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69勝手目 償い

昼を過ぎ、彼らに帰郷の後押しをする。

 真夜中の海は危険だ。明るいうちに帰りなさいと言うが、盗難した船だから動かしにくいと苦笑いされる。


 恋は盲目と言うが、まさかがっちり法を犯しているとは。


 さすがに黙っていることができず、小言を言うように叱った。悪いことだとわかっていたけど、やるしかなかった……なんて、逮捕された犯人のような供述をする。


 近藤くんは新撰組を守らなきゃいけない。

 伊東くんは大きな企業を背負っている。

 斎藤くんは樺恋ちゃんという未来が待っている。

 そして守くんには、洋がいる。


 これは口にしなかったが、どうかそれぞれ自覚を持ってほしい。それは彼らのためでもあるが、同時に洋のためでもある。


 彼らを安全に返すために、私もルールを破ることにした。


「全員、職員証を持っているね?」

「あります」


 4人が提示したものは本物だ。私は急いでパソコンを開き、許可証を作成した。

 万が一捕まっても、私が呼び、上陸許可を下ろし、船はこれを使うように指示したと言えばいい。


「それじゃあ、聡さんの迷惑になるんじゃ……俺が責任取りますから、大丈夫です」

「子供は黙って言うことを聞きなさい」


 もう成人してますが、という守くんの真面目な返答は無視だ。私からすれば子供。洋を娘だと思っていると認めただけだが、こんなにも心が軽く、どうにかして安全に帰ってほしいと願ってしまう。


「それからこれを船に貼りなさい。これがあるだけで、不審な目は向けられない」


 許可証と一緒に「神霊庁」と書かれたステッカーを渡した。いつか神霊庁がお遊びで作ったものを取っておいて良かった。

 仕事関係のものは捨てられない、変に真面目な性格が功を奏したな。


 彼らを船まで見送る。随分ボロい船に乗って来たものだ。それほど必死で、できる限りを尽くしてくれているのが、痛いほど伝わってくる。


「帰る前に。この島のものは何も持っていないね」

「持ってません」

「この島で見たこと、聞いたことは外で話してはいけない」

「それは……洋のことも、ですか? 話すことが禁忌なのはわかるんですけど……洋斗さんには話した方がいいかなって」


 近藤くんは、兄である藤堂洋斗は、過去について一番知るべきなんじゃないかと言った。


 確かに、洋の話は島とは関係がない。だが、この島であったこと――とするならば、話さない方が得策だろう。


「必要なことだけを話しなさい。みなまで話さなくていい」

「宇吉らには全て必要なことですが……」

「洋斗も全てを知りたがるだろうしな」


 全て話せば、洋と洋斗くんの関係に支障が出る。見せてもらった写真を見る限り、仲が良さそうだった。本当にそっくりで、笑った顔なんてほとんど同じ。

 何もわからなかったと言ってほしいが、それじゃあ納得してくれない。


「母親の名前だけ、伝えたらいい。澪の除籍謄本があるはずだから。恐らく、福島に本籍があるはずだ。確か市町村は――」


 22年前の記憶を辿り、ハッとした。澪が住んでいる街の話をしたのを思い出した。


「――私の地元さぁ、白虎隊ってのがいたのね。なんか可哀想な話があんの。あと仲間っていうのかな、新撰組だっけ? あれ関係もいろいろあるんだけどね。旦那が言うんだよね。新撰組はかっこいいってさ。だから私の地元にいるんだけど。調べたらただのチンピラじゃん。ああいうのが好きって、よくわかんないわ」


 ここまでくると、運命なのではないかと鳥肌が立つ。澪の出身地で、最後の幸才家が暮らした街は会津若松市。


 新撰組の誕生の地に、洋斗くんの始まりがある。洋の始まりもある意味そこだ。


「どこなんです?」


 伊東くんは私の顔を覗き込んだ。きっと、酷い顔をしていると思う。偶然なら不気味で、必然なら運命で。どちらにしたって全て仕組まれているのではないかと、喉の奥が締まるような痛みを感じる


「会津若松……だ。多分、そこが澪の出身で、家族で暮らした場所だと思う……」

「おや? 宇吉の出身地と近いですなぁ! 宇吉は喜多方でしてなぁ? その後、家族で米沢に夜逃げましたので、出身は福島なんですぞ? 会津若松も知り尽くしてますゆえ、お役に立てるかと」


 斎藤くんはハキハキと前向きに、幸才家について紐解こうとしている。

 それは他3人も同じだろう。次は会津若松か、と行く気満々なのだから。


「行くなら、洋斗くんだけの方がいい。澪から家族のことは聞いていたが、あまり……人には知られたくないと思う。呪いを解くために知りたいのはわかる。しかし、踏み込みすぎると何かが壊れるぞ」


 洋斗くんだけが知れればいい。自分の過去の中に解決策があるなら、彼が自分の口から伝えるだろう。


「約束してくれ。洋斗くんに伝えるのは澪の名前と本籍地だけ。それと彼に同行しないこと。洋を連れて行くなんてもってのほかだ」


 思わず口調が強まる。


「一緒に行くのはいいんじゃないかな。僕達は解呪のために調べてるんですよ?」

「知ることが救いにならないこともある。もし破るなら、船の盗難を警察に届ける」

「なぜ、そこまで……」


 わからない。だが、会津若松へは行ってはいけない気がするのだ。口走ったことを後悔している。理由はわからないが、とにかく胸騒ぎがして、よくないことが起きるのではと不安になる。


 洋斗くんに対する心配ではなく、頭に洋がちらつくから。洋が知ったら壊れてしまうのではないかと、親としての心配が止まらない。


 こういう不安は当たるんだ。取り越し苦労であれと願っても、嘲笑うように裏切ってくる。


「とにかく約束してくれ。それと、あまり洋のそばを離れないで。不安定が地震を起こすなら、解呪より安定を」

「放っておけば永遠に1人で生きるかもしれないのに、ですか……?」

「永遠に1人で生きるなら、知らないことがあったほうがいい……お願いだ、過去を知れば、洋はきっと耐えられない」


 私は頭を深く下げて懇願した。呪いが解けてハッピーエンドならいい。澪や洋斗くんの過去を知った洋が壊れたらバッドエンド。それを抱えて1人生きていくなら、そんな辛い地獄はない。


「わかった。聡さんの言うことを聞こう。沖田の心が壊れたら元も子もないのは事実だ。救うのは体だけじゃないからな」

「ここに来て、お義父さんと普通に話せると思ってなかったですしね」

「秀喜殿? また漢字が違いますな?」


 近藤くんだけが腑に落ちなさそうだが、それも洋を想ってのことだ。


「洋は近藤くんのそういう優しさに救われていくよ」


 彼の背中をポンポンと優しく叩く。彼は私を見て、ほわっと花の咲いたような笑顔を見せた。


「認めてくれたってことですよね? いやぁ、まいったなぁあ」

「……洋は大変だな」


 あの子が誰も選ばないのがわかる気がした。彼らの重く捉えすぎず、かといって茶化さず、器用なようで不器用な優しさが痛いくらいだから。


 洋は迷って、このままでいたいと思っているのかもしれないな。


「さあ、帰りなさい。お言わず様は必ず守ること。君達に不幸が降りかからないように、絶対約束だ」


 強引に彼らを船に乗せた。あまり長居されると、1人になった時の寂しさで身が裂けてしまうかもしれない。


 その方が罪を償うにはいいが、私にそんな強さはない。

 最後に乗り込む守くんは立ち止まる。


「聡さん、ありがとう」

「お礼を言うのは私の方だ。守くん、洋を頼んだよ」

「……沖田は俺の半身だから。頼むも何も、自分のことです」


 君のその覚悟は、私がかけた呪いだろうか。


 私は船を出す彼を見送った。本当は一緒に乗り、洋のところに行って、許されなくても謝りたかった。

 ちゃんとお父さんになるよと、今ならなれると、側にいてやりたいと思った。


 しかしね、それではいけないんだ。


 私はここで、洋を寂しがらせた罪を償っていくのだから。

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