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76勝手目 2度と笑ってくれないの(1)

 こんなボクも許された。


 みんなが「帰って来ていいよ」って言ってくれる。責められた時、もうどうしようもないと思ったよ。


 死ぬ以外に道がない。この世にボクの居場所はないってね。


 けどね。


 無意識に「みんななら許してくれるかも」って淡く期待してた。信用を取り戻せるように頑張れば、の話だけどさ。それがボクの償いだ。


 また胸を張って“新撰組”に帰れるように立ち上がらなくちゃ。


 みんなのおかげで、体も心も軽やか。

 特に、ネリーの心のこもった「大好き」も、「カッコ悪い」って褒め言葉も活力になってる。


 ネリーに「なんでボクを好きかわかんない」って言ったのは自信がなかったからだ。

 いつもの「好き」はライクな感じに受け取っていた。ネリーは魅力的な女性だから、ボクみたいなのを本気で好きになるわけないってね。


 全部受け入れてくれていたと知って、「ずっと愛だったんだな」ってわかった。友達以上、冷やかし混じりの片想いだと思ってたから。


 ボクもネリーが大好きだ。


 電車の中で困った顔をしている君を見て、「笑ったら可愛いんだろうな」って、一目惚れだったんだもん。まさかその話を持ち出してくるとは思わなかったや。

 絶望しても、好きな人に手を差し伸べられると手を伸ばしたくなるね。


 みんなの言葉もそうだ。


 樺恋ちゃんと勝くんがシーサーを直してくれたのは言葉より強い祈りに感じた。


 ボスの罵倒は、命の引き戻しだったし。


 学くんと祈さん、宇吉さんの「ごめんね」は、兄としての自覚が足りないことを教えてくれた。


 だからこそ、洋さんを受け止めてあげられなかった後悔が胸を刺す。ボスの言うように、「血でわかってあげられること」があるなら、ボクしかいない。


 洋さんのことを探そう。


 ボクは寝転がっていた体を起こした。何か出来ることはないかと聞いたら、学くんが「頼みがある」と、またひとつ許してくれる。


『守と晴太と拓美がそっちに向かってるんだ。現地にいるのはお前しかいねぇ。おれがずっと電話繋いでるから、確実に洋斗のところに辿り着けるように協力してくれねぇか』

「向かってるって……車で走れるの?」

『歩いてる』

「歩いて!?」


 新幹線と在来線を乗り継いだって相当な時間と距離だけど。土方くんと近藤くんなら来そうだ。洋さんの一大事に、あの2人が動かないわけないもんね。


「……想像つくや。でも、武田くんはなんで?」

『会津に実家があんだよ』

「あ……そっか。福島出身だって言ってたもんね……」


 心配だろうなぁ。


 大事な人の安否がわからないのは、とっても怖いだろう。災害の発生地に住んでいたなら、一瞬でも“死んじゃったりしてないよね”って考えがよぎるし。


 ボクはその経験をネリーにさせてしまうところだったんだけどさ。

 せめてご両親の安否がわかれば、武田くんは安心できるよね。


「武田くんに電話繋げないかな!?」

『出ねぇんだよ。理由があんだろ。おれの電話は個人にはかけられねぇからさ。拓美が拒否ってるわけでもなさそうだし。守と晴太も出ねぇもん』

「じゃあ一回切ってさ、また鳴らしてよ!」


 ネリーはボクが出るまでかけてくれた。同じようにしたら、きっと出るはず。

 ボクみたいに「出たくない」ではないだろうし。とにかくめげずにかけ続けてもらう。


『すまん、出れなかった』

『おぉ。全然電話出ねぇじゃん。なんかあったのか?』


 土方くんが息を切らして電話に出てくれた。それは朝日が昇る頃で、夜通し電話を掛けてくれた学くんの声もヘトヘトだ。


『道がないんだよ。障害物を避けながら歩いてる。暗いし、とてもじゃないがゆっくり立ち止まれるような状況じゃなかった』

『そんなひでぇんだ……』


 彼らは詳しくどこなのかわからないと戸惑っていた。遠回りでも、とにかく国道沿いを歩いて、道路から外れないようにするのが精一杯だって。


 だけど土方くんは「疲れた」なんて言わない。


『酷い有様だ。だが……沖田の心中だと思いながら歩いてる』

『だとしたら大荒れだね。会ったらぎゅーってしてあげなきゃ。嬉しくて泣いちゃったりして』

『迷惑そうな顔しながら喜ぶんじゃないか』


 土方くんは土方くんのままだし、近藤くんも相変わらず。歩くような距離じゃないのに、そんなの気にならないんだなぁ。


「あ、あの……い、いいかな」


 話に割って入る。2人はボクの名前を嬉しそうに呼んでくれた。


『洋斗さん! 少しは気持ち、落ち着いた?』

『さっきはすまなかった。洋斗が悪いわけじゃないって、すぐに否定の言葉が出てこなくて』


 謝るのはボクの方なんだけどな。また涙が出そうになった。2人の優しさは無意識なんだろうけどさ。


 この人たちが頭にいるから、この新撰組は「誰も独りにしないのが普通」なんだと思うや。


「ううん。ボクも良くないことしたから……ところで、武田くんは電話に出られないのかな」

『充電してなかったみたいで電源切れちゃってるんだ。何か用事? 変わろうか?』

「うん」


 近藤くんが電話を代わってくれると、2人より息の荒い武田くんが「はい!?」と語気を強めて応答してくれた。


「武田くん、あの……ボクのせいで、ごめん……って言っても許してもらえるわけないけど」

『悪いのはご先祖様なんすよね!? 丸ごとは信じてないすけど……ぶっちゃけ沖田ちゃんが泣いたから地震とか本気で意味わかんないんで、謝んなくていいすよ』

「でもボクに“ごめんなさい”って気持ちはあるから。許すとか許さないとか無しでいいから、受け取って」

『……よくわかんないすけど。わかりました』


 武田くんはボクらに馴染みきってない。彼が一般的な感覚でいてくれるから、ボクらの思考は偏らずに済んでいる。


 今の状況を飲み込めないのは当たり前。彼はご両親のために帰郷しているだけなんだ。


「武田くんのご両親って、どこに住んでるのかな」

『もしかして行ってくれるんすか!?』

「安否がわかれば、少し気持ち軽くなるよね」

『有難いっすわ……今いる場所どこすか? お父が赤べこ絵付けの店やってて……』


 武田くんに現在地を伝え、目的地までの大体の道筋を聞く。ボクに今できることを精一杯に。


 神指城跡を離れて、武田くんのお父さんのお店を目指す。道路に出れば田んぼが広がる。地面は割れ、一歩足を踏み出しただけで割れ目に足が吸い込まれそうだ。


 余震もまだ続いている。


 大地震に誘発された自然地震なのか、洋さんが泣いているのか。世界の終わりを告げるような、どんよりと黒い雲が地上を覆ってる。


 土方くんの言う通り、洋さんの心の中の表れなのかな。壊滅的で、元に戻るなんて無理だって思わせるような風景だ。


 どうしたら洋さんを救ってあげられるだろう。言葉かな。ボクがみんなにそうしてもらったようにすればいいのかな。


 言葉を考えながら、懸命に会津若松中心部を目指す。陽が見えなくても気温が上がってきた。暑さが体力を奪ってくる。

 ライフラインが保てなければ、死んでしまう人が出るかもしれない。


 ようやっと中心部に近づいたとわかったのは、人の多さだ。破壊された街の中で、行き場のない人が背を丸めてすすり泣く。


 ボクのせいだ……。


 やっぱりこの想いは消えない。ボクが自己中心的な考えで動かなければ、この人たちは傷つかなかったのに。


「武田さぁ――ん! 星さぁあん!」


 自責の念に押しつぶされないように、武田くんのご両親を探す。辛い、苦しいに飲まれちゃダメ。今は誰かを救うことに専念しなきゃ。


 2人を探しながら、瓦礫に埋もれている人の救助に何件か関わった。みんな生きていて、誰かが亡くなったという話は聞かない。


 当たり前の願いだけど、誰にも死んでほしくない。他の人とは違う、ボクの身勝手な願いが詰まってる。


「自分が泣いたせいだ」と、自分を責める洋さんが壊れないように。


 ボクらは、まるで双子のように似てるからね。考え方だって、傷付き方だってそっくりなんだ。


 だからね、ボクが悲しいと思ったことは、洋さんに降りかからないように先回りしなきゃ。


 瓦礫を掻き分け、一人でも多くの手を握る。引っ張りあげて、絶対に大丈夫だと力強く押し付けるんだ。


 ボクにできるちっぽけなことが、妹を救うのだと信じて。

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