後編
Cotton Candy 後編
「いろいろ参考になったよ。じゃあ、またな」
「ああ、コーヒーご馳走様」
藍崎は軽く右手を上げると歩きだした。
そして自動販売機の前で、立ち止まりもそちらを見ようともせずにコーヒーの缶を投げた。
と、缶はものの見事に「あきかん」と書かれた丸い孔の中に吸い込まれていった。
う、くそ、かっこいいな。何であんなことができるんだ。顔がいいだけじゃなくて、そういうところももてる要因なんだろうな、いや、別にうらやましくなんかないぞ。
ホイッスルが鳴った。
試合終了か、途中から忘れていた。
子供たちが一斉にベンチへと戻ってゆく。
それをしおに俺も立ち上がった。
自動販売機の前で、藍崎の真似をしてみようかと一瞬思ったが、失敗したときに缶を拾いにいく情けなさを思うと実行できず、しっかり狙いをつけてから投げた。
缶は孔に吸い込まれ、軽い音を立てた。ちゃんと見てれば入るんだけどな、俺だって。
陽は完全に落ちて辺りはもう薄暗い。
やっぱり、隣に美紅がいないのはさびしいな、そんなことを思いながら家路についた。
その夜。
9時過ぎに携帯が鳴った、美紅からだ。急いで電話に出る。
「もしもし、美紅?コンサート終わった?」
“うん、今帰る途中。今日ね、お父さんもお母さんもいないんだけど”
「朱里さんは?」
“デート”
「じゃあ迎えに行くよ。今どこ?駅?」
“ううん”
美紅がそう答えると同時にドアが開いた、そして。
「ここ・・・」
ピンクのワンピースを着た美紅が携帯を手に照れたような表情で立っていた。
「みく・・・」
すごいサプライズ。
俺は美紅の傍に駆け寄り思い切り抱きしめた。
「コンサートのあと、みんなで飲みに行こうって言ってたんだけど、どうしても蒼くんに会いたくて、用事があるって、あたしだけ電車降りちゃった」
なんだかものすごく感激してしまった。好きな人がいるって、そしてその人が自分を好きでいてくれるって素晴らしい。
俺は美紅の桜色の唇にキスした。
「甘い・・それにイチゴの香りがする」
「あ、うん。さっきコンサート会場の前でコットンキャンディ売ってて。これなんだけど」
美紅は大きめのペーパーバックからシュガーピンクのコットンキャンディを取り出した。
俺にとっては美紅がコットンキャンディだ。甘くてふわふわで、いいにおいがする。
そういえば、今日着てる服もピンクだし、ぴったりだ。
「ふたりで食べようと思って買ったんだけど、ちょっと味見しちゃった」
「うん、とにかく中入って」
今、すごく幸せ。
甘いザラメが空気を含んで雲のように膨らんだコットンキャンディ、まさにそんな気分。
美紅の肩を抱きながら俺はそんなことを考えていた。
ふと藍崎の顔が浮かんだ。
“好きな女を抱くってどんな気持ちなんだ?”“唯一特別な存在、か。なんだか羨ましいな”
藍崎は、いつも女の子に囲まれて楽しそうだなと思っていた。
でも・・・
もしかしたら
「幸せ」というわけではないのかもしれない・・・。
藍崎くんはなんでそんなことができるのか。
実はちゃんと理由があります。
もちろんスゴイ技ではありますけどね。
ちょっとライバル心を燃やしてる蒼くん、こういうことに燃えてしまうって男の子っぽいなあ。
藍崎くんも蒼くんがいたからやってみせたんでしょうけど。




