63勝手目 冒すためなら"侵す"だけ(2)
その晩に晴太と伊東、洋斗と宇吉、学を部屋に招いて昼間の話について伝えた。
それがついさっき思い立ったようなことではないことや、沖田だけでなく洋斗を知るためにも必要だという説明。
「まず最初に。船なんて持ってませんよ」
「お金持ちなのにぃ!?」
「釣りとか興味ないですし。そもそも海に行きませんからね。というか、仮に持っていても今回は協力出来ませんよ」
「なんでだよ。秀喜のくせにケチだなぁ」
洋斗と学は伊東はケチだとコールする。眉間に皺を寄せて苛立っているのは一目瞭然だが、感情のままに物を言わないのが伊東。
「法を犯して捕まった時、オレが所有物だってだけで何千人に迷惑がかかるんですよ」
「大袈裟だなぁ。自意識過剰じゃね?」
学の一言に伊東は舌打ちした。
「禁忌を冒しすぎて頭おかしくなってるんですか? ……オレは一企業の経営者の親族です。父親だけじゃなく会社の信用問題にも繋がる。その会社には何千人の人間が働いていて、その家族や共にする人間がいる。オレ1人のせいで、何千人の生活を脅かせません」
至極真っ当。所有物である船を貸して捕まりでもしたら、大きな会社である大きなニュースになる。
それはスクープになり、神霊庁や俺達、沖田の存在だって面白おかしく広まりかねない。
そこまでは考えていなかった。迂闊だ。知らねばならないという頭ばかりで、誰かに迷惑が掛かるなんて考えもしなかった。
「って言ってもよぉ……んじゃあ諦めんのかよ」
法を犯すリスクなんて、想像しなくても「まずい」のはわかりきったこと。
それでも不法上陸を目論むんだ、いよいよ俺達は犯罪者。それでもいいと思ってるあたり、もう普通じゃないな。
「別の方法を考えよう。法は犯さず、地道にやれることを」
「とは言え、やらないとは言ってませんよ」
全員が伊東を見る。さっきやらないみたいな口ぶりだったじゃん!? と言いたげな顔をされても無理はない。
伊東は組んでいた腕を解き、携帯を開いて、とあるニュース記事を見せてきた。
「幸か不幸か、先日放置船の撤去や対策に苦しんでいる行政がある……という報道がありました。それをうまく使えばいいのでは? 所有者はすでに法を犯しているんですし、もし見つかっても我々は島に身を潜めれば良いこと。まぁ運次第ですが……さすがに神霊庁だって、オレ達に沖ノ島に居座られるのは嫌でしょうから、迎えに来るんじゃないですか」
なるほど。全員が口を揃えた。伊東は得意気な顔まではいかないが、ほんの少しドヤる。
調べればいくらでも出てくるでしょうとでも思ってんだろうよ。内心はわからんが、そういう奴だ。
調べれば沖ノ島のある福岡も例外じゃない。放置船を探して不法上陸なんて映画みたいだな。
とは言え、褒められたことではないが。
「……じゃあ、沖ノ島に行く方法はそれでいいとして。葵さんのところには行くの?」
「行く必要あるか? あの人、ろくに沖田のこと見てなかったぞ」
「でも、小さい時は可愛かったって言ってたよ。洋を引き受ける時のことは知ってるんじゃないかな」
「……それもそうか」
葵さんがいるのは沖縄県、ということしかわからない。所属支部、勤務地を調べようにもデータベースから弾かれる。探すところから始めるのは骨が折れるぞ。
聡さんなら知っているかもしれない。一度沖ノ島へ行って、居場所を聞いた後に沖縄へ行く?
だがその場合、沖田につく嘘に困る。2日3日なら研修だとか言えばいいが、それ以上は沖田もさすがに怪しむのでは?
少人数で行けばいいかもしれないが、そうなれば晴太と宇吉、万が一の事を考えて過去でも連絡の付く学……。
いや、女性メンバーがいないのも怪しまれる気がする。しかも1箇所じゃなく転々とするんだぞ?
「そのデータベースって、おれ達だからアクセス出来ねぇの? 上の人ならイケるってわけ?」
「多分ね。統括部長の僕は入れなかったけど」
「え? んじゃ新見に頼めばよくね? 新見の親父なら見れんじゃねぇの?」
脳裏にチラつく、赤縁メガネ。沖田と毎日テレビ電話をしている、あの新見に?
「新見殿に規則を破れと申すのですな?」
「いんじゃね? 裏でサポートしてくれんだろ? 新見くらい気ィ強い女なら、どってことねぇべ」
京都支部長クラスならさすがに閲覧出来るだろう。悪いことをしてくれとお願いするのは心苦しいが、ここは学の提案以外に解決策が見当たらない。
「頼むか……新見に」
「そうだね。新見さんなら洋と仲が良いし、それにほら……後ろめたさがあるから了承してくれると思うよ。新選組や祈には僕から話しておくから、ネリーさんには伊東さんと洋斗さんが話しておいてね」
今回もまた晴太に負担をかけてしまう。だが、晴太は愚痴も不満も言わずになんとかしてくれる。本当に頼もしいよ。
「わかった! で、行く人はどうするの?」
「それは追々話そう。くれぐれも沖田にバレないようにな」
このことは迂闊に口にしないように。固く約束を交わすと、各々部屋を出て行く。が、すんなり出られないのがお決まりというか。
「皆で集まって何してんだ?」
「よ、洋……? えっとね……その……」
「よ、洋さんはド、ドシタノ? 夜遅いのに、ジュースなんて太るよぉ?」
扉を開けたら、台所に飲み物を取りに行った沖田と鉢合わせてしまった。わかりやすく動揺する晴太と洋斗は汗をかく。
沖田は反応に引っかかったらしく、押しに弱い2人にとことん詰問。晴太が近い、と顔を隠してのぼせる。無意識に手を伸ばして沖田を捕まえようとしてるんだ。お前、むしろラッキーくらいに思ってるだろ。
「洋は聞かない方がいいぞ? 男には男にしか話せないこともあるからなぁ」
学が晴太と洋斗の間から顔を出した。嫌な予感しかしない。頼むから黙ってくれ。
「何があんの?」
「ドスケベなオカズの話だ。まさか女子やお子様の前では話せないからな。いやぁ、有意義だった」
「土方の部屋で?」
「守が1番スケベなんだよ」
「へぇ」
沖田は無表情で部屋に入っていく。いつもは鍵なんかかけないくせに、施錠し、部屋の中からは机を動かす音がした。恐らく中の扉を塞いでいるんだろう。
頭が追いつかないが、とんでもない誤解をさせたのは確かだ。
伊東がスパァンと学の後頭部を叩いた。目に光はない。
「違約金倍額にしてやりましょうか」
「ごめんごめん! 兄ちゃんには上手く交わす方法がこれしか……それに、男はほとんどがドスケベだろうが! 潔白みたいな顔しやがって! どうせ毎晩いそいそ欲の発散してんだろうが!」
「学くんと一緒にされたくないよぉ……」
さすが下半身で失敗しただけある。コイツが言うと説得力が違う。
皆学に文句を垂れているが、いや、1番の被害者俺じゃないか。沖田に最もスケベな奴だと思われてんだぞ。
こんなことしたくはないが、致し方ない。皆に詰められる学に頭を下げた。
「お前と従兄弟であることが心から恥ずかしい。頼む、死んでくれ」
「改まんのやめてぇ……?」
沖田にバレないように。それは難しいことなのだ。多少の犠牲も払いつつ、沖田には大きな傷にならないように。
今回でいえば「仲間外れにされた」という気持ちにはさせなかったから、学には少し感謝しなくてはならないかもしれない。
するわけないだろ。マジで死んでくれ。




