表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/252

78勝手目 観光ガイドを探せ!(3)

「本当は国道を通りたいところですが、道路は壊滅的です。幸いにも津波がありませんから、船で松島まで向かいましょう」

「近くに船着き場があるんですか?」

「いえ、仙台港まで歩きます。通常であれば仙台駅から3時間の距離です。松島まで歩くより、遥かに楽ですから」

「歩きすぎて3時間なんてすぐだと思っちゃうや……」

「はいはい、行くよ! 早くして!」


 薩日内さんと洋斗さんは歩幅を合わせてくれるけど、衛宗さんは違う。

 急かされて、走って、ついて行くので精一杯。秀喜さんはここまで計算してぼくを試したのかな。


「あ、あのっ……速くて、苦しい、です」

「無理に衛宗さんについて行かなくて大丈夫です。あの人、私が呪いを分けて体が丈夫になったから調子に乗っているだけなので。道も分かってませんから」

「あんなに威勢がいいのにぃ……!? というか……うちの伊東も呪いを分けてもらったと言ってたんですが……」


 洋斗さんが薩日内さんに呪いの話を持ちかけた。洋斗さんは半分くらい信じてると言っていたけど、今の話が本当なら秀喜さんも……。


「えぇ、分けました。私の呪いは不老不死です。人に譲渡することによって、私はこの呪いから免れることができます。今は試験的に衛宗さんと伊東さんに少し呪いを渡していますが……伊東さんへの呪いはあまり気乗りではありません」

「それは、どうして……?」


 秀喜さんは洋さんと一生一緒に居るために呪われたいんだと言っていた。

 薩日内さんが言うには、伊東さんは大金を持って来て、今すぐ呪えと深刻そうにお願いして来たみたいで。


 薩日内さんは洋さんの話を聞いて、可哀想だと思って秀喜さんに呪いを分けたって。

 ならどうして気乗りしないのか。それは呪いの性質っていうのが問題らしい。


 まず、薩日内さんの呪いの始まりを聞かされた。伊達政宗を恨んだカワウソの妖怪が、退治される時に政宗を呪い、その呪いを薩日内さんになすりつけたのが始まりだって。


 昔話だけど、仙台のとある場所ではそのカワウソの妖怪は有名なんだって。


「私の呪いは誰かに分け与えられますが、制限があります。例えば――私は政宗様から呪いを引き継いだのですが、仙台を見守ってほしいという願いに同意したのが原因です。なので宮城県から出ることができません」

「じゃあ薩日内さんは、宮城県以外に行ったことないんですか?」

「はい」

「秀喜さんにも、そういう制限が……?」


 それが体調不良ということなのか。洋斗さんも納得したのか、それで壁伝いで歩いてたんだねとぼくと顔を見合わせた。


「いえ、伊東さんのはもっと複雑です」


 でも、薩日内さんは否定する。


「伊東さんのは制限というか……さらに呪われたがったと言いますか。もし体調が悪いなら、それは沖田洋さんの感情が落ち込んでいるということ。つまり、伊東さんの体は沖田さんの感情によって管理されるようになってしまってるんです。それは伊東さんが望んだ制限。かなり危険な思想なので、お試しで……と言ってありますが」


 それが愛とか好きとか言うのなら、ちょっと怖い。守さんや晴太さんの好きとは絶対に違うのがわかる。


 それってもう、秀喜さんが洋さんになりたい! みたいな感じなんじゃ……と思っちゃう。洋斗さんは驚いてないみたいだけど。


「なので、松島で沖田さんと会った際に呪い譲渡は判断します。彼女が嫌がっていたら、ただの恐怖ですから」

「でも、薩日内さんは呪われたままになりませんか? それでもいいのですか?」


 洋さんは呪いを嫌がってたから、皆がそうなんだと思ってるけれど。新撰組のみんなも呪いを解くのに一生懸命なわけだし。


 ぼくだって、呪いがなくなればいいのにと思ってる。けれど薩日内さんは、嬉しそうに笑った。


「衛宗さんが居てくれるのであまり気にしてません。体が弱くて色々制限されていたので、この世の知りたいを知り尽くしてから死にたいそうです。それと、生きるのも死ぬのも、私と一緒がいいみたいなので」

「じゃあ好き同士なんですね」

「アレを男性として意識しているとお思いなら、勝さんは女性の心を知らなさ過ぎですよ」

「え?」


 薩日内さんは手のひらを少し先にいる衛宗さんに向けた。


「薩日内さぁん! 助けてぇえ! 勝も! 洋斗も! 道路に挟まったぁあ! 伊達家の子孫なのにぃ!」


 道路の亀裂に足を挟んでジタバタしている衛宗さん。あんなに早くと言ってたのに、大声で叫んでぼくらに助けを求めている。


「ね?」

「……カッコ悪いですね」

「自分の不注意と政宗公は関係ないもんねぇ……」


 薩日内さんはいつものことだと衛宗さんを助けてあげた。


 それから衛宗さんは仙台港まで大人しく後ろをついて来て、船にも黙って乗船。船は薩日内さんが操縦してくれた。なんでも出来る大人がいるとホッとする。


 洋斗さんと衛宗さんが頼りないわけじゃないけど……


「勝、僕をカッコ悪いと思ってるよね」

「はい。すごく情けないです。ぼくの新撰組を名前だけだって馬鹿にしてましたけど、伊達政宗が泣いてますよ」

「勝くん! 言い過ぎ!」


 情けないとは思う。迷ったら大人に聞かなきゃならないから、頼りにならないは嘘になる。

 ぼくの言葉で、衛宗さんはスライムみたいに体をでろんと溶かすように項垂れた。


「カッコいい男って難しい……先導を切ってこそ勇者っぽくてカッコいいなって、ラノベ見て思ったんだけどなぁ……」

「ライトノベルと現実を混ぜちゃダメでしょぉ……」


 洋斗さんのツッコミはちゃんとしている。勇者になりたい大人も見てられないや。

 本やアニメの主人公がかっこいいなんて思ったことがないし。


 なら、ぼくがかっこいいと思う男性は誰だろう。


 海を眺めながらぼんやり考えてみる。すると浮かんできたのは、守さんの顔。


 派手なことはしないけど、誰よりも体を張って、みんなをまとめて、冷静で、洋さんを守っている。


 呪われた秀喜さんには悪いけど……洋さんの隣にいるのは、守さんだといいな。

 それはぼくのお父さんも、守さんがいいって意味だ。ぼくを真ん中に、3人で眠ってくれたあの日を忘れられないんだ。


 夏の朝日が海を照らし始めた。夏は朝が早いから、不安な気持ちも少しで済む。

 薩日内さんは船を操縦しながら、明るい声で嬉しそうに叫ぶ。


「そろそろ松島です! こんな時ですが、かの松尾芭蕉も息を呑んだ絶景ですよ!」


 海が光る。松の生えたさまざまな形の島々が、ぼくの目を奪っていく。

 薩日内さんはガイドさんだから、島の説明をしてくれた。わかりやすくて、すごく楽しい。


「あの松が一本だけ生えた島があるのは、政宗様お気に入りの島。あの美しい島を政宗様のもとへ運べたら銭千貫(せんがん)与えると言ったことから、千貫島と名付けられました」


 岩肌がごつごつして、水面に立ち上がるような小さな島。確かに絵に描いたみたい。


「僕の先祖、太っ腹ぁ!」

「誰も運べてませんけどね」


 衛宗さんと薩日内さんの掛け合いに笑わせてもらいながら、松島への緊張をほぐしていく。


 そして松島の桟橋に着くと、また荒れた街を目にする。

 あんまり静かだから、ちょっと後ずさり。仙台とは違って人がいないのは怖いや。


「勝くん、手繋ごうか」

「……はい」

「じゃあ僕も繋いであげよう。政宗の子孫だからね。子供に優しくしてあげるんだ」


 洋斗さんと衛宗さんが手を握ってくれた。人の温もりに安心したぼくは、すぐに手を解いた。


「ありがとうございます。もう平気です。今からは、これを握るので」


 背負っていた竹刀袋を下ろして、使い込んだ竹刀を取り出した。


 きっと来る洋さんにこれで立ち向かう。どれだけ強くても、ぼくの本気をぶつけるんだ。


「あ、そういう感じ? じゃあ僕と薩日内さんも準備した方がいいかもね」

「そうですね。沖田さんがどれほどの実力者か存じませんが、私は伊達家の家臣。そして衛宗さんは子孫ですから――」


 2人はここで待っていてと言うと、船からボロボロの竹刀袋と弓を持って来た。

 薩日内さんは袋から刀剣を、そして衛宗さんは弓と矢を手に取る。


「新撰組の沖田さんと一戦交えるのも、良いかもしれませんね」

「バーンって弓撃って、捕まえれば勝ちでしょ? 僕と薩日内さんで余裕だね」


 ぼくはなんとなく、秀喜さんはすごい人たちを見つけて来たんだなと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ