63勝手目 冒すためなら"侵す"だけ(3)
翌日の昼。新見へコンタクトを取る。
晴太は俺と伊東を部屋に呼ぶ。会議と偽り、誰も入ってこれないようにすれば沖田にもバレない。
沖田には「スリートップ気取りやがって! 新撰組って言ったら沖田だろ!」と騒がれたがな。
『いかついこと頼んでくんなぁ……』
新見にテレビ電話をかけてデータベースの件についてお願いすると、渋い顔をされた。
親の立場を利用して、個人情報を盗み見る。まぁ、犯罪を犯してくれと言っているようなもんか。
「無理ですか?」
『無理っちゅうわけやないけど……ほんまはアカンよ? んま、娘に甘いっちゅうか……データベースいじるん自体はお父に怒られへんと思うのよ。ただ、履歴が残るやろ? その言い訳がなぁ……いうたら呪われた子の親を調べるわけやん。神霊庁が嗅ぎつけて、新撰組と関係ある思われたら、お父はどうなんねやろ……と思って』
伊東と同じく、守らねばならないものがある人間だった。新見の父親には全く関係のない事案で、言われのない罪のせいで処罰が下る可能性がある。新見が心配しているのはそこだろう。
「無理はしなくていいぞ。関係のない人を巻き込むつもりはないし、詳細を知らなくても決行するつもりだからな」
『ほんならさ、言い訳考えてくれへん? ウチは身内やから、心配で頭回らんのよ。お父を守れる言い訳さえあればなんぼでもやるわ』
「言い訳……か」
考えても思いつくのは一つしかない。誰のせいにもしないなら、これしかないだろ。
「俺達に脅されたと言えばいい。睨まれる目が増えれば息苦しくはなるが、こっちには呪われてる奴があと3人いるんだ。何をされるかわからなくて調べた――と言えば、神霊庁も信じるんじゃないか?」
「信じると思うよ。神霊庁は面倒事が大嫌いだからね。また新撰組か……って納得しちゃうと思う」
ほらな、晴太がそう言うんだ。最悪、沖田に地震を起こしてもらえばなんとでもなるだろ。
新見も妙に納得した様子だ。やはり神霊庁に長くいればいるほど、組織の弱点を把握している。
聡さんと葵さんの情報収集を頼むと、真面目な顔から一転、ニコニコとカメラに近づいて来た。
『ほんで、いつ行くん? 皆で行くんやろ?』
「まだ決めてない。ただ、祈とネリーにも話したら、葵さんと話がしたいと言ってたからな……恐らく全員か? 武田は福島からも呼ばれてるから検討するが」
行くとすれば2チーム4人ずつ。沖田と樺恋、勝は勿論連れていけない。
武田に至っては屯所に馴染むのも精一杯、ましてや事務仕事や神霊庁の雑務で目を回している。そんなやつに「うちは法を犯すタイプの組織なんだ」なんて言えないしな。
そこは晴太も気を遣っていて、仲間だけど全て話すのは酷だろうと黙ってくれている。
もちろん、武田が知りたいと言えば話すつもりだ。
『沖田とちびっ子2人じゃ不安ちゃう?』
「不安だよ。いくら洋が強いとわかってても、ほら……3人には寂しい思いさせちゃうわけだし」
『……らしいで? どないす?』
なんだ、その1人じゃないような口ぶり。新見の問いかけに、画面に顔が6つ集まった。しかもドアップ、圧がすごい。
全員で話を聞いてたなら、もう巻き込むしかないぞ。
『牛タン、ずんだ、笹かまぼこ……いやいやいや、やっぱ酒には牛タンだよなぁ?』
谷がメガネをくいとあげてそう言えば、ほかの5人もニコニコ笑う。
『ボクらがそっち行くから、留守は任しときぃよ』
『ま、勝くんにも、あ、会いたい……!』
相馬、愛に続き、
『洋だけじゃロクな飯も作れんじゃろ?』
いなりしか出さなさそうな服部。
『皆さん仙台へ遊びに行きたいだけですよね……』
最後の尾形のセリフが本心なんだろうが、留守を任せるなら心強い6人か。
晴太はそれなら沖田も寂しくないと安心した様子だが、伊東は不服そうだ。組んだ腕に指先が減り込むような力を入れている。
おいどうした。
新見への拒否反応はまだ健在なのか。沖田が仲良くしてるんだから許してやればいいのに……と肩を叩こうとしたが。
「絶対にまた誰か洋に堕とされる……!」
「え!? あ、じゃあダメ。来ないで。ように変な虫が付くようなら大丈夫です。新見さん調べ物お願いね! じゃ!」
『なっ!?』
伊東の一言を鵜呑みにした晴太は息を切らす。パソコンも精密機器がなんだとばかりに勢いよく閉じた。
叩けば直ると言うが、叩くから壊れるんだぞ。
「伊東さんが気付いてくれたからよかった。服部さんとか怪しいもんね」
「かと言って新見と愛だけじゃ信用出来ませんし」
「仲が良いのと信頼は別だから、全く困ったもんだよ」
困ったもんなのはお前らだ。この嫉妬深さと疑り深さ、どうにかならんもんか。
◇
沖田には知られぬように作戦は進められる。決行日は5月中ば。
沖田には晴太から研修があると伝えてもらう。その間は樺恋と勝と3人で留守を任せるていいかと確認をとると、一言で了承してくれた。
しかし、次には「神霊庁はアタシのこと嫌いだもんね」と、自分だけ外されていることが寂しいと匂わせるように、畑へ行ってしまう。
日にちが近づくに連れて畑にいる時間が長くなった。よく働いているなと褒めてやっても、機嫌取りだとバレてしまう。
移動手段の話をすれば、わかりやすくその場から離れる。飯を食えば自室に篭り、なるべくその話題に触れないように自衛しているようだ。
ある夜、奥間で風呂上がりの祈が顔面にパックをつけながら俺と晴太を呼ぶ。
せめてパック外せ。真面目な話なら吹くぞ。
「新選組、呼んだ方がいいんじゃない? 晴太と秀喜の私情のせいで寂しい思いさせるの?」
「でも心配じゃん。男が4人もいるんだよ? 学さんみたいな人だったらどうすんのさ」
晴太へ。ここには8人の男が住んでいます。それはスルーでいいのですか。守より――思わず心の中で手紙を宛ててしまった。
祈は顎が外れたように口を開けて、変顔をしながら肩をすくめた。笑わせにきてるだろ。
「あのねぇ……学は論外だけど、晴太や秀喜みたいに独占欲丸出しな方がおかしいんだからね? 仮に京都の男4人の誰かが洋に惚れたって、それほど自分の好きな子には魅力があるって誇ればいいじゃない。少しは守を見習いなさい」
祈の言う通りだ。……主張の一部は除くが。
樺恋と勝がいない日中は、広い屯所で1人になる。家事や畑に追われたとしても、人の声がしないだけで寂しさは拭えない。
子供2人と大人1人。2人がいても、紛れない感情はあるだろう。
「私達は洋に寂しい想いをさせた人達をぶん殴りに行くの。その間に同じ想いさせてどうすんのよ」
「……ぐうの音も出ないや」
「じゃ、呼びなさい。洋は全員と個人的に連絡取ってるみたいだし、今更心配しても遅いのよ」
叱られて口を尖らず晴太は俺を見て来た。助けてとかそんなんじゃなく、小言ばっかでうるさいと思ってるんだろう。
晴太らしからぬ適当な謝り方。反抗期と思春期が今来てるのか? 恐らく好青年と言われてきたんだろうが、今の晴太はまるで恋に翻弄される男子中学生な。
彼が携帯に触れると、パジャマ姿のちびっ子2人が今だと駆け寄って来た。
「電話しなくていいわ! もう京都のみんなには来てもらうって電話したわよ。あたしってばユーノー!」
「なんで樺恋ちゃんが勝手に連絡してるのさ。今日はエイプリルフールじゃないよ」
「嘘じゃないです。樺恋ちゃんの権利を使っただけですよ、晴太さん」
勝は樺恋は悪くないと庇うが、晴太はクエスチョンマークを頭上に浮かべてポカンとする。
「忘れたのぉ? あたしは文人をサブスクリプションしてるんだから!」
その手があったか。一度断られた新選組の連中も、樺恋が契約を結んでいる谷が呼ばれれば付いてきたっておかしくない。
なるほどな。これは樺恋の方が一枚上手だ。小学生4年生になるが、出会った時に比べてますます賢くなるもんだ。
晴太の負け。この場に居ないが、伊東も負け。
あとは新見の結果報告と日にちを待つばかりだ。




