33勝手目 余裕綽綽、意気"洋洋"(3)
「わかった。洋さんがしたいようにしよう。禁忌に慣れてるのは洋さんだしね。でもボクも怖いから、休みながら行きたいし、1人で行こうとしないで欲しいんだ。年上なのに情けないと思うかもしれないけど、それじゃあダメ?」
木の上から問いかける。洋さんは小さく頷いた。膝を抱いて埋まる姿が可哀想になり、つま先をうんと伸ばして地面へ落ちる。
四つん這いで洋さんの側へ行き、腰をさすりながら隣へ座った。
「ボク達いろいろ似てるから、怒るタイミングも同じだね。もしボクらが兄妹だったら、血は争えないなぁと思うけど……」
「アンタと兄妹なんか絶対ヤダ!」
またツンとそっぽを向かれる。だって似てるんだもの、そう思いたくもなるよ。
また拗ねられてしまった……15分くらい経ったら出発しようと言って、少し目瞑って休むことにした。
が、目を閉じてすぐにだ。
鳥肌がブワッと立ち、瞼の裏で昔の映像が流れるように人が埋まっていくのが見えた。
「ヒッ!」
「なんなの……まだ何か怖いの?」
「違う……目を瞑ったら、人が土の中に埋まっていくのが見えたんだよ! 洋さん、ライトとかある?」
「ガラケーしかない。あ、でもこれ……」
洋さんは左手につけたスマートウォッチを触り、画面を最大限に明るくしてライト代わりにしてくれた。
「スマートウォッチってこんなこと出来るんだね」
「伊東が車の中でくれたんだ。色々教えてもらっててよかったわ」
「これ高いよね? どうして貰えたの?」
「知らねぇ。ずっと一緒にいるって言われた。どういう意味?」
「えぇ……? な、なんだろうねぇ……」
あのボスがそんな事を……とこっちが照れてしまう。そういえばボスってば、洋さんが土砂崩れに巻き込まれた時にスマートウォッチを見て、大丈夫って言ってたよね。
洋さんのと連携させて、いつでもどんな状態か知れるようにしてるって事? ちょっとストーカーチックだけど、ボスなりの愛情表現なのかな。
状況とは異なる話をしたら、恐怖が紛れた。
ボクはライトで顔を照らして貰いながら、何度も目を閉じては開いてを繰り返す。
人が埋められた様子から一転、自分が今居る景色がシャッターを切られたように少しずつ動いていく。
まるで道案内されているみたいだ。早く来い、って――!
「は? 何? 休むんじゃないの?」
突然立ち上がったボクに、再び苛立ちを見せる。
「近藤さんがさ、霊力の話をしてくれたの覚えてる? ボクの特技、本当に霊力なのかもしれない!」
恐れより、早くしなければと使命感のようなものに駆り立てられた。
山崎さんが手当たり次第に人を探しているんだ、ボクの特技が霊力ならきっと役に立てる。
洋さんが後から走るけど、珍しくボクより遅かった。そして木や石の混じった土を蹴る音と共に、転倒して体が打ち付けられる音が聞こえたので振り返る。
「洋さん!」
珍しい。さっきまでボクばかり転んでいたのに。洋さんは何かにつまずいたと後ろを振り返った。ライトで照らしても、障害物ばかりでどれが転倒の原因かわからない。
服は土で汚れ、膝から血を出しているのに、ずっとつまづいたであろう場所をしつこく見つめている。
「洋さん、立てる? 転んだところ申し訳ないけど、ボクの特技もいつまで続くか……」
「わかってる! 別に……何にも、ないよな……?」
しきりに辺りを気にするけれど、何もない。洋さんが行こうと言うと、ボクらはまた走り出す。
ある程度進んだ時、瞼の裏に映った映像がさらに鮮明になり、声まで聞こえ始めた。
そして直ぐに、ボクら霊達に導かれたのだと痛感する。
「あった……アレだ!」
夜の山中、月明かりが不気味に照らすは崩壊した旅館。
そしてその近くにゆらゆらと動く影が見え、恐ろしくなって心臓が跳ねる。不安定な地面で足がふらつくと、腕をがっしり掴まれた。
「ビビんな。アレは晴太くんだから」
「でも中は違う人だよ!?」
「アタシには近藤晴太にしか見えない」
暗闇に光る黄色い眼が希望の一番星に見える。その芯の強さと輝きに勇気づけられて、ボクも似てるんだからと自分を奮い立たせた。
「アタシが学さんと人を探すから、アンタは晴太くんのところにいて」
「いや! ボクが探しにいく!」
「ビビりなんだからさぁ……どうせすぐ泣いて戻ってくんでしょ? だったら晴太くんの近くにいた方がいい……」
「近藤さんは洋さんに居て欲しいと思うから! それに、あとは頼んだって! 近藤さんは洋さんに託してたじゃんか」
洋さんの言葉を遮って、精一杯カッコつけてやるんだ。亡くなった人の体を見るのは嫌だし、怖いし、きっとトラウマになる。
今後の人生が生きづらくなるのが目に見えてわかる。
だけど、だけどね。
洋さんの本音を聞いたから、"歳上"として彼女の気持ちを優先させたいと思うんだ。
それこそ、さっき言った兄妹を守るような気持ち。兄妹はいないけれど、こんなにそっくりなら妹だと錯覚しちゃうよ。
決意とかすぐに揺らいじゃうボクだけど、このチャンスを逃したら現代に戻るのが遅くなる気がする!
ボクらはガラケーの通話をボタンを押し、旅館へと向かいながら会話に加わる。
「皆さん、起きてますか! 旅館に着きました! 今から山崎さんと合流して、ボクは行方不明者の捜索に加わります!」
『こっちも夜が更けて来た。兄貴も今日の捜索は半ば諦めてるが大丈夫か? 一旦今日は休んでもいいんだぞ? 沖田も目を瞑れば休めるだろ』
土方くんの心配する声に心が熱くなる。洋さんも笑顔で、どんなにしんどくても気にかけてもらえるだけでやる気が湧いてくる。
「余裕だよ!」
洋さんと顔を見合わせ、互いに真似すんなよと顰め面をする。
誰かが近くに居て、協力して、一緒に頑張ってくれる。
ずっとビビっていたボクには少しだけ引っ込んで居てもらって、ボクは自分の力を信じるんだ。




