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40勝手目 永倉と斎藤(1)

突如、思い出したとクラクションのような短い大声を出した。今度はなんだ。


「そういえば伊東。私と土方と晴太くんを旅行に連れて行けよ。秋田の時に約束しただろ!」


 散々金使わせて置いて図々し過ぎる。しかしこっちは伊東だ。普通の人間なら渋るところをスンと屁でもない顔をして受け入れる。


「連れて行きますよ。洋だけ、なら」

「はあ? そんなんダメだ! もうすぐ私の誕生日だからな。例年通り、プラス皆で京都に行くぞ」

「例年通り?」


 沖田の誕生日には毎年京都へ行っていた。土方家プラス沖田が多かったが、近年は俺と2人で京都へ行っている。


 そこで普段着ているパーカーや生活必需品を、新撰組をモチーフにしたもので揃えるのが毎年恒例の過ごし方なのだ。


「禁忌の時、知らない子供にパーカー渡して1着足りないしな。ってなわけで来週の誕生日は旅行だ! おーい! 11月11日は絶対旅行に行くぞォ!」


 沖田は伊東の返事を待たず、廊下に向かって叫んだ。他のメンバーがひょこひょこと顔を出し、旅行という言葉に目を輝かせる。


「……夢も見させてくれないんですね」

「そういうヤツなのわかってたろ……」


 伊東は少し落ち込んだ様子を見せるが、また少し黙って目の光を無くす。

 多分コイツ、またなんかよからぬ事を考えたぞ。病みすぎだ。歪んでる。愛が重い。幻覚だが伊東から黒いモヤが見える。闇深いヤツだ……。


樺恋かれん様ァ! いけませんぞ! 人様の家に勝手に上がり込むなど……」


 ネリーはのどかなところだと言っていたが、こんなに広い敷地なのにも関わらず、外から特徴のある口調の男声がする。


 近所の家も遠いのに、よく声の通る……そんなわけあるか?


「たのもぉ!」


 声は玄関から、引き戸が勢いよく開く音と幼い女児の声がする。


 玄関へ皆が集うと、毛先がお嬢様を思わせるキツめのカールがかかったツインテール。そして丸襟に貴賓ある紫のワンピースを纏った小学生くらいの少女が立っていた。

 なんとも自信満々な、道場破りに押し掛けるような面構えだ。


 皆がキョトンとする中、少女は俺達を順に見る。いないと目を細め、ため息までつく始末だ。

 外にいる誰かに向かって「宇吉うきちのウソツキ! 居ないじゃない!」と顔をむくませる。


 自室から遅れて出てきた沖田を見つけて靴を脱ぎ捨て断りもなしに家の中へと入り込む。そして沖田へ駆け寄り、腰に飛びついた。


「あ! 見ぃつけた!」

「うお、なんだ!? 誰だコイツ!」


 誰も状況を理解できない。警察に電話するべきか晴太が迷っていると、少女はそんな事はおかまいなしと黄色い声で沖田と連呼する。


 一体誰の子供だ? やっと見つけたって、まさか――いや、沖田に隠し子なんて居るわけない。生き別れの兄弟もこれ以上いられてたまるか。


 祈は柔らかい口調で優しく諭して両親の元へ返そうとするが、少女は沖田からひっついて離れない。

 

「ずっと探して、やっと会いに来たの! ケーキも持って来たわよ!」

「ケーキ……ケーキ? あ! もしかしてあの時の子じゃないかなァ! 洋さんと助けた子!」


 何の事か思い出せない。そんな事あったか? と、どこかに記憶の片鱗がないかと海馬を泳ぐ。

 

 洋斗はなんで皆して覚えてないのさと顔を真っ赤にすると、沖田が手を叩いて洋斗の顔を指差した。


「車に閉じ込められてた子供か!」


 少女が沖田の腰から少し離れ、にっこりと歯を見せて笑う。だがすぐに眉を吊り上げて、お前じゃないわと訂正した。火の玉のような子供だ。


「あたし、永倉樺恋ながくらかれん! 外で倒れてるのは宇吉うきちよ!」


 名前を言われてピンときた。永倉、永倉――あの夫婦の子供か、と。

 待て。永倉夫妻の子供だと? ならなんだ、沖田達が助けたのはあの夫婦の子供だったって事か。


 良く考えればわかる事だが、三日三晩寝ずに沖田達の帰りを待っていたんだ。頭が働かないのは仕方がなかった。


 永倉樺恋が当時何歳だったのかはわからないが、明らかに成長してその後の人生を続けられている。


「助けた時はこんなにデカくなかったぞ?」

「だってあの時から5年くらい経つもの! あたしね、いっぱいいっぱい探したんだからね! (てんてん)の服も大事にしてるの!」


 さりげなく下の名前で呼ぶ。持って来た荷物の中から、時間が経過してくたくたにヨレたパーカーが顔を出す。

 

 ついこの間まで着ていたパーカーでも、少女からすれば成長共に連れ添った宝物らしい。


「あぁそう。つか、なんでここに来れたんだ? アタシ達も今日引っ越して来たばかっかりなんだぞ?」

「ふふん。そんなのカンタンなんだからね! 宇吉ィ――早くゥ――!」


 誇らしげに腕を組んで威張るのだが、何度も「宇吉」と外へ向かって呼んでも誰も来ない。

 

 ……そう言えばさっき、男の声がしなかっただろうか。そして倒れてるとか言わなかったか?


 俺は樺恋へ聞くより先に靴を履いて外を見た。玄関へ向かう中腹で、髪の長い人間がだらりと倒れている。


「祈! 人が倒れてる! 兄貴も来い!」

「どこによ! もう!」

「宇吉って奴か? ったく、全部意味わかんねぇ」

 

 2人共に男性へ駆け寄ると、白目をむいて倒れている。体の周りには1人で持つには多すぎる荷物が散乱し、腕や手のひらも真っ赤。


 風が吹くと絹のように靡く、ツヤある黒髪。そして人力車の俥夫のような格好が目を引く。紫と紺が混じったような法被をきっちり生成色の帯で締め、黒色の股引きに少し足首を見せ、足袋に草履。


 この時代によくこの服装で歩けるもんだ。俺なら3度見してしまう。

 

 祈は気絶してるだけだと思うと言うので、学と2人で男性を屯所へ運んだ。

 まだ誰も使っていない新品の布団に寝かせ、気がつくのを待つ。その間に洋斗と晴太が転がっていた荷物を運ぶのだが、手が引きちぎれる等悲鳴が聞こえて来た。


 男2人が何往復もして運んだ荷物を、1人で持ち運んだっていうのか?


 この男といい、永倉樺恋といい――一体何しに来たんだよ。


 

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