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74勝手目 この足は君のためにある(2)

 それだけでは何もわからない。何があったのか話すよう皆で説得した。洋斗はまず、東京に行くと嘘をついたことを告白する。


 そして沖田を会津若松に連れて行き、両親の住んだ家の跡地に向かった。そして好奇心に負けて禁忌を犯し、沖田が墜ちかけた時、八十禍津日神が姿を現したと。


 あの邪神は沖田の心を壊す絶好の機会を伺っていたんだろう。


 沖田はいつの間にかいなくなっていたと言う。きっと連れて行ったんだ。


 仕返しすると、一族に怨念を向け続けた神。神社が燃やされたくらいで小さいと思う俺は変だろうか。

 

 しかし、その神社が八十禍津日神の1番大切にしているものだとしたら、呪いだけで済まさないのは当然かもしれない。


 過酷な運命をたどるものの、残った者には美味しい思いをさせてきた。そしてその、歴代48人分の罪の積み重ねが沖田に降りかかっている。


 沖田の逃げ場を無くし、とことん追い詰め、死ねないという生き地獄を永遠に与えるんだ。


「なんで洋を連れてったのよ! 洋のこと探しなさい! 泣いてる暇があるならやることやれ!」

「お前お兄ちゃんなんだよな!? 妹が傷つくのはどうでもよかったのか!?」


 祈と学が涙を滲ませて洋斗を責めた。親を知りたい気持ちはわかる、でも自己中過ぎやしないかと。祈のそれは子を失った母親のような激しい怒りの詰まった叫びだった。


 俺は洋斗を責めれない。


 知りたいのも、沖田を連れて行きたい気持ちも否定しちゃいけないんだ。洋斗にも感情や考えがある。沖田の呪いを中心にし過ぎた罰だろう。


 洋斗も呪いの被害者。我慢しろと言われても、兄だろうが大人だろうが無理だった。

 他人が「お前がもっと強ければ」と「たられば」を吐いたって、当人になれば弱くなる。


 人はそんなに強くなれない。

 固い意思も時間が経てば柔らかくなる。

 俺は今、無数の「たられば」を思い起こしては、沖田が遠くに行くのを他人事のように思おうとしていた。


 呪いを解くの、間に合わなかったんだな。


 これも俺の弱さ。認めたくなくて、心に盾を張る。だが、俺はこうじゃいけない。沖田がもっと傷つく前に、けりをつけなくては。


「責めるな。洋斗に石を投げられるのは、一度でも沖田を傷つけたことがない奴だ。新撰組の中でそれが出来るのは、勝くらいだろ」


 俺の言葉に、祈と学は言葉を止めた。今洋斗に心だらけの言葉を浴びせても、事態は好転しない。


「洋は……?」

「帰って来ないんですか……?」


 帰宅した樺恋と勝が、沖田の部屋にあったクッションと枕を抱きしめて苦しそうな顔で訴えてくる。帰ってくるさ。子供にはそう言うべきだ。


「樺恋様、勝殿。まだ洋殿が原因だと決まった訳じゃありませんぞ」

「嘘つき。あたしにだってわかる! 洋が帰って来ないから、祈と学が泣いてんでしょ! 守だって、すぐに大丈夫だって言わないもん! うわぁ――」

「樺恋ちゃん」


 樺恋が泣いてしまっては、どんなに大丈夫を飾っても無意味だ。

 宇吉と勝が慰めても、樺恋は癇癪を起こし続けた。その様子につられるように勝も泣き始める。


 ここは地獄だ。家が荒れ、絆も壊れ、希望がない。この家のどこかで誰かが必ず泣いている。


 俺だって、喚かないだけで涙は流れ落ちるんだから。


『ごめん……』


 洋斗から繰り返される謝罪は環境音の一部となり、最早言葉に意味がなくなっていた。


 顔を泣き顔で腫らした武田に肩を貸しながら奥間に戻って来たネリーだって、いつもの朗らかさを保てない。


「ねぇ洋斗さん、会津若松のどこにいるんだい?」


 今まで口を開かなかった晴太。涙もない、普段通りの声色だ。

 防災リュックに奥間にあった菓子を雑に詰め、背負い直す。


『神指城跡……ってとこ……』


 固定電話の横に置いた日本地図を抱えたら、無言で玄関へ向かって行く。


「晴太?」

「どこに行くのよ……」


 学と祈の呼び止めに後ろも振り向かないで立ち止まる。

 そして大きく深呼吸して、息を吐いたら、ぐるっと首を回して笑顔を見せた。


「洋を探しにだけど?」

「正気で!? 道路がぐちゃぐちゃなのは宇吉と見ましたよな!?」

「うん、見たよ。車は無理だね。なら歩けばいいじゃんか。昔の大名行列ほど大変じゃないしさ。昔の新撰組もめちゃくちゃ歩いたんじゃない?」

「ケーワイバカ! 1人でアブネー!」


 晴太はあっけらかんとしている。宇吉とネリーの制止は全く意味を持たない。


「だって僕、局長だよ? 責任とか今はどうでもいいけど、近藤が沖田を迎えに行くって激アツじゃないかな? アニメなら神回だよ。あといろいろどうにかなって、洋が僕に惚れちゃうかもだし。チャンスじゃん?」

「こんな時に下半身で行動すんなや!」


 学は苛立つが、晴太は心外だなと返す。


「真心で行動してるよ。僕は皆に何言われても、やめないよ? だって、どれも洋を探さない理由にならないからね」

「会津若松まで歩くなんて無茶よ……足が壊れるわ」

「え? じゃあなんのための足なんだい? 僕の足はね、洋を迎えに行くための足だからさ。そんな脅しも無意味かな。ねぇ、守もだよね?」


 そして晴太は俺にヘルメットを投げて来た。勢いが強く、受け取った掌はジンジンと痛む。


「行くよ! 1番洋の隣にいたんだろ!」


 ガラケー越しの伊東に留守を頼むよと言って、晴太は行くよ! と明るく玄関から俺を呼び、会津若松を目指そうとする。


 伊東、と呼びかけた。答えは出ていたが、残して行く者達だって心配なんだ。

 コイツも行きたがるだろう。でも残ってほしい。そう伝えた。


『オレもあまり体調が良くないので、2人で行って来てください。絶対に止めませんよ。むしろ、崖から突き落とすように背中を押してやりたいくらいです』


 そしてまた、1人。


「ったくよぉ! 守の代わりが秀喜なら、晴太の代わりはおれってか?」


 肩を乱暴に組まれる。雑だが、想いを感じた。


「行ってこい、守。兄ちゃんがここを守って、みんなで洋と洋斗の帰り待ってっからよ」


 学が不安を無理矢理隠そうとしながら、笑いかける。


 俯いていた祈も「お願い」と手を合わせ、樺恋と勝も両手にきつく抱きついて来ては「みんな居なきゃいやだ」としゃくりを上げる。


「では……」

「オラ! こいつも連れテケ!」

「うわっ」


 宇吉とネリーが武田に荷物を無理矢理持たせ、体を俺に押し付けてくる。

 武田はよろめいたが、すぐに自分の足で立った。苦虫を潰したような表情が剥がれない。


 俺は武田を無理矢理巻き込んだ。乗り気じゃなかったのに沖田のためと引きずり込み、あげく家族と引き裂いてしまった。


「武田……巻き込んで、申し訳ない……」

「副長が悪い訳じゃないでしょ。もし悪いとしたら」


 次に続くであろう"名前"を聞きたくないな。ドクンと心臓が大きく脈を打つ。


「拓美殿。洋殿が故郷を壊したとお思いでしょう。そして、洋斗殿が引き金だと――しかし、洋殿と洋斗殿は恨みませぬよう願い賜りたい。彼らも被害者なのです。会津は宇吉の地元と言っても過言ではございませぬ。同郷としての願いです」


 宇吉の言葉は強かった。福島県西部出身であれば、宇吉もまた武田と同じ気持ちなはず。

 宇吉は許せるが、武田は許せない。許さないと言えば悪人になるような空気を作る。


 武田もそれに気付き、やんわりと空気を読んだ。

 

「……それは、沖田ちゃんと洋斗さんに会って決めます……やっぱ家族は心配だし……」

「ありがとう。拓美殿。宇吉もお2人が心配故、かなり押し付けてしまいましたが……拓美殿の言葉は、真のものと受け取ります」


 宇吉は長い髪をだらりと垂らしながら頭を下げた。


「そんなんやめてくださいよ! ぶっちゃけあんな話聞いた後じゃ、2人を完全に嫌いになんてなれないすけどね!」


 例え沖田が地震の原因だとしても、俺達はアイツを拒絶しない。それは沖田に関わった事で得た、幸せが皆の心の中に強く根を張っているからだ。


「会津若松まで歩いて2日はかかるって見たことあるんすよ。副長、マジで歩ける?」


 ヘルメットの内側には名前が書いてある。ここに住み始めた日、いつか沖田が暴れた時にと用意していた物。


 親指でなぞる名前は『沖田洋』。晴太、わかってて選んだんだな。この名前を見れば動かない訳ないって。


「この足は沖田を迎えに行くための足……だからな」


 晴太が俺に投げて来たのは、希望だ。

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