彼の写真を撮る
「こっち向いて」
私は彼に言うと、シャッターを押す。
パシャリと音がし、彼が眉根を寄せる。
「何それ?」
彼が指差してくるので私はカメラを彼の前に出し、嬉しそうに答える。
「これね、使い捨てカメラっていうの。新しいものが出たから買ってみた」
「使い捨てカメラ? 何だ、それ?」
彼が腕を組み、難しい顔をする。
どうやら理解できないらしい。
私はカメラを近づけると、またパシャリと撮る。
まるで動物園にいるライオンみたいに、彼は静かに怒っているようだった。
私はまずいと思い、追加で説明する。
「あのね、充電とか気にしなくていいし、白黒加工にできるの。便利なカメラなんだよ」
「…へえ。珍しいものなんだな」
「親に聞くといいかもしれない」
「そうか。…で? 俺を撮ってどうするんだ?」
「どうって、その、好きな人を撮っておきたいものなのよ。お守りにもなるし」
「そういうものか?」
「そういうものだと思って」
もう1枚、パシャリと撮ると、私はカメラをおろす。
「現像できたら、欲しい?」
「くれるのか? お金は?」
「いいわよ。そんなに高いものじゃないし」
時計をちらりと見れば、あと1、2分しかなかった。
私は彼から離れたくなくて、ぎりぎりまで粘る。
まるで親に懐く小鳥みたいだと自覚があるが、それだけ彼は特別な存在だった。
私の守り神様だもの。
ドキドキしていると、彼が手を差し出してくる。
「ちょっと待った。カメラ、俺に貸してくれる?」
「え? どうするの?」
「俺も1枚、撮ってみたくなった。貸してくれる?」
「いいけど」
私は躊躇なく、カメラを彼に貸す。
「ここを押せば撮れるから」
「おう」
彼は答えると、カメラをくるくると回し、全体を眺める。興味あるらしく、まるで肉を手にしたライオンみたいだなと、ふふと笑う。
「あ! そのまま。動くなよ」
そう言うと、彼はパシャリと撮った。
いきなりのことに、私はびっくりする。
「モデル、私で良かったの?」
「いいの。それより…あ、先生が来た」
「まずい。私、席に戻るね」
カメラを受け取ると、自分の席に戻る。
急いでカバンにカメラをしまうと、先生が教壇に立つ。
次は社会の授業で、私的には嫌いではないのだが、数学みたいに答えがすぐに出るほうが得意だった。
「起立!!」
当番が言うので、私は席から立ち上がる。
先生は大人しいタイプの人で、馬みたいな感じだった。
さて、授業を頑張りますか。
席に座ると、私はシャーペンを持ったのだった。




