閑話 野球部ですよ
「日垣!そんなキャッチで公船の奴らを止められると思ってんのか!」
「すみません!もう一球!」
「言われなくともぉっ!」
罵声が響き渡るグラウンド。天上学園の野球部と言えば県内の超強豪校として有名である。毎年目の肥えたスカウトが全国から連れてくる選手たちは、大会でめざましい活躍をあげている。
ただいま絶賛ノック中。受けているのは野球部部長の日垣戴介である。
コーチが放つ打球を既に200球は受けている。今年やってきたコーチは血気盛んで、着任早々部員たちはしごかれていた。
「先輩、日垣部長大丈夫ですか…?」
ベンチから見守る新入部員が心配そうに呟く。
「…大丈夫だろ。あいつはそこまでやわじゃねえよ。むしろ…」
そっと視線を落とす先輩部員。そのただならぬ様子に問いかけた彼ははっとする。
グラウンドの上では日垣が足元をふらつかせながらノックの終盤にさしかかっていた。
「これで最後だ!止めろ、日垣!」
「え…?は、はいっ!」
既に限界が来ている足を踏ん張り日垣が構える。
最後の一打。放たれたボールを日垣は身体で止めた。
「くっ…」
「…っ、日垣!よく止めた!それでこそ天上のエースだ!」
「部長!大丈夫ですかっ!!」
バットを置くコーチ。ベンチから駆け寄る新入部員。
「来るなっ!!」
「「!?」」
日垣が鬼のような形相で叫んだ。
「部長…」
「大丈夫だ、一人で立てる…。それより、コーチ…」
「ど、どうした…?」
ゆらりと立ち上がった日垣はコーチを見据える。ただならぬ様子に彼は息を飲んだ。
「まだ…足りません」
「なっ…」
「まだ、やらせてください…!」
「馬鹿言うな!300球受けたら十分だろう?もうそんなに足元もおぼつかないだろ…」
「お願いです!足りないんです…、もっと、もっと…」
「お前、そんなに公船との試合に…」
「もっと…っ、痛めつけてくださいっ!!!!!」
コーチ「え?」
新入部員「は?」
おかしいな。春なのに寒い風が吹いた。
先輩部員は固まった二人の男と、どこか恍惚とした顔でおかわりをねだるチームメイトの姿にため息をついた。
天上学園では有名な話。
野球部長、日垣戴介は真性のどMである。
こ れ が や り た か っ た
レーティング的にアウトですか…?