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61勝手目 今日から"勝"日々を(2)


「本当に守で大丈夫かよ。兄ちゃんと寝るか?」

「アンタの部屋は汚いからダメ!」

「はい。すんません」


 就寝の時刻を迎える。勝は誰と寝るのかを話し合った末、まずは連れてきた人間から――と結論が出た。


 学の言う通り2人で寝るなんて緊張でしかない。しかし屯所へ連れて来た、そして"副長"という肩書きの手前、一緒に寝ないは選択肢に含まれない。


 祈の言う通り、学の部屋はゴミ部屋だ。特別経理部の3人が部屋のチェックに来たところで、強制的に掃除が入らなければそのまま。

 アレが身内だと思うと恥ずかしい。従兄弟と認識されるだけで胃が痛む。


 面倒見の良さはピカイチだが、勝を1番近づけてはいけない大人だろう。


「んじゃま、おやすみな。また明日」


 学を初め、皆口々に勝へ就寝の挨拶をする。さっきは照れて逃げた樺恋も、あくびをしながら宇吉にもたれかかった。

 今日1番頑張ったもんな。


 和やかな空気が緊張からくる疲れを溶かしたんだ。今日は特に、心地良く眠ってほしい。


 勝を部屋の中へ案内しようとするが、なかなか入らない。と思って勝を見ると、向かいの部屋へ行く沖田のルームウェアの裾を掴んでいる。


「どした?」

「……」


 沖田を見つめるだけで言葉は発さない。


「一緒に寝たいんじゃないですか?」 


 伊東の一言に勝が強く、何度も頷いた。伊東は口を手で隠しながらため息を小さくつき、「ならこっちで」と勝に来るように声をかける。

 子供嫌いの伊東も、今日ばかりは優しくしてやるのか。


 3人で寝るのかと思うと胸がモヤモヤする。しかし、勝が望むなら沖田と寝た方がいいだろう。

 そっと背中を押してやると、今度は俺の袖を掴んだ。


「……え?」


 ――勝は俺と沖田に挟まれるようにして寝転がる。1つのベッドに3人なんて狭くてかなわん。


 沖田が何かあったら起こしていいと伝え、おやすみと言えば静かな時間が訪れた。

 間に勝が居るだけで、何か特別な関係になった気になる。


 祈や学が揶揄うから、親になったような気持ちというか……いや、親になるのはもっと責任感が必要だ。救い出したことによる達成感が生む、感情の昂りに過ぎないかもしれない。


 そうなるべきだと、思い込んでいる。


 今は保護の段階で、新撰組がどうとか考えるのは少し先。

 勝は施設を選ぶかもしれないし、行政がそうしろと言ってくるかもしれない。必ずここに居させてやれる保証は”まだ”ないんだ。


 だけど勝は沖田に懐いている。今だって体を向けて、腹のあたりの服を掴んで眠っているんだ。

 きっと沖田もここに居させると言うはず。


 法律や制度なんて知らん。が、勝に常識や読み書きも教えて、社会生活に困らないようにしてやらないと。


 あぁ、卒論に仕事、夢に仲間とは忙しい。この忙しさが幸せだというのなら、もう少しやわらげてくれてもいいんだぞ。


「へへ……」


 勝が寝言で小さく笑う。夕食時の事を思い出しているんだろう。上半身を起こして頭を撫でれば"愛おしい"という感情が湧く。


 沖田の手が勝の背中に回っているのを見たら、自然と手が伸びた。繋いだ手が、ほんの少しだけ握られる。いびきをかいているから無意識だろうがな。


 新撰組そのものが擬似家族のような存在だが、3人で川の字になるとより“家族“を感じるのだ。


 樺恋が気付いて、沖田が決めて、俺が連れ出そうと言い出した。

 

 勝の人生のサポートは俺がするべきだ。もし、そのサポート役にもう1人必要だと言うなら……きっと本人が手を挙げてくれるはずだ。



 ◇


 勝が来てから数日が経った。会話もスムーズになり、表情も笑うことが出来ているから良かった。


 屯所内は問題が無さそうだけど、外に出なければ生きられない。大きな壁となるのはここからだ。


「出来れば年明けから学校に行かせたい。今日から勉強するぞ」

「べんきょう?」


 奥間の机にならべた幼児向け教材。祈の父親やネリーの両親、京都支部の連中にも掛け合って、幼少期に使ったものを譲ってもらうことが出来た。


 体の成長は食事や生活でなんとかする。沖田と一緒に土をいじらせて、感性を養うのもいい。

 だが文字は学ばねば身に付かん。


 伊東から聞けば、アパートの汚部屋にはテレビもなかったらしい。子供向けの本も玩具もない。

 それなら言葉を知らなくて当たり前だ。


 勝は「勉強って何?」と、その場に居合わせた宇吉に聞いていた。


「文字を読んだり、書いたりするんですぞ。いろいろな言葉がわかると、いろんなことを知れたり、なんだろう? が増えたりしますからな。そうなるために頑張ることを言うのです」

「はぁ……みんな当たり前に出来る?」

「いやぁ……みんな、ではないんですなぁ……例えば……あぁ……守殿、言っていいんでござろうか」


 宇吉が迷っているのは学のことだろう。学習障害があるのを伝えていいか――と。

 ムカつく奴だが、学にだって知られたくないこともある。黙っといてやるか。


「勝。もしも頑張って出来なくたって、他の出来ることでなんとかするのでもいいんだ。でも、まずはやってみよう」

「勝殿なら出来ますとも。勝殿が立派な小学生になれるよう、宇吉もお手伝いしますからな」


 勝は「はい!」と大きく返事をすると、まずは文字を押せば音声が鳴る教育玩具に手をつけた。恐らくやれば出来る子だろう。


 楽しんでやっているように見受けられるし、あと俺に出来る事は見守るだけ。

 樺恋を育てた宇吉が教育係に就けば間違いない。


 ――そして、その夕方。


「ただいまぁ」


 晴太が出張から帰宅。ぞろぞろと出迎えがくると、勝もぴょっこり姿を現した。まだ今まで屯所にいたかのように晴太の荷物を持ち、歩きながら晴太の外したネクタイを受け取る。


 晴太は出張中あったことを放流する水のように勢いよく、言葉にして吐いていく。

 癒しが欲しい、疲れが取れないと沖田を求めるようにしつこく言うんだから大丈夫だろう。

 早く風呂入って寝ろ。それで多少の疲れは取れる。


 足は台所へ向かう。やってらんないと嘆くから、酒でも飲む気か?


「ホンットに疲れた! これからもっと忙しくなるんだよ!? お金なんかいらないからさぁ、休みくれないのかなぁ!?」

「お疲れ様です」

「本当お疲れだよ……ん……?」


 ワイシャツの袖をまくり、手を洗おうとする晴太。その晴太を見上げる勝。

 シンとした時間が流れた。俺が説明しようと思うと、ネリーが台所の暖簾をくぐって入ってきた。


「オケーリ」

「た、ただいま……」

「……? ア? アァ……アノネ」


 空気を察したネリー。悪戯顔が過ぎる。お前、なんかいらんこと言う気じゃないだろうな。


「コノ子、勝。守と洋のカクシゴ。ホラ、髪の色は洋とオナジ。顔がイイのは守ユズリ」


 そんな事を信じる訳ないだろ。全く、ネリーの悪戯は時々心臓に悪い。

 晴太だって、ビールのプルタブを開けながらあーはいはいと聞き流してるんだ。


 だが、その空気を変える爆弾が投げ込まれる。勝が俺と沖田の手を握り、おかしなことを言うのだ。


「お父さん、お母さん」

「何言ってんだ!?」


 ネリーと居ることも多いなと思っていたが、悪ノリを教え込まれていたのか!?

 沖田は「せめてお姉ちゃんだろ?」と照れくさそうに笑うんだが、晴太を見て欲しい。


 晴太を、見ろ!


「星が見える」


 ビールの缶を離し、ふらりと体を揺らして倒れてしまう。


「晴太――ッ!」


 過労と疲労、そして勝が言うから信憑性がついて気絶。

 ネリーはニヤニヤしながら、勝を「ヨクヤッタ」と褒めまくる。まだ外に出ていない子供に悪戯を教えるな!


「これが笑いの取り方ですね」

「ソ!」

「んなわけあるか! バカッ!」


 ネリーが下を出して後頭部を掻けば、勝も真似をする。勝の適応力にも脱帽だ。

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