昨日までの1週間に、すでに部長と課長から呼ばれて散々説教はされていた。

 報告書と始末書も書き上げ、もう出張の件は済んだ、と思っていたら今度は総務から呼び出しをくらった。昨日の帰りがけに、デスクにメモが乗っていたのだ。

『なるべく早いうちに、総務課まで来て下さい 担当・春日』

 几帳面な可愛らしい文字。女性なのだろうか。

 眉間にしわを寄せて、彼の出した出張旅費精算書のアラを探しまくっているのだろう。

 それでも『今日中に』とは書いてなかったな、と昨日はそのまま帰ってしまった。

 今日は特にやることもない。午前中のはやいうちに総務に寄って勝負を済まそう。

 そう思って口を引き結び、次はコンブのおむすびに取り掛かる。


 バンコクでの、リーダーとしての初ミッションは諸々のトラブルに見舞われたものの、本来の目的であったインドの物理学者救出については成功裡に終了した。


 当初、部下が3人があてがわれ、外部からの協力者も1人、現地でのスタッフも数人配置されたまではよかったが、部下の1人と協力者は外国人、出張先も初めての場所ということで任務準備中の緊張感は半端なものではなかった。

 しかも外国人の部下はクセの強いゲイの男性、日本語こそ堪能だったが最初のうちは彼を目の敵にしていた。

 また、カナダから来た協力者は天才的とも言える頭脳でありながら、やはり性格的に難しい少年だった。

 ようやくわずかずつではあったが彼らとの信頼関係を築き出して、作戦も軌道に乗り始めた頃、思いがけないトラブルや失敗で、何度も任務遂行に支障が出そうになった。

 それでもどうにか、やり遂げたのだ。

 仲間うちや一般人に死傷者が出なかったことでも、今回の仕事は自分にとっても大きな自信につながった。


 十分な手ごたえを感じて帰国、また通常業務に戻っていた彼だったが、傍からみればかなり危なっかしかったらしい。色んな部署から次々と呼ばれ、説教されたり言い聞かされたり……ようやくひと段落したと思った矢先、今度は総務からだ。


 総務に行って春日のデスクを訊ねると、庶務課の女性が伸びあがって指さしで教えてくれた。

 立派なおっさんだった。がっかりした表情を押し隠し、少し身構えて近づいていく。

 窓際、座ったままのその男は、ちらりとサンライズの顔を見てから先日提出した経費報告書をつっ返してよこした。

 スポーツ刈りでガタイはよさそうだがどこか居心地悪そうに背を丸めるように椅子に腰かけている。

 サンライズが差し出された紙を見ていると、一瞬背を伸ばして脇に立ったままの彼を見上げた。切れ長の冷たい目だった。

「これ、書き方間違ってますから」

 としか言わない。

 サンライズは返されたものをざっと見直す。

 もしかしたらまずいかな、とは漠然と思っていたがやっぱり通らなかったようだ。

 しかし、誰に聞けばいいのか分からない。

「あの……」

 もうデスクの書類にかかりきりになっている彼におずおずと切り出す。

 気難しそうな男だが、他に聞く人がいない。

「すみません、初めて書くんで。どこが間違っているか教えてもらえませんか?」

 春日が面倒くさげにまた、こちらの顔をみた。

 今度は品定めするような遠慮のない見方だ。

「アンタだよね? 今度リーダーになったって言う……」

「はあ」

 更にじっくり観察されている、どうにも居心地が悪い。



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