62勝手目 兄妹で冒せば怖くない
今年も終わる。クリスマスも過ぎて後は年越しを待つばかり。
大型連休だし、みんなで大掃除でダラダラ過ごす? なぁんてお気楽なことは言ってらんないのが神霊庁の職員、ってね。
今年もどこかの神社に駆り出されるのかな……って覚悟して待っていたらね、「藤堂洋斗はどこの神社・寺にも来なくて良し!」みたいな内容の通知が届いてさ。
洋さんとの血縁関係があるからなんだろうけど、形にされると傷つくや。
ボクや洋さん、ボス以外は例外になく駆り出される。土方くんの友達・武田くんもメンバーに入っていて、きっと青森で理不尽に巻き込まれたんだなぁと気の毒になる。
新撰組の皆は偶然か必然か、東北の生まれが多い。だから年末年始は散り散りだ。
晴太さんは青森、学くんは岩手、祈さんは秋田、宇吉さんは福島、武田くんは山形、そして土方くんとネリーは宮城――皆、休みたいって顔を青くしてる。
ボスはお父さんの会社のことで東京へ行くと言っていた。樺恋ちゃんも毎年、宇吉さんのご実家に行っているみたい。
洋さんは、どうするんだろう。家族同然の土方くんちに行くのかな。ボクにとっては家族だけど、過ごした年月が浅いから兄である自覚もない。
容姿だけがボクは兄なんだって自覚させるけど、距離感的にはまだまだ他人なんだよね。
今年は勝くんと2人かな。
彼も穏やかな年越しは初めてだろうから、心に残るものにしてあげたいけど。
どうしても"家族"がいるのに一緒に過ごせないなんて……と同じことをぐるぐる考えちゃう。
だから気付いてって念を送りながら、奥間のこたつでお餅のアイスを食べてソシャゲをしている洋さんをジッ……と見ちゃうのさ。
「何?」
「んぇえ? うぅん? べぇつにぃ?」
「……2個しかないのに1個まるごと欲しいのか?」
「くれるの!?」
「お兄ちゃんなのに妹の取るんだ。卑しいねぇ」
「んがっ」
言葉ではお兄ちゃんと言ってくれる。だけど距離は……やっぱり遠い。
年末年始、一緒に過ごさない? ってさあ、兄妹なのに改まって重たいよね?
「しょうがないなぁ。あげるよ」
「え!? いいのぉ!? ありがとう」
「お兄ちゃんに譲ってあげる妹、優しかろう?」
と思ったら、2個あるうちの1個を譲ってくれるんだもん。兄妹だなぁって思わせてくるし。
そうだよ、兄妹なんだからもっとフラットに行けばいいんだよ!
アイスの求肥部分を同時にみょーんも伸ばしたなら、言ってしまえと勢いがつく。
「洋さん、年末年始どうするの?」
「屯所にいるよ」
「土方くん家、行かないんだ」
「居なくていいなら行ってもいいけど」
「そんなこと言ってないじゃんかぁ。ただ……親代わりみたいだったって言うからさぁ……行くのかなぁってぇ」
洋さんはアイスで冷えた体を温めるために、熱々のお茶を飲んだ。その湯呑みをボクの前に置き、覗くと半分残っている。
「兄妹いるのに行かないよ。勝もいるし」
「一緒に居てくれるの!?」
「きも!」
「じゃあさじゃあさ、年越しそばとか食べるよね!? 勝くんにも何食べたいか聞いてさ、パーティーしよ!?」
年甲斐もなく舞い上がっちゃう。おじいちゃんとおばあちゃんと過ごした年末年始も大切だったけど、兄妹がいるなんて夢にも思わなかったもん。
頭の中で思い描く年越しの理想を語りまくる。洋さんは聞いてはくれるけど!同意はしてくれない。相手がボクだからかな、なんて被害妄想も膨らむ。
上がったテンションは段々と落ちていって、洋さんには響かないんだ……と肩を落としちゃう。
洋さんが終わり? と聞いてくるから、小さく返事して頷く。
「ちんちくりんのやりたいこともやろ。でもさ、もっと楽しいことしようぜ?」
「何ぃ?」
他のメンバーに聞かれないように――と、こそこそ耳打ち。洋さんの"楽しいこと"は、楽しいというより悪戯。だけどボクも乗っかってしまいそうな特別感もある。
「なに兄妹揃ってニヤニヤしてんのよ」
祈さんが通りかかる。ボクらのやりとりに頬を緩ませてくれるけど、祈さんには秘密なんだ。
「なぁんでもなぁい」
声が揃うと、祈さんは「兄妹ってより双子ね」と去っていく。
勝くんも巻き込めば、彼にも特別な年越しになるはず。
◇
今年最後の日。3人だけの屯所は静かだ。
皆は年の終わりと年の初めに戦場へ向かうけど、ボクら3人は日中からゴロゴロ。夜に備えて食べ物を買い込み、あとは適当に動画サイトを垂れ流す。
この無駄な時間が有意義なんだよねぇ。気持ち良くなって、お昼寝して、起きたら夕方で。
「夜、寝れるかな」
「バカだなぁ。今からが楽しいんだよ。勝は眠くなくて正解なの」
「どういうことですか」
「夜になればわかる! とりあえずご飯食お」
洋さんはスーパーで買ってきたお惣菜をズラッと並べて、さぁ食べろって箸をくれる。
唐揚げにチーズソース、フライドポテトをピザで巻いたり、ナポリタンにハンバーグ。主役と主役を掛け合わせるアレンジレシピ。
病気になりそうなハイカロリー。その熱量が大晦日の特別をさらなるものにしていく!
「祈さんに怒られませんか」
「祈は秋田、宇吉は山形、晴太くんは青森。怒る人は居ない。勝、これはパーティーなんだ!」
「そうそう! 悪いことしてる時が楽しいってのも、人生の醍醐味だからねぇ」
「じゃあ、夜更かしも楽しいですか」
「楽しい楽しい!」
ボク達は悪い兄妹だ。社会の入り口も立っていない少年に、いけないことを吹き込むんだから。
散々飲んで食べてを繰り返したら、アラームをかけてまた少し寝る。
そして22時30分。アラームが鳴ると、いよいよ今日のお楽しみ。
いそいそと出かける準備。勝くんも寒く無いように防寒させて、車のキーを取れば準備完了。
運転スキル皆無だから運転禁止と言われている兄妹だけどね、今日ばっかりはそれも破っちゃうよ!
後部座席の勝くんが石のように固まりながら、ボクらの危なっかしい運転に揺られている。
目的地付近の空いている駐車場に車を停めて、早足で人混みへ紛れ込む。おしくらまんじゅうなんて生優しくて、3人が離れないようにするので精一杯。
“大崎八幡宮“の年越しは、やっぱりすごいや!
「どこにいんだ?」
「境内の中じゃない? お守りとか売ってそうだけどねぇ」
ボクらはある人を探している。人でごった返すけど、近くにいればビビッと来るはずだ。参道の階段はなかなか前に進まない。
年越し前には見つけたいね、なんて言いながら一歩踏み出すのを待つ。すると洋さんが肩を何度も強く叩いてくるんだ。
「居た!」
列から抜け、一目散に駆けていく。その人にそろそろと近づき、後ろから声をかけた。
「真面目にやってんのか!」
「なっ――! なんだ……沖田か……」
自前の防寒着の上から神霊庁の半被を着てカメラを持った土方くん。洋さんの声に驚いた様子だけど、すぐに笑って嬉しそうにしてくれた。
その様子だと記録係を任されてるのかな。彼には適任だと思う。きっと義理子さんの采配だ。
「勝も連れてきたのか? 寒いだろ」
「大丈夫だよぉ、カイロ10枚くらい貼って、ヒートテックとヒーター付きマフラーもしてるからね」
「暑いです」
「やりすぎだ……兄妹揃って、加減という言葉を覚えろ」
勝くんは顔を茹蛸みたいに赤くしていた。マフラーを取ってあげたら、スッキリしたようだからよかった。こうじゃなきゃいけないと思ったから言わなかった、って言うんだもん。
もっと自分の気持ちを言って欲しいな。そうさせてあげられない、ボクらがいけないんだけどね。
「ネリーはどこにいんの? 土方と一緒じゃないんだ」
「あぁ、ネリーなら御神籤と絵馬の補充してるぞ。黒髪だからわかりにくいがな」
「なんで?」
土方くんが言うには、国籍は日本でも、見た目が外国人だからせめて髪は黒にしろと、義理子さんに1日だけ染められるヘアカラーのスプレーをかけらたとか。
勝くんもネリーに会いたいっていうから、授与所まで"神霊庁職員証"をぶら下げて歩く。
山道の脇の砂利道は職員しかいないから、スイスイ行けちゃう。授与所の御神籤売り場は人だらけで、まだ年越し前だっていうのにすでに引いている人もいる。フライングが過ぎるよ。
そこに見慣れた大きな胸……って言ったら、毎日凝視してるみたいだけどさ。補充用の御神籤が入った段ボールを抱えたネリーがいる。
黒髪は見慣れないけど、新鮮な気持ちで会える。
「お疲れ様、ネリー」
「オ!? 手伝いにキタ!?」
「ボクは手伝っちゃダメって言われてるの」
「勝に言ッタ。ネリーの手伝いスル?」
「します!」
勝くんは純粋で真面目なんだから、冗談も本気にしちゃうんだぞ!
「デモ、手伝いたいのはホント。守もドコ居るかワカンナイシ。ネリー、眠い」
御神籤や絵馬の補充は思った以上に忙しいみたい。この様子なら年明けはさらに忙しくなりそうだ。手伝ってあげたいのは山々だけど、業務に関わるなと言われてるから手は付けられない。
ネリーは近くにいた交通誘導員の大学生に、休憩したいと告げて無責任に仕事を放り投げた。
そして土方くん達のところへ戻ると、周りの人達が「明けた!」と口々に新年を喜ぶ。
「明けましておめでとう! 今年もよろしくね」
「ヨロシクネ。勝も、今年はイッパイ遊ぼ」
「よろしくお願いします……でいいんですか?」
「よく出来ました!」
ほっぺたにくるくると花丸を描いて褒めてあげる。今年初めての笑顔は勝くんだ。幸先いいね。
「守も洋と会えてウレシソ。ヤッパ、2人でひとつダヨネ。あ……秀喜に怒られるからヤメヨ」
「睨まれて、今後お土産なしかもね」
「それはヤダ。ウソダヨ」
ボスの事も勿論大切だし、幸せになって欲しいと思うけど。でもさ、無意識でも2人でくっついて、カメラを見てる姿を見るとネリーの言う通りだなって思っちゃう。
土方くんの洋さんにしか見せない顔っていうのかな。柔らかい、包み込むような表情。対して洋さんは、業務中の土方くんにもお構いなしに我儘を言っていて。
全力で困らせたくって、全力で受け止めたいんだなってわかるもん。そこに男女の感情がなくても、2人は2人が1番似合うよ。
「土方は出店回れないの? 奢れよ」
「新年早々お前は……!」
そんなやりとりも嬉しいくせにさ。ボクまで口角が緩んじゃうよ。
「2人共、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「おぉ、よろしくしてやる。手のかかるお兄ちゃんだかんなぁ」
「洋さんに言われたくない」
「妹をさん付けで呼んでる時点で、アタシの方が上だって認めてんだもんねぇ?」
「じゃあもう"さん"付けで呼ばないもん!」
「喧嘩するなよ……沖田は煽るな」
「土方はサボってないで真面目に働け」
「お前ってやつは」
家族と、仲間と年越しする。そんな些細な願いも、新撰組という場所で叶えることができた。
今年は"洋"の呪いが解けて……けれど、その後も新撰組の皆と一緒に居られるといいな。




