まずは一歩からですよ
2012.5.5 改稿!
春。4月。桜舞う入学式。
まだ馴染めず、制服に着られているような心地もまた相応しい。来るべき新しい世界へ少年の心は弾む。弾んで弾んで空のツリーに跳びあがれそうだぜ!
「天上学園…、ここがオレの新しい…」
見上げる校舎は築60年。昭和モダンの香り漂う古くも豪奢な装い。
これまたいかめしい校門に一歩足を踏み入れれば、既に多くの人で賑わう声が遠くにあった。
見れば早くも新入生勧誘にいそしむ部活動がある。苦笑しながら少年はその様子を眺めた。
サッカー部に野球部の定番系から、少林寺拳法とかジャグリングとか少し変わったものも。どこの部活も新入生と見れば即座にダッシュしまとわりついていた。
面倒にならないうちにさっさと行こうと少年は足を速める。
「――――――――…ーぃっ!」
ふと遠くから呼び声が聞こえた。ダダダダダ。走る音が近づいてくる。
ダダダダダダダダダダダ。
って随分遠くだなあ。これも勧誘なんだろうか?
「一体どこの…」
少年が振り向いた瞬間だった。
「ぶーかーつーにーーーっ、入れぇ―――っ!!!」
宙に浮いた少女がツインテールの髪をなびかせ自分へと飛び込んでくる。
「――――――っ!?」
まるでスローモーションのように魅入られて、少女が自分の元に落ちてくるのを見つめる。
大きな瞳。きらきらと輝く笑顔。眩しくて、これはもしや運命の出会いだろうか。少女の笑顔につられて自分も微笑もうとしたその時、
「―――――うぐっ…!」
走り幅跳びのように少女の泳いだ足が腹に決まり、少年は痛みと共に意識を遠のかせて背中で地面をずざざざざと滑るのだった。
「…ありゃ、やっちゃった。おーい、生きてますかー」
能天気に呟いた少女は少年の頬をぺちぺち叩く。むろんぐったりとした少年はそれぐらいでは起きなさそうだが。
ざわざわと衝撃の瞬間を目撃したギャラリーはじりじりと少女と距離を取りながらなりゆきを見守る。
「お」
自分を取り囲む人々に気付いた少女は目を輝かせた。ぎくっと皆こわばる。
「そこのあなた!」
ずびしっ!と人差し指をつきつけ宣言する。小柄で、ツインテールなだけの一見普通な少女。なのにどうして、皆その動作一つ一つを目で追う。少女は告げた。極めて明朗に。
「私たちの『部活』に入りませんかっ!?」
そこにいたのは一人の少女と倒れた少年。そしてそれを呆気にとられて見つめる人々だった。