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36勝手目 期待はするもの、されるもの(2)

「唐揚げだぁ!」


 唐揚げに目を輝かせるのは沖田と洋斗だ。大テーブルに並べられたオードブルの中で、存在感を示しながら鎮座する。


 他にもふっくらとした鮭とオレンジのイクラが眩しいはらこ飯、親子丼のように卵をまとった油麩、小麦粉をもっちりとさせたはっと汁――、郷土料理が所狭しと並ぶ。


 それなのに顔の似た2人が食いつくのは唐揚げ。まるで子供のようだ。

 全て自分のものだと取り皿に置いていく姿までそっくり。


 顔だけじゃなくて味覚までそっくりなのか……。


「ボク唐揚げ好きなんだよねぇ」


 洋斗の顔の周りに花が咲く。ニコニコとご機嫌に、幸せそうな笑みを溢す。


「は? アタシが好きだから唐揚げがあるんじゃないの?」


 それに対して沖田は喧嘩腰。自分の飯を取られたと目を鋭くして洋斗を睨む。

 21歳と25歳が唐揚げ如きで本気で喧嘩するんじゃないよ……。


「えぇ? ボスぅ! ボクのためだよねぇ?」

「祈が帰ってきたら唐揚げ作ってくれるって言ってたもん! これはアタシのだかんね! ねっ、祈!」


 私が作ったんじゃないわよと、沖田の更に野菜も取り分ける。沖田は唐揚げが置けないと騒ぎ、その隙に洋斗はありったけの唐揚げを皿に盛った。

 大人気ないにも程がある。


「だぁッ! もう2人で全部食っていいから半分にしろ!」

「ちぇッ」


 学が新しい皿に唐揚げを一つずつ分けてあげた。2人は頬を膨らまして不貞腐れているが、いざ皿を受け取ると同じ表現をしながら席に駆けていく。


 お兄ちゃんと呼んでほしい、お兄ちゃんとして扱われたいと俺に言うが、この2人といる方がしっくりくる。

 望んだ通りにお兄ちゃんをやれているんだ、本当だろうに。


「2人合わさると精神年齢が下がるのなんなんだ……」

「似てるから安心するんじゃない? 甘えてるのよ、お互いに」

「なるほど……」


 祈の言葉には妙な説得力があった。沖田は俺にも見せないような気の強さで洋斗にぶつかっていくし、洋斗もそんな感じがする。


「土方ァ! レモン持って来て!」


 久々に聞いたセリフ。本当に帰って来たんだなと実感する。相変わらず声はデカいし、人目は気にしないし、人使いが荒い。


 多分意味はないのだろうが、隣の席に座ると膝をくっつけてくる。絶対に意味なんてないのに、意味があるんじゃないかとネットで検索してしまう愚かさは若いが故だろうか。


 2ヶ月ぶりのやり取りにドギマギしてる自分が情けなくて自己嫌悪に襲われる。普通を意識しすぎて普通になれないのだ。


「どうせ食べないくせに」

「今日は食べれる気がすんの!」


 何十回、何百回繰り返されたやり取りも今日は新鮮に思えた。カットされたレモンを適量唐揚げにかけて、食べてみろと差し出した。


 もちろん、その唐揚げに手がつけられる事はない。食べれるようになりたいだけであって、食べたいわけでないのだ。


 箸で挟み、口元まで唐揚げを運んでも決して口を開ける事はない。渋い顔をして皿に戻すのも以前と変わらない。


「やっぱ土方が食べて」

「はいはい」


 今までは残飯処理をさせられていると思っていたが、もしかしたら俺に唐揚げを食わせたいだけなのでは? と思う思考に変わっている。


 都合の良い頭だが、毎回同じ事をされて来たのだからそう思うのは当然だろう。


 期待したところで関係に変化なんて起きやしない。ただ一緒に飯を食べて話せるだけで、充分だと言う事を会えない期間で思い知ったのだ。


 ――夕食を食べ終え、沖田はまた風呂に入ると祈とネリーの袖を引っ張っていた。

 祈は劣等感が凄まじいから嫌だと喚くが、結局沖田の我儘には勝てずに了承するのだ。


 そんなやり取りへ割って入るように、伊東が沖田に近づいた。


「洋、後で部屋に来てもらえませんか?」

「なんで?」


 いや、本当になんで。晴太は洋斗とまた風呂に行っていて席を外しているものの、アイツがいたら猪みたいに伊東にタックルでもかますぞ。


「おい、ぶんどられるぞ!」

「何が!」

 

 学に肘でどつかれたが、シラを切るしかない。沖田の事だから嫌なら嫌だと言う。俺はそれを信じるしかないんだ。


 だってここで下手な事言ったら色々面倒くさくて、色々バレてしまうだろう。


 変な汗が出て来る。掌で拭き取るとベタっと粘り気のある水滴がついた。


 これが、脂、汗……?


「大事な話があるんです」

「大事ってどのくらい」

「えっと……多分天地がひっくり返るくらい……ですかね?」

「今じゃダメなのか? 禁忌で天地はひっくり返りすぎてんだよ」


 伊東は顎に手を当てて考えている様子だ。今ここで言えよ。部屋で話す話ってなんなんだよ。

 この沈黙はなんなんだ。ハッキリしろ。お前の会社の口コミに酷評書きつけてやろうか!


「部屋の方がいいと思います。《《今は》》」

「そっか。なら後で行く」

 

 沖田は軽く返事をしたんだろうが、周りはそうではない。話の内容次第では何がどうなるかわからん。


 沖田にびったりくっついて歩くか? いや、それは怪しい。却下だ。


 というか大事な話って? ネリーが後ろからコソコソと耳打ちして来ては、さらに不安を煽る。


「秀喜、オテツダイサン雇って毎日美味しいゴハン食べてたヨ。期間はネ、2ヶ月くらいカナ」


 それって誰の事かな。本当にお手伝いさんかな。なんて揶揄いながらケタケタ笑い、風呂に向かう。


「あのお坊ちゃん、殺すか?」


 学が肩を組み、協力して伊東を倒そうと持ちかけて来た。何をどうして殺すんだよ。

 お前は伊東ん家の会社から経済的に殺されてるくせに。


「いつになったら心が休まるんだ……」


 眉間を摘み、ストレスから来る頭痛を抑えようとする。

 けれど、伊東が沖田に何を話すのかが頭を支配して、頭痛は治りはしないのだ。

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