78勝手目 観光ガイドを探せ!(2)
洋斗さんとバス停を目指した。温泉で有名なぼくらの住む街はやっぱりボロボロで、途方に暮れた人たちが道路に座り込む。
ぼくらは無我夢中で走った。早くしなきゃ松島に洋さんが来ちゃうかもという不安を抱きながら。
「アレかな、バス停!」
真正面にバス停が見えた。人はいない。辿り着いて時刻表を見たら、「来る時に来ます。来る保証もありません」とマジックで殴り書きされた張り紙がしてある。
「来ないって、ことですか……?」
「そうとれてもおかしくないね……勝くん、歩ける?」
「歩けます」
ダメなら別な方法で。ぼくらには足がある。守さんたちだってそうしてる。
洋斗さんはぼくの腰と自分の腰にロープを結んで、離れないようにしてくれた。
仙台駅までは途方もない距離。福島から歩いて来た洋斗さんには近いかもしれないけれど、ぼくは学校以上先に歩いて行ったことがない。
時々足が痛くなって不安な気持ちにもなったけど、祈さんから預かったリボンを触って自分を奮い立たせた。
ここで止まったら負ける。ぼくは勝だ。くじけない。
日が暮れたら体を休め、朝日の明るさと暑さで目が覚める。バスや車で行けばすぐそこの仙台駅。今のぼくらには果てしない異国に感じた。
それでも、足を前に出し続ければ辿り着く。
「街の中は人がいるね。炊き出しとかもしてるみたいだし」
洋斗さんの言う通り、行き場をなくした人たちで溢れかえっていた。ロープで体を繋いでいなきゃすぐ逸れていたかもしれない。
「この中から薩日内さんを探すなんて……」
「ボスからどんな人か聞いてないの?」
「教えてくれませんでした。全て自力が条件だったので……洋斗さんに手伝ってもらってますけど……」
「ボクを連れ出したのも勝くんの交渉力。胸張っていいよ」
「ありがとうございます」
洋斗さんは秀喜さんと違って優しい。どうしてあの人の下で働いているのか不思議だ。
秀喜さんが特別意地悪なのかもしれないけれど、それほど過酷だから来るなという優しさだと思おう。
ぼくらは駅にある観光案内所を目指した。観光ガイドならそこにいるはず。人の波をかき分けて、ガラスの割れた仙台駅の中へ入る。
観光案内所に辿り着いても、中は暗くて人のいる気配がない。
「閉まってる……中に誰もいないのかな」
「洋斗さん、これ」
入り口ではなく通路側のガラスに張り紙がある。ぼくには少し高いところに貼ってあって、よく見えない。
洋斗さんがそれを音読してくれる。
「御用の方は待っていてください……夜には戻ります……これ、薩日内さんの字かな」
「習字で書いたみたいな字ですね」
「すごい上手。永く生きてる人だから芸事に達者なのかも。にしても、夜まで待つしかないみたいだねぇ……」
洋斗さんは力が抜けたように座り込んでしまった。
「ここからは、ぼく1人でも大丈夫です。洋斗さん、ありがとうございました」
「何言ってんのさぁ。帰るのもめんどくさいよぉ……それに、勝くんに何かあったら怒られるのぼくだからね」
「そうですか? 祈さんが味方してくれそうな……」
「いいの。ボクが居たいからいるの。一緒に居させてよ」
心がぴょんと跳ねた。一緒に居てあげる、じゃないんだ。お願いされるのなんて初めてだから、うんと言うしかない。
それからずっと、洋斗さんとお喋りした。どんな子だったとか、秀喜さんやネリーさんとの出会いとか、洋さんと守さんの印象とか。
聞いていて飽きない。だから、夜が来るのはあっという間だった。
夜になると、駅の中に人が入って来た。みんな寝床がない人たちで、ダンボールやブルーシートを敷いて寝ている。
「怖い?」
「地震が来たら、この人達は行く場所をなくすんですか? 避難所とかにも行けないなんて」
「そのくらい大きい地震だったってことだよ。余震もひどいし、行政もやれることが限られてるのかも。通信ができるようになったから、ひとつ進歩じゃない?」
「……」
ぼくの目に映る人々を助けるには、洋さんを助けてあげなきゃいけないんだ。また自分が子供であることが悔しくなる。
何も言えなくて膝を抱えてひたすら待つ。
そして夜が深くなり、駅の中がシンと静まり返った頃。声を潜めているのに騒がしい声がして顔を上げた。
「洋斗さん」
「……ん? ごめん、寝てたや……」
声のする方を見ると、2人分の影が近づいてくる。ゆらゆらと揺れる長い髪の毛が見えたら、待っててよかったと達成感が湧いた。
「おや……お待たせ、しました……で、よろしいですか?」
「子供と……高校生?」
座るぼくらを見下ろす影。吊り目でぱっちりした瞳の女性と、黒髪の男性。守さんたちと同じくらいの大人に見える。
「薩日内さん……ですか?」
「私は観光ガイドの薩日内です。何か御用でしょうか」(※)
「あ、そうです」
薩日内さんはクールな人だ。秀喜さんが頼りにするのがわかるというか。
けれど、ぼくの子供の部分が出てしまう。用事を言わなきゃいけないのに、口がうまく回らない。
でも、すかさず洋斗さんが話してくれた。
「伊東秀喜の身内です。ガイドをお願いしたいと言ったら伝わりますか?」
「あぁ。伊東さんの……お話は伺っています。可能であれば今からガイドしますが、どうします?」
「えぇ!? ちょっと休もうよ! 僕はくたくたなんだけど! それに子供と高校生ですよ!? 無理無理、夜なんておっかながって歩けない!」
せっかく薩日内さんが行こうと言ってくれてるのに、隣の男の人がギャーギャー騒ぐ。ぼくらを否定して、腕を組んで見下してくるんだ。
それに、高校生扱いは洋斗さんが黙ってるわけなくて……
「あのぉ!? 高校生ってぇ、ボクのことですかねぇ!? もう25歳の大人なんですけど!?」
「えっ!? その感じでですか? 僕より大人なんだ……薩日内さん、過去にこんな子供みたいな大人いました?」
「背が小さいからって子供じゃないやい!」
「失礼ですよ! 謝りなさい!」
男性は薩日内さんにげんこつされた。なんか、薩日内さんって祈さんみたいだな……。
「申し訳ありません。この人は伊達衛宗さんです。一応伊達家の子孫なのですが、自覚が皆無なので失礼な発言が多くあります。社会経験が少ない故のご無礼、悪い人ではありませんのでご容赦ください」
「僕は伊達政宗の本当の子孫だからね! 名前だけの新撰組とは違うから、弁えてね!」
「はぁ……よろしくお願いします……」
思ったことを全部言ってしまう人なのかもしれない。洋斗さんは小声で「伊達政宗はこんな人じゃないと思いたいよ」と静かに怒っていた。
薩日内さんと衛宗さんに連れられ、仙台駅を出て東に歩いて行く。ここからは知らない土地だ。
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※薩日内、伊達衛宗についてはスピンオフ作品「観光ガイドの薩日内さん」にてお楽しみ頂けます。




