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25勝手目 過去戻りの禁忌:岩手県遠野市(2)


 夜も深まれば、この街は山の静けさに従って人通りも少なくなった。

 夏は空が明るく見える。遠野市も例外ではないが、自然のカーテンが落ち着かない暗さを掛ける。


「深夜の学校とか薄気味悪くて嫌だわ」

「酒抜けたんですかい、おねえさんや」

「抜けたわよ。悪かったわね、ゲロぶっかけて」

「それはよかったですねぇ! おねえさんや!」


 顔色の良くなった祈と、服を汚されて不満げな沖田と学。道の駅で慌てて買った方言Tシャツが不服なのか、交互に祈に嫌味を言う。


 学は「おもさげながんす(申し訳ございません)」、沖田は「かばねやみ(怠け者)」と書かれたTシャツは皮肉にも本人達にぴったりだ。


 晴太と伊東が禁忌の準備が整った事を知らせた。しかし、肝心な戻る日にちが分からず紙を前にペンが止まる。

 学が電話をくれた主の連絡先もわからない。


 ここまで来たのに――と諦めかけた時。沖田は北側に置いた鏡を持ち上げて、昇降口へと歩いていく。


「何してんだ?」

「土方も片方持って来てよ。弓もね」

「ん?」


 何をするのかわからないまま鏡を持ち、晴太が梓弓を拾いあげて沖田の元へいく。

 沖田は昇降口の扉に鏡を立てかけるようにして置いたので、俺も同じようにする。そして鏡に橋をかけるようにして梓弓を置くと、いつものように突風が吹く。


「沖田……何か読んだのか?」

「んや? なんとなくこうかなって思っただけ」


 沖田が得意げになる時は大体嘘をつく。テレビで得た知識も見てないけど知っていると言う。大体沖田が自分から勉強する時なんて、新撰組に関したものしかない。

 後は嫌々だ。それが知識になる事は殆どない。


「お前が何も見ずにこう出来るとは思わんがな……」

「はあ?」


 思った事を口に出すと、沖田は不機嫌な声を出した。過去の経験上そうなのだからこう思われても仕方がない事をわかっていない。


 日頃の行いって言葉を調べて欲しいもんだ。


「晴太、あのさ……この電話で何もならなかったら、おれの試験ってどうなんの?」


 学がおずおずしながら晴太に尋ねる。手には八幡宮から持ってきた古い掛け時計。

 この間の一件が嘘でない事を証明するために、どうにかしてこの試験をクリアしたいと言う。


「その時はもう一度再試験します。けど――本来であれば試験は一度きり。そのつもりで、《《なんとかしてください》》」

「なんとかってよぉ……」


 晴太のいつにない凛々しい表情は仕事人の顔だ。沖田に鼻の下を伸ばし、デレデレとした晴太はいない。

 祈と学、そして神霊庁の未来のために本気で試験を行う姿は幼馴染として誇らしいものがある。


「洋、私のために頑張って来てよね!」

「なんで祈のために……」

「私が神霊庁の職員にならないと一緒に居るのに不便だからよ。わかった?」

「…………はい」


 肩をポンと祈に叩かれた沖田はまだ不機嫌のまま。鼻で大きくため息をつくと、何も言わずに鏡の中へ入っていく。


「じゃあ、学さん、祈。頑張って」

「了解!」


 晴太が労いの言葉をかけると、2人はぎこちない笑顔をつくって見送った。



「随分古い学校だね………」


 僕らが禁忌に選んだ場所は、遠野市の街中に近い小学校のはずだ。昭和を思わせる木で出来た廊下が不気味に軋む。

 

 現代から持ってきたLEDライトの光も飲み込まれそうな闇。


 小学校の外も街頭はなく、山々の中にポツンと此処だけがあるように思える。

 時代が違うのは察しがついたけど、一体どのくらいの年代なんだろう。暗くて何も分からないや。


 けど、前を歩く洋は怖がる様子もない。秋田の時はだいぶ怖がっていたけど、熊よりはマシって事なのかな。


 洋は容赦なく教室の扉を開けていく。立て付けの悪い木の扉は悲鳴のような音を上げた。


 お祓いとか頼まれるけど、やっぱり夜の学校はおどろおどろしくておっかない。


「おい、遊びに来たぞ」


 洋は誰もいない教室に向かって呼び掛ける。当然、何も聞こえない――と思っていた。


「そこじゃないよ。こっちだよ」

「誰!?」


 誰もいない教室を持って来たライトでくまなく照らしてみる。けれど人影も生物の気配もない。

 僕の背筋がゾゾゾと凍る。


「こっちか」


 洋は声のした方へ駆けていく。僕は洋の走る先へライトを照らしながら、こっちこっちと呼ぶ声に怯えていた。

 神霊庁勤務だって、怖いものは怖いんだい!


 やがて外に出された。目の前には校庭と、今出て来た校舎とはまた別の建物が立っている。


 建物全体が見えるように後退りをしながら全貌を見ると、別の建物も校舎のようで、まだ新しいようだ。


 そして声は体育館へと導き、その裏にあるトイレの前で止んだ。


「不気味だね……怖くないかい?」

「言葉の通じない熊よりマシだろ」


 洋は勇敢だ。暗闇に光る黄色い目が頼もしく見える。

 方言Tシャツはカッコ悪いけど、やる時はやるってのが洋の良いところだ。


「おーい。遊ばねぇのか?」


 洋が再び声をかけると、扉がガタガタと大きな音を立てて開いていく。

 僕以外に人はやはりいない。すべて扉が開くと、カッパのような子供程の大きさのシルエットがもやがかって現れた。


「……ねぇ、貴方、電話のお兄ちゃん?」

「僕かい? 僕は違うよ」

「…………」


 問いかけに答えてたけれど、返答がない。学さんが言っていた女の子の声ってこの子の事だったんだ。


「おねえちゃんは……ずっと遊べる人だね!」

「ん?」


 声が明るくなると、少女は姿を現した。切れ長の目に、黒髪のおかっぱ頭。そして赤いスカート。それはまさしく、かの有名な――


「トイレの花子さんだ――!」


 思わず叫んでしまうと、彼女は切れ長の目をナイフのように鋭くさせて僕を睨む。


 そして空気に乗るようにして移動し、僕の目の前で目を見開く。まるで人の目ではなく、何かに取り憑かれたような恐ろしい顔。


 

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