40勝手目 永倉と斎藤(3)
「別にいいんじゃん。住めば? 部屋空いてんだろ?」
「空いてますけど……」
沖田の問いに伊東は戸惑った様子で答えた。沖田は樺恋の隣に胡座をかいて座り、向き合うようにして体を向ける。
「あん時、アタシが探せって言って、来る時はケーキ持って来いって言ったから来たんだろ?」
「うっ……んッ……」
しゃくりあげる声は、呼吸も苦しそうだ。
「うちには永倉はいねぇし。ギャアギャア泣いてんのもウゼぇし。勝手に生かした責任はあるし。ただ住むだけなら、別に大人とか子供とか拘らなくていいじゃん?」
「だけど、僕らのやっている事を目の当たりにしたらトラウマになるかもしれないんだよ?」
体の一部が取れたまま帰って来たり、血だらけだったり、生傷だらけだったり、グロテスクな見た目に子供は耐えられるか?
晴太が心配しているのはそこだろう。さらに、樺恋を求めている沖田こそ、重症を負って帰ってくる。
「嫌なら出てけばいいんだよ。いちいち細かい事に拘らなくていいって。新撰組に永倉は必須だしなぁ」
沖田は話は終わりだと立ち上がり、ケーキを食おうと台所へ向かう。相変わらず自由で身勝手だ。
樺恋はその気になってうっすら笑顔になり、沖田を小さな足で追いかけた。
「私は構わないわよ。洋がいいって言うんだもの」
「ネリーも! 小さいコカワイイシネ」
祈とネリーは賛成らしく、ネリーは口の横にクリームをつけて手を挙げる。拭けよ。
「まぁなぁ……晴太の言う事もわかるよなぁ……うーん」
「珍しくまともな反応するんですね」
「秀喜はおれの事なんだと思ってんの?」
「債務者ですかね。……オレは賛成も反対もしません。迷惑にならなければ、特に」
学と伊東は微妙な反応だ。
「ボクは……生かした責任って言われたら……取らなきゃなとは思う……や。一応、お兄ちゃんなんだし……妹の意見は尊重するよ」
びくびく肩を震わせて、オドオドと答えるのは洋斗だ。洋斗が自主的に助けたわけじゃないだろうが、沖田の血縁者ともなると情が湧くらしい。
晴太は深いため息をついて座卓に突っ伏した。両手を拳にし、一度大きく叩いて濁点のついた叫び声を上げる。
「わかったあ! 洋がいいならいいよ! 責任? そったのなんぼでもどってけるよ!」
「ちょろいし鈍ってるし、晴太は本当に洋の犬だな」
「犬の方がマシさ! あの飼い主は撫でてもくれやしないのにさ、僕って本当にちょろい! イヤッ!」
晴太を犬で例えるのだとしたら、勢いが凄まじくて飼い主でも扱いきれないだけなのでは……と考えてしまうのは俺だけか?
というか、いざ撫でられても興奮止まずに暴走し、ドン引きされているだろうが。
「何やら単純そうで複雑な関係のご様子……樺恋様の前ではくれぐれも性的な発言はなさいませぬよう……」
「安心して。コイツとコイツが勝手にヤバいだけよ」
宇吉が手を合わせると、祈は晴太と伊東を指差した。伊東は「何故自分まで、晴太とは無関係だ」と言いたげな顔をした。
樺恋に悪影響を及ぼしかねないのは伊東の方だ。部屋も訳のわからん造りになっているし、気を張って置かなければ。
「樺恋様のお世話はこれまで通り宇吉が行いますが、ご迷惑をおかけする事もあるでしょう。その時はどうか、寛容な心でご容赦頂けますと幸いです」
手を揃え、頭は畳に付くくらい頭を下げる。宇吉は丁寧に受け入れた事への感謝なども述べた。
しきりに、迷惑を……と気にしているが、それはお互い様だ。他人同士が集まって生活するのだから、迷惑はかけるしかけられる。楽しい事ばかりじゃなかろう。
皆が同居に前向きで、これから芽生える感情の中に"沖田を救いたい"という気持ちがあれば、俺は大歓迎だ。
あの沖田が樺恋と宇吉を受け入れた。それだけで拒否する理由はないんだけどな。
親の居ない樺恋が自分と重なったのかもしれない。
永倉も加われば、いよいよ新撰組らしくなってきたじゃないか。
と、ここであることに気づいた。
「そういえば、苗字聞いてなかったな」
「ああ、すみませぬ。宇吉は宇吉と呼ばれる事が多いので苗字は殆ど名乗りませんで……」
樺恋と宇吉は血縁者ではないのであれば、苗字は違うはず。苗字が新撰組ではないからと言って拒否することはないのだが、そこは揃えたいと思うのが普通の感情だろう。
宇吉は背筋を伸ばし、両目の目尻にある泣きボクロを指さすようにチャーミングに歯を見せて笑う。
「宇吉は斎藤宇吉と申します。ありゃ、宇吉も新撰組ですなぁ!」
苗字を聞いて安心するのは失礼だろうか?
ブレずに揃って良かった。どうせ一緒に暮らすなら新撰組と綺麗に名乗った方がいい。
伊藤は父親に揃いのジャージを発注し、早くも受け入れに納得しているようだった。
大人だけで和んだ空気でいれば、そうはさせまいと嵐が帰ってくる。沖田と樺恋が台所からケーキの箱を抱えて慌てた顔をしているのだ。
「冷やかしてんじゃねぇぞ、バカ!」
「宇吉ぃ――! ケーキが無いわよ! どこやったの!?」
「はて? 倒れてからの所在はわかりませぬが……およよよよよ? 8人と聞いておりましたから10個買って来たはずですが!?」
大箱の中に入っているのは僅か5個。犯人はそれを隠さず、無自覚で自首している。
「ネリーは食べてナイヨ!」
知らないと眉毛を釣り上げてもダメだろ。どさくさに紛れて食ってるところは見たし、クリームもついているし。
「ネリーの悪い癖でちゃったぁ……ダメだよ、これからは人の食べ物まで食べちゃ」
「わかっテるんデスケド!」
大好きな洋斗にも逆ギレする始末。食い気は人を狂わせるのか?
ケーキを食べる権利は、給食で残ったデザートを争奪するかのような熱気でジャンケンして決められる。
長い激闘の末、沖田、学、晴太、洋斗、ネリーが食べれる事となった。洋斗は樺恋にケーキを譲り、ネリーにゴニョゴニョと小言を言っている。
ネリーも参加してるのは意味不明過ぎる。お前に参加権はないだろう。
どんな集まりにも言える事かもしれないが、個性が強すぎる奴らが集えば問題も起きる。
局長である晴太が沖田にちょろい以上、副長の肩書きを貰った俺がしっかりしないといけない。
10人が平和に暮らすための規律を作り、秩序を守らねば。片付けが済んだら調べて案として提案しよう。
史実の新撰組だって局中法度があったんだ。うちにも作らねば。
腕を組み、天井を見上げる。簡単な物を頭の中で浮かべていると、沖田が口に何かを当てて来た。
「土方、ほら」
「ンッ?」
唇にふわっとクリームが当たる。無理矢理口に入れ込まれると、それはチョコレートケーキだった。
「特別にちょっとだけやるよ」
こんな人前で堂々と。恥ずかしげもなく。勿論晴太と伊東は騒ぐ。晴太は1人でケーキが食べれない体質だと嘘をつき、伊東は無言でフォークを沖田に差し出している。
あぁ、本当に厄介だ。期待と不安と不安が入り混じる。
「誤解される接触禁止!」
大声で規律を叫ぶ。面倒なのと恥ずかしいのと。気持ちは嬉しいし、今初めてこんな事をした訳ではない。
が、沖田を意識していることを自覚してからはやはり胸がむずむずと痒くなる。
10人で始まる共同生活。集まる理由は沖田の呪いを解くためだ。
大人や子供、生まれや育ちに拘らない沖田の周りに、仲間が増えていく。
-4我儘目 新撰組は拘らない〈了〉-




