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31勝手目 過去戻りの禁忌:宮城県栗原市(3)

地震がおさっても、ボクらの心臓はドクドクと音を立てて止まない。

 ネリーが地震に慣れていないと思って咄嗟に庇おうと思ったけど、彼女は山南さんを庇いに行った。

 そんな山南さんはすぐに動画サイトを開いて情報を得ようとしていた。

 

 土方くんとボスはすぐに鏡を支えに立ったし、ボクだけが1人怖いと騒いで居たんだ。


 自然の恐怖に慄いてもおかしくない。だけどこの新撰組にいる限り、それじゃおかしいんだと言われた気分だ。

 ガラケーだって投げ捨ててる。さっきもらったばかりなのに、もう擦り傷だらけだ。尻餅までついて情けないよ。

 

「洋斗、ダイジョーブ?」

「うん……ありがとう……でも両脇持ち上げるのはやめてね……」


 普通に手を差し伸べてくれたら立ち上がれるのに、ネリーはボクを子供の様に扱う。

 これでも25歳なんだけど、身長が低いせいで幼く思われちゃうんだよなぁ。ネリーもきっとそうだろうし。


 それにしても、入山規制のかかった山で地震にあうなんて。何かあったらどうするんだろう。新部署の為とは言うけど、ボクは何も教えられてないし。


 洋さんのことは心配だよ。今だって近藤さんが電話越しに慌ててる声がする。聞くのが怖いと思いながら、仕事だと言い聞かせてガラケーを耳にあてる。


『――学さんも気を失ってるし、土砂崩れって言葉じゃ片付かないレベルで山が崩れてる!』

「晴太、落ち着け。リュックは置いて兄貴を担いで斜面から出来るだけ離れろ」


 土方くんは声こそ落ち着いているけど、キーボードを叩く手は震えている。

 山南さんも土方くんの代わりに鏡を押さえながら、顔を真っ赤にして声を殺しながら泣いてるんだ。


「な、何があったの……? 聞いてなかったや……」


 ガラケーを閉じ、恐る恐る皆に問いかけた。空気が読めないってよく言われるけれど、今は特別読めてないね。みんなの視線がピリピリしていて、肌が痛む。


「土砂崩れに巻き込まれたんです。晴太や山崎さんの安否はわかりますが――」


 ボスが言葉を詰まらせる。目が潤んで熱を持ち、今にも溢れそうな涙を堪えてるように見えるんだ。

 こんなボスの顔は初めて見る。ボスって泣くんだ、とまた空気の読めない事を言いそうになるんだ。


「沖田が崩落した橋の上に居て、そのまま、土砂崩れに巻き込まれた……って」

「ふぇ……」


 だから山南さんも泣いてたんだ。過去に行って、やっちゃダメな事をして、土砂崩れに巻き込まれたって。

 だから無理しちゃだめだって言ったのに。ボクには寝れないとかもよくわかんないよ。

 だって布団で寝れば寝れるじゃないか。今起きてる全部がわかんない。


 ガラケーをまた耳に当てて、近藤さんに呼びかけた。


「土砂崩れに巻き込まれたらどうしたらいいんですか? それ……死んじゃうかもしれないじゃないですか」

『洋は死なない。でも……見つけられなかったら――』


 さっきまで頼もしかった近藤さんは喉を鳴らして黙り込んだ。死なないけど、見つけられなかったら会えないって事だよね。

 それは死ぬことと同義じゃないかな。


 だけど土方くんは冷静に、だけど芯のある力強い声で「いや」と沈黙を破る。


「沖田はそんなに柔じゃない。アイツは必ず帰って来る」

「大丈夫。洋は"ちゃんと"生きてます。心拍数は上がってますが、脈や体温は正常ですよ」


 ボスは左手に付けていたスマートウォッチを見ながら安心した顔を浮かべた。洋さんを支えるために一生懸命なのはわかるけど、ボクはついていけない。


 何もわかんないや。

 何が起きてるかも、禁忌のしくみとかも、どうしてボクがこの"新撰組"に居るのかも。

 逃げ出したい。ボクにこの部署で仕事をこなして行くのは難しいと思った。

 洋さんのことは心配だけどね。


 人の心配をするより、震源地である山から避難して安全な所で一息つきたい。

 けれどそんな空気じゃない。皆真剣に過去へ行った3人をどうにかしようと情報を集めてる。

 さっきまでボクの隣にいたネリーだって、絶えず洋さんの携帯に電話を繰り返して協力している。


 空気を読むより、ボクは命を取りたい――!

 

「ね、ねぇ! ここに居るの危ないんじゃないかなぁ......! とりあえず地震が治るのを待って、後からまた来るのはどう? 過去に行った3人も危ないかもしれないけど、ボク達だって危ないよ!」

 

 ボクはキャンピングカーの運転席に乗り込んで、早く行こうと皆を急かす。

 だけど、誰もボクの誘いには乗らない。ボクを見るけど、追い詰められた様な顔をしているんだ。


「ボス、ネリー! 東京に帰ろうよ!」


 山に虚しく声が溶ける。再度、同じセリフを投げると、ネリーが運転席へと近づいてきてくれた。助手席へと案内しても、ネリーは小さく首を横に振る。


「洋斗、帰っテイイ。ウチは残る」

「ネリーだって怖いだろう!? ボクと帰ろうよ、危ないって!」


 毎日ボクに抱きついて、人目も構わず頰にキスをしてきたりするネリーに断られた。

 ネリーだけは味方してくれると思っていたけど、違うのかい……?


「……ワカッテる。でも、洋にバンソコー貼る約束シタから。ネリーは約束守りタイ」

 そんな理由で? ネリーは眉を顰めながら、気をつけて帰ってと弱々しく手を振る。

 様子を窺うと他の皆も同じみたいだ。早く避難したい。けれど、ボクだけがズルをしているようで車のキーを回すのを躊躇ってしまう。


「逃げる事は悪い事じゃないわ。私も一度洋から逃げたもの。怖い事から逃げ出したくなるのは防衛本能がちゃんと働いてる証拠よ。守も秀喜も――あの3人だって無理強いはしないわ。だから、自分の気持ちを優先して大丈夫よ」


 山南さんは顔を引き攣らせて無理に微笑む。その優しさにビンタされているようだった。

 ボクが帰りやすい様に言ってくれている。わかってる。だけどボクを1人にする優しさを受け入れられない。


「なんで皆普通なんだよぉ! ボクだけが変みたいじゃんか!」


 頭を抱えて運転席に蹲る。扉も閉めたけど、発進する気にはなれないんだ。



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