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63勝手目 冒すためなら"侵す"だけ(1)


 冬が過ぎて春が来る。


 年が明けてからも変わらず慌ただしかった。

 

 各々が年度末に追われ、勝も社会へ飛び込んで、俺は卒業に向けて走りきる。

 沖田が寝れないと騒げば、禁忌を冒して人助け。室戸台風の事があるから、俺1人で事案を決めるのはやめた。


 傷付く事がわかっているのに過去へ行かせるのは嫌だったが、眠れないと毎日苦しんでいるのを見るのも嫌。


 それに。


 寝れないと沖田が言えば、伊東が夜通しゲームに付き合うのも気に食わなかった……とは口が裂けても言えん。


 日常と非日常を行き来しながら毎日を生きていると、あっという間に3月。

 恐れていた留年を回避し、晴太との約束――大学を卒業するという約束を果たせたことに安堵する。


 卒業式には最後だからと、沖田と晴太が校門まで顔を出しに来てくれた。大きく手を振り、俺の名前を誰より大きな声で呼ぶんだ。

 まるで2人とも同級生みたいだな。


「卒業おめでとう! 4月からは正式に神霊庁の職員だね」

「あまり実感はないがな。晴太のおかげだ」

「僕は繋いだだけだよ。ひとつ心配なのがさ、神霊庁の職員をしながら翻訳家なんてできるのかい? 忙しくない?」

「学校がないだけマシだ。無理のない程度に調整するさ」


 が、正直不安だ。


 フリーランスとして本格的な翻訳家になるのだから、日々勉強を継続しなければならない。

 沖田の呪いが解けたら神霊庁は辞める。沖田が翻訳家になれと言ったんだ。今までもこれからも、ずっと振り回されていたい。


 それが生き甲斐で、今の俺を作ってくれたんだから。誰が言おうと沖田には感謝している。


「ありがとな」

「アタシが卒業させました?」

「農家さんみたいな言い方だね。洋は唐揚げ食べてただけじゃない?」

「それはある」


 めでたさも相まって、口を大きく開けて笑ってしまう。やっと晴太と並び、沖田の解呪に専念出来る。副長として屯所に堂々と居られる。

 それがたまらなく嬉しいんだ。


 3人で何か食べて帰ろうと晴太が誘ってくれる。幼馴染だけで過ごすのも良い。せめて武田に挨拶してから――と、姿を探すつもりでいれば、あちらから来てくれた。


「副長ぉ、最初で最後の飲み会参加してよ。皆来て欲しいってさ」

「飲み会……」


 大学生なのにと言ったら、失言とも取れるだろうか。俺は一度も飲み会とやらに顔を出した事がない。

 必要性も感じなかったし、何より行きたいという気持ちが進まない。


「行ってきたら? 武田くんも行くんだよね」

「一応。最後だからワンチャン行くかなって」


 晴太は青春は謳歌するべきだと言うが、俺の酒癖の悪さを知りながらよく勧められたもんだ。


 むしろ知られればいいのに……って思ってるだろ。目を細めて口角が上がるのを抑えられてないのが何よりの証拠。


「行くのか?」


 沖田は抑揚のない声で聞いてくる。さっきまで3人でといっていたのに、飲みの誘いが来たからテンションが下がったんだろう。


 武田づてに俺がくるのを待つグループの中には、沖田を悪く言っていた女子もいる。そんな奴らも居るなら、どうせまた中身のない質問をされるだけだ。


「気持ちだけ受け取っておく。俺は行かない」

「最後も来ないんだね。ま、副長らしいっちゃらしいけど。自分ら的には寂しいっていうか」


 晴太と沖田には先に歩いててくれと言い、武田と2人になる。4年間一緒に過ごしてくれた“友達“と学校生活最後の時間だ。


「ずっと俺らしくいたいんだ。沖田に振り回されて、沖田の隣にいたい。少しの時間だって離れたくない。だから、行かない」

「はは。本当に好きだね、沖田ちゃんのこと。これも今日で見納めってのが寂しいや。もう少し見てたかったすけど……自分も神霊庁に入れられて、福島支部に行けって言われてるし。副長とはお別れだ」


 就活浪人になりそうだった武田は、晴太の計らいで神霊庁の職員になれた。元々若者不足だから断る理由がない福島支部は大喜び。


 とりあえず職も決まって一安心な武田も、心に余裕が出来て今を謳歌したいのだろう。


 が、友達の顔はここまで。表情が変わったのを見て、武田は一歩下がる。


「青森の時と同じ顔してますけど……」


 何も怯える事ないのに。本来であれば神霊庁――いや、局長から話すべきだが、ここは俺が伝えても良いだろう。


「飲み会前にすまんな。口頭だが、武田に人事命令だ」

「じ、人事命令? どゆこと?」

「明日から武田は屯所に来い。呪いや八十禍津日神の話を知ってるんだ、他には行かせないぞ」

「はぁ!? 急に言われてもわかんな……いや待って!? だから荷物全部返送されて来たんすか!?」

「送料は伊東に請求しておけ」


 福島支部の用意した寮に用事はない。意地悪に思うだろうが、この人事だって決まったのは昨日だ。福島支部と揉めに揉めて、勝ち取った武田の人事。


 もちろん友達だからと言うのもあるが、1番は沖田が「武田はうちに来ないの?」なんて言うから、新撰組として揃えてやりたかったのだ。


「荷物は明日取りに行く。またな」

「ちょぉお! 副長! 頭追いつかないんすけど!」


 困った叫び声を背中に、幼馴染の2人の元へ走る。頼れる隊士なかまは増えていい。

 武田は男だが、沖田に下心がないから、なおさら受け入れやすいもんだ。



 そして4月――。


 武田も屯所へやって来て、樺恋と勝は学年が上がる。

 2人とも楽しそうに登校し、庭に咲いた桜が彼らの成長を喜ぶように見えた。


 沖田は時間に余裕の出来たメンバーと畑仕事に勤しむ。時々「芋虫いたぞ」とわざわざ部屋に来て見せに来るんだ。楽しんでいるんだろう。


 今だって種植えを祈と学も共に和気藹々とやっている。

 奥間の机にノートパソコンを広げながら、その様子を見てゆったり出来るのは、何よりの平穏だ。


「洋、ここに何植えたの?」

「え……そこ……? なんだっけ……? ブロッコリー? いや……にんじん……じゃがいも……」

「煮る系ってことか? まあ水やっときゃ大丈夫だろ」

「良くないわ! 掘り起こせ! どこに何植えたかわかんないようにしなきゃダメでしょ! バカッ」


 なんでも適当な沖田と学は祈から拳骨をくらう。しょげても自分達が悪いんだ。せめて品目のネームプレートくらい用意しておけ。


 呆れ気味に眺めていると、洋斗が声をかけてくる。


「土方くん、いいかな」

「うん?」

「突然席を外しても変だから、小さい声で話すね」


 洋斗は声を顰め、真面目な顔をする。なんとなくだが、話そうとしていることは察しがついた。


「時間の余裕も出て来たし、そろそろ聡さんのところに行くのを考えてもいいのかなって」


 読み通りだ。忘れていたわけではないが、時期が悪かった。そろそろ本気で考えないといけない。


「手段は調べたよ。でも……やっぱりボクらみたいな一般人には行けないみたいだ。聡さんの入庁からの経歴を調べようにも、神霊庁のデータベースにアクセス出来ないし。やっぱり犯すしかないのかなぁ」

「アクセス出来ないって……神霊庁の職員なら誰でも見れるんじゃないのか?」

「ボクもそうだと思ったよ。個人情報保護のためならわかるけどさ、ボクらだから弾かれてるかなと思って……実際、神霊庁にこんなことお願い出来るくらい仲良しな人いないし」


 まずはあの人を知るべきだとは思ったが、しれないようになっているとは。本人がそれを望んでいるならいいが、組織ぐるみなら俺達はだいぶ嫌われている。


 それでも、わけのわからんオカルト騒動だの、お祓い、辺鄙な場所に祠や鳥居の手入れ、施設への手伝い、諸々の事務仕事はちゃんとやってるんだがな。


 嫌な仕事はぶん投げて、ほかは知らん顔か。


「島に乗り込むって言ってもな……まさか金払って法を犯してくれる船乗りなんていないだろう」

「ボスに船の免許ないの? って聞いたけど、必要あります? って返されたしね」

「普通に生活してりゃあ必要ないからな」

「うーん……」

「ありますぞ? 船の免許」


 会話にぬるりと入った宇吉。彼にしては控えめな声量だ。どこから聞いていたか知らんが、気配を消すな。お前は忍者かなんかなのか。


「船の免許だよ?」

「あい、持ってますぞ。ちとお待ちを」


 サッと消えて、サッと戻って来る。動きに無駄がないのはわかるが、これも使用人という立場なら当たり前のことなんだろう。いや、知らんけど。


「どやっとして、よろしいですかな?」


 1級小型船舶操縦士免許と書かれたカードを自慢げに見せてられる。

 洋斗はすごいと驚くが、声がデカいから口に手を押し付けた。


「いつか必要な時が来るであろうと思いましてなぁ。取得しておいて正解でした。ちなみに船は持っておりませぬ」

「船はボスが持ってそうじゃない? お金持ちだし」

「確かに! で、どちらへ行かれるのですかな? 皆で釣り、いや、クルージング?」


 宇吉だけに"ウキウキ"で面舵を動かすような素振りを見せる。どうやらGWの行楽のことを考えていると思われたようだ。


 バカめ。最近は穏やかで傷のない日々だったから忘れているんだろうが、俺達は「神霊庁の荒くれ者」だぞ。


「法と禁忌を冒す。免許があるんだ、今更逃さないぞ」

「法……!? ……ま、まぁ、法は誰でもしれっと犯してますからな。お釣りをもらって返さない……とか」

「その感覚でいてくれ」

「今さら後には引けませぬ」


 宇吉は理解が早くて助かる。日にちはさておき、船を使って不法上陸することに決まった。

 あとはメンバーをどうするか。1番は、沖田にバレないようにどう行くかが重要だ。


 これは晴太と伊東に相談しよう。


「土方ァ、野菜の名前書く看板作ってくれよ」


 畑から土まみれの沖田が、鍬を持って呼びかけてくる。


「それも含めて畑仕事だ。自分でやれ」

「1個作ったけど面倒くさいんだかんね!? ほら、見ろ!」


 沖田が見ろ見ろとしつこい。祈と学は笑いを堪えているようで、体をぶるぶると震わしている。3人で縁側に立って、沖田に鍬で指された場所を見た。


 ふわふわとした土に刺さる、手作りの木製ネームプレートには「相馬」と書かれている。


「これじゃあ相馬殿が埋められているような……」

「相馬からもらった種、なんだかわかんないんだもん」

「ハテナとかにしよう、とは、言った、のよ? でも……洋が……これでいいって」


 祈は我慢に限界が来て、普段からは想像出来ないくらい腹を抱えてゲラゲラ笑う。学も息が出来ないらしく、土の上に寝そべってヒィヒィ言ってんだ。


 不謹慎にもほどがある。だがしかし、ちょっと面白い。


「写真撮って送るか」


 俺は携帯で沖田がピースをしているのも含めて写真を撮り、そのまま新撰組と新選組の全員がいるグループチャットへ送信した。

 そしたらなんだ、服部から始まり、京都の奴らの返信が早い。


 それぞれの登録ネームが綺麗に並ぶ。


『服部司:何が面白いかわからんが、笑いが込み上げてくる』

『谷:死んだのか』

『にいみきちの:ええ人やったね』

『愛 松原:さっき会ったのに……』

『尾形誠:沖田さん、相馬くんをヤっちゃったんですね』


 さすが関西人……と言っていいのか。ノリがいい。この反応がおかしくてニヤけてしまう。


 そして本人がチャットに現れたと思ったら――。


『そーま:これは沖田はんを撮ったというアピールね。ボクがあげた種を見せるフリをして、ほんまは沖田はんが撮りたいし、こんな可愛い笑顔やから皆に自慢したいけど素直になれん土方はんのデレ部分という解釈でよろしいでしょうか。そして質問ですが、この写真は待ち受けにしますか? とてもいい笑顔なのでいつでも見たいのでは……というオタク的解釈で申し訳ありませんが回答マジでお願いします』


 そうだ。コイツは病気だった。沖田を映さなきゃよかったと心底後悔する。しかし、もう遅い。


「待ち受けにするのぉ?」


 洋斗が横目を向けながらニヤリと揶揄う。


「するわけないだろ!」


 相馬にはただ一言、「深い意味はない」と送る。なんだか逃げたくなって縁側を離れて自室に戻るが、顔が熱くて仕方がない。


 途中、晴太の講習で干からびた武田とすれ違った。挨拶を交わすや否や、コイツは訳のわからんことを言う。


「副長が手帳型のケースにしてるのってさ、沖田ちゃんが待受だからだよね。もうバレたからよくない?」

「バッ……! 相馬に毒されるな!」

「あれ、違った?」


 どいつもこいつも揶揄いやがって。扉を勢いよく閉め、扉に寄りかかりながら座り込む。


 あぁそうさ。武田の言う通り、数年前に京都へ行った時に撮ったツーショットだ。

 紅葉が綺麗だったから、合コンの誘いが鬱陶しいから。そんな言い訳を考えていた時期もあったな。


 だけどこの写真を見られるのは恥ずかしくて、極力人前で携帯に触らないようにしていた。


「ダメだ。当たり障りのないものにしよう」


 数時間後――急に携帯をその辺に置くようになったのが怪しいと言われ、再び揶揄われるとは思いもしなかった。


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