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小さな結婚活動

作者: りの。

結婚したい。

僕はひたすらそれを思う。ほど強い薄さでそう思う。他の人がどうかわからないからね。

とにかく僕は彼女もできたことがないくせに、結婚願望を抱くようになったのだ。

結婚したい。

もし僕が夫やお父さんになったら、絶えず家の中でもラブラブしてやる。ほんとにだよ。嘘ついてんじゃない。毎日ハグ。はぐはぐ。キスなんて当たり前だよ。愛という定義を毎日色あせないように型作るんだ。

けれどそれが幻想であることもわかっている。だからこそ彼女を作りたいという願望 (それももちろんあるけれど) をすっとばして、はやく結婚したいと思うのだ。現実の壁にぶち当たることなく結婚まで行きたい。現実に当たりたくないがためだ。

けれどいつかはぶち当たることになることも目に見えている。

なにが現実か。そこまで話が戻りそうだけど、僕はそれは自分自身が一番分かっているんじゃないかと思う。アバウトで言ったら直感、詳しく言えば深層意識が、だと思うんだよね。別にフロイトがどうこうって言ってんじゃないんだ。もっと感覚的なもので、内側から自分に訴えかけてくる小さなノイズみたいなものなんだ。僕は、それがその人にとっての現実だと思う。

だから、僕はいつか現実にぶち当たる事になることも目に見えている。自身の奥から生まれてくる小さなノイズを無視したまま、100%幻想に浸るとかならず苦しみがやってくるからね。

僕にできる事はぶち当たった時の衝撃と痛みや苦しみをできるだけ緩和することだ。


玄関を出ると、雀が二羽白い空を飛んでいた。家の中とはうってかわってとてもとても寒い。廊下を伝って横殴りに冬の風が吹いてくる。僕はコートの首元を手できゅっとしめながら、エレベーターへ向かう。

いつも通りの行動だけど、今日は意味合いが全く持って違った。

結婚相手を探しに行くのだ。

僕は胸の奥でそう決心した。さっきまでは、そう、確かに現実うんぬんと言っていたが、確かにそうだとも思う。しかし、今日は時間があるから、結婚相手を探してもいいんじゃないかと考えたのだ。

かといってどこどこへ向かうという明確な目標は持ち合わせていなかった。それは仕方ない、と下がっていくエレベーターの中で思う。

下についてから、僕はとりあえず近くの公園に行くことにした。砂場に、僕の結婚相手がいるかもしれない、と思った。

砂場には誰もいなかった。富士山の形に盛られた灰色の砂の山だけがあった。言い忘れたけれど、別に僕は砂場に遊びに来る小さな女の子を結婚相手として認めたわけじゃない。ただ、エレベーターに乗っている時に灰色の砂場の映像が頭にちらついたんだ。

次に僕はモノレールを乗り継ぎ、海辺へ向かった。

そこはカモメが飛び、大きなくすんだ白色の橋が仰ぎ見るようにあり、ところどころ枯れた草が混じる芝生のあるところだった。

僕は芝生の端にあるベンチに腰掛けた。一人でこういう所へ来ちゃうのはまいっちゃう。自分で行こうと思ったんだけどね。小さなところへ行く一人旅なんて、気分がいいのは家を出て三分間だけだ。あとは見えないものにだんだんと心が圧迫されて、小さな塵がどんどん積もっていく。

そういうわけで、ベンチに座って向かいの化学コンビナートの建造物を眺めているあいだも、僕は憂鬱な気持ちでふさぎこんでいた。

当初の、結婚相手を探すという目的は完全にへし折られていた。こういう小さな思いつきは、家の中でぬくぬくと思い描いているだけで本当は十分なのだ。思い描いて、窓から空と景色を見て、そしてテレビを見ていれば十分だったのだ。

だんだんと心の中で立つ僕の場所や軸なんかが分からなくなってきて、わけもわからず不安に押し込められそうになっていた時、小さな悲鳴が聞こえた。

きゃあという品のある小さな叫び声の方を振り返ると、赤いコートを着た女の子が黄色くて白いヒモのついた風船に向かって手を上げ小さなジャンプをしていた。その黄色い風船はだんだんと強い海風にあおられながら上っていった。側にいた黄色いダウンを来た男の子もそれを複雑な表情で見ていた。もしかしたら、男の子がおどかして、それに驚いて風船を放してしまったのかもしれない。奥の方に母親らしい人がいて、その風船を見上げながらあーあと言っていた。

結婚相手を探すのはやめた。


今回はそれで良かった。


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