37勝手目 でしょうね!(1)
夜はだんだんと深くなる。秋の月が一際大きく見える日に、大事な事を告げるのは運命的な物を感じる。
部屋の窓を少し開け、スッと肌を撫でるような涼しげな風は澄んでいて気持ちがいい。
洋の来訪を待っていると、扉を勢いよくノックする音が響く。
加減を知らないのか、わざとなのか。
扉を開けると大きな欠伸をしながら、よぉと一言息を吐く。
部屋の中へ通せば、小豆色の座布団の上に胡座で座ってもうひと欠伸。
「早く話せよ。眠くなってきた」
「……眠気も吹き飛ぶ話だと思いますけどね」
「何だ?」
「もう1人呼んでるので、もう少し待ってください」
ちょっと不満げにテーブルの上にあった置き菓子を食べ始める。食べ終わるとそこに寝転がり、来たら起こしてと言って目を瞑る。
寝れないと言っていた数日前までは、家に2人でいればゲームをしたりしてコミニュケーションを取っていた。
仕切りはあったものの一緒に寝ていたし、毎食2人で食べていた。
晴太と共に新撰組を発足し、皆まとまって一件落着となったのは素直に喜ばしい事。
だけど、自分の感情を理解した今は洋が遠くに行ってしまった気がして寂しくも感じる。
呪われていても、彼女が苦しくないのであれば、家に置いてあの生活を続けても良かった。いや、続けたかった。
もうあの日々が戻らないのだと思うと苦しくてたまらない。
人の気持ちは金で買えない。どうにかして不死の呪いとやらに罹り、皆が死んだ後に独り占め出来ればいいと思うしかない。
だからと言って、早く死んでくれとは思いませんけど。決してね。そんな事は思った事ありませんけど。
無防備に寝息を立てる洋の頬をに指先で触れる。手が止まらなくなって唇に触れると、寝返りを打ってそっぽを向かれた。
「1回はしてるんだから、2回も3回も同じなのに……」
「何が?」
洋に向かって言ったのに後ろからは洋斗の声がする。
腰に手を当ててオレを見下ろし、顔を引き攣らせている。部屋の中に入って来れているのに不快感を感じた。
「ドアをノックするとかあったでしょう」
「めちゃくちゃしたよぉ! 扉だってねぇ、中途半端に閉まってたよ! ボクの事をどういうつもりで呼んだんだぁ!」
どういうつもりかと言われると、真面目な話をするために。呼んでおいて何ですが、邪魔されたと思ってしまうんだから仕方がない。
「ずっと変だなぁって思ってたけどさぁ! どうして突然ワイシャツを白に変えたり、黒に黄色が入ったものを身につけるようになったのさ! 察しはつくけどねッ!」
答えがわかっているのに聞くなんて。ワイシャツは洋が白の方が似合うんじゃないかと言ってくれたからだし、なんなら同じものを揃いで着れると思って変えた。
黄色が入った小物は洋のイメージカラーが黄色だからで、差し色があるだけで気分が明るくなる。そのまま伝えると、洋斗はカエルの潰れたような声を出して体を震わせた。
「じ、じゃあスマートウォッチは……? 洋さんとお揃いだよね?」
「これは必要だったんですよ。常に心拍数とか血圧、大凡の行動状態の把握や居場所まで解るので便利だなぁと……今回も役に立ったでしょう?」
「怖いよ! もうストーカーじゃんか!」
ストーカーなんて人聞きの悪い。心配してるが故に必要最低限出来る事をしてるだけでしょう。
「例えばですよ? 家族に悪い人間に付き纏われていたら外に出すの、怖いですよね?」
「え? まあ、うん。そうだね?」
「でも四六時中一緒にいてあげられない。そうなったら、こうしてあげた方が安心でしょう?」
「ごめん。ボクには全然理解できないんだけどさ、まず洋さんは家族じゃないからね。そういうのは土方くんに持たせた方がいいと思うよ!」
「ようは家族になればいいだけの話でしょう。《《おにいさん》》」
洋斗は呆れ顔に太い眉毛をピクピク動かした。口をぱっくり開けて、喉の口から声にならない音を出す。
腰にあった手は弱々しく畳に触れ、関節を失ったかのようにへなりと座り込んだ。
「お、おにい、さん……?」
浴衣の襟をはだけさせて、素足を構わず広げる。
なんの冗談? と思うでしょう。寝ている洋を起こして話の本題へと移る。
真面目な話だと再度告げれば、洋斗は身なりを整え正座、洋は胡座をかいて肘をつく。
眠いから早くしろと言うけれど、そんなにスラスラ話せる内容ではない。
書類ケースから茶封筒を取り出し、洋斗へ手渡す。中身は検討もつかないといった表情で互いを見ていた。
「開ければわかりますよ」
「早く開けろ。ちんちくりん」
「その呼び方ヤダ! もう……」
洋に急かされ、封筒の中の紙を容赦なく抜き取った。この2人は互いに似ていることを自覚しているから、意外とあっさりした反応になるんでしょうね。
「きょうだい鑑定報告書……?」
「きょうだい鑑定報告書……」
紙に書いてある太文字を交互に呟き、息ぴったりに首を左右へ傾ける。
洋はともかく、洋斗は心当たりがあるでしょう。すっとぼけているのか、それとも記憶にないのか。
「藤堂洋斗が幸災楽禍洋の生物学的きょうだいである確率はかなり高い……」
「どういうこと?」
「なんか難しいねぇ」
その一文で十分でしょう! 2人でいると精神年齢どころか知力も下がるんですかね!?
紙に人差し指を叩きつけ、大事なところにマーカーを引くように指を指す。
「全きょうだい確率ってとこ見ればわかりやすいんじゃないですか? 99.9%ですってよ。つまり、2人は兄妹である可能性が高いってことです」
「……えぇ?」
2人揃って反応が薄い。またまたそんな冗談をと、ほぼ決定的な結果を目の前にしてそんな反応あります?
いくら似てるからってそれはないよねと、のほほんとしているのも理解できません。
洋に至っては「土方からパソコン借りてくる」と言って部屋を出て行ってしまって。
紙切れじゃ信用ならないって? そんなバカな。ちゃんと本物、正真正銘DNA鑑定の結果ですけど。
やがて守がノートパソコン片手に浴衣の袖を引っ張られて部屋へのこのこ入ってくる。
改めて2人並んでいるのを見ると、異性の幼馴染って邪魔だなぁと心の中の狂気的な気持ちが蘇る。
「何を調べろって?」
「伊東がアタシとこのちんちくりんを兄妹だって言うんだよ。兄妹がいるなんて、お父さんとお母さんも言ってなかったよな?」
「あんな酷い扱いされても聡さんと葵さんを親だと思ってるのか?」
「だってあの2人しかいないもん。じゃあ土方んちのおじさんとおばさんのこと、お父さんとお母さんって言う!」
「あのなぁ、そういう事を平気で口に出すものじゃないぞ……」
目の前で何を見せられてるんですかね。岩手の一件までならなんとも思わなかったのに、今は見ているのが辛い。しんどい。苦しい。殺意が湧く。
守がちょっと口元をにやけさせているのが気に食わない。やっぱり幼馴染って邪魔だ。
「この紙が本物か証明してください。今すぐ」
「顔怖……なんだこれ。DNA鑑定の結果?」
顔に押し付けるように紙を見せる。両手で紙をとり、一つ一つの文章を読み込むと、みるみる目が大きくなっていく。
「本物だし、どっから見てもお前ら兄妹だろ……何で疑えるんだ」
「え」
守を真ん中に洋と洋斗が紙を覗き込む。生物学的上はわからなかったと言うものの、それでも他の箇所でわかるでしょう。
「だから言ったじゃないですか。洋斗から夏に髪の毛を受け取りましたよね?」
「そういえば……そんな事あったぁ!」
頭をぐしゃっとすると、神霊庁の人に監視されるぅ! と涙みながら驚きと絶望混じりのそれは長い絶叫が部屋に響く。




