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57勝手目 修行なんて聞いてない!(1)


「走ったことのない道は楽しいねぇ。京都と違って走りやすいし、ええとこやわ」


 運転するはずだったレンタカーは相馬さんにお願いした。運転したいと言うから、もしかして気を遣ってるのかなぁと遠慮するとね、無事故無違反証明書まで見せて来たんだ。


 もうお願いするしかないよ。


 展望台に向かっているけれど、相馬さんがいるのかぁ……なんて思っちゃう。運転してもらっているのに失礼だけど、助手席には当たり前に洋が座るんだもん。


「相馬も青森は初めてなのか?」

「青森どころか東北が初めてや。昨日からおるけど、ほぉんまにええとこやね。ボク、青森支部に移動希望出そうかなぁ」

「昨日? 青森に泊まったんですか?」


 地元を気に入ってもらえるのは嬉しい。まさか前泊までしてるとは思わなかったけど。

 相馬さんは無理を言われたからと続けた。


「始発から八戸駅におれって言うんやもん。前乗りせんと厳しいって」

「鬼ですね……ちなみに、何で買収されたんですか。相馬さんはお金じゃなさそうですよね」

「んーとねぇ……趣味の漫画や映画のディスクやね。オークションでしか買えんもんも提示されて、逆らえんかったんよ」


 僕の浮かれは相馬さんの欲によって奪われたんだ。洋も興味がなさそうに海を眺めてるけど、相馬さんのバックには伊東さんがいるんだよ?


 せっかくスマートウォッチは置いて来させたのに、まだそっちを持って来た方がよかったや。

 相馬さんは報酬として貰える作品についてマシンガンのように語る。


「ボクはな、ケンカップルと拗らせ幼馴染が好きやねん。何がええって、幼馴染なんにコミュニケーションが喧嘩でしか取れんくて、でもお互いに意識しとって素直になれん……みたいな。ほんでぇ」

「相馬!? 今のとこ左じゃない!? 相馬!?」


 話に夢中でナビも聞き取れないみたいだ。運転が上手でも、これはこれで問題な気がするなぁ。


 ――引き返して展望台。どこまでも広がる太平洋に癒され、僕が期待していたようなイベントはない。側から見たら、大学生が旅行しているように見えるだろうなぁ。


 恐山へ向かいながら、洋の希望する海鮮を食べ、ちょっとずつ観光しながら北上して行く。

 途中、アワビの美味しさに感動した洋が、新撰組と新選組の皆にも食べてもらおうと言って数キロ購入。


 ただでさえ高級品なのに、洋の財布から万札が出て来たのはびっくりだ。しかも奢られるんじゃなくて、奢る側になるなんて。

 どんなに高くても、食べて欲しい人がいる。普通なら金額で渋るけど、気にすべきはそこじゃないんだろうな。


 宅急便の手続きを終えて、車内で洋は思い出したように呟く。


「無駄遣いしてって、祈に怒られっかな」

「その時は僕が言ってあげるよ」

「あ……思い出した。今から怒られに行くんだった……」


 シートにずるずると下がってしまう。観光にきたんやないの? と、相馬さんは良さげな観光スポットを探している。


 伊東さん、相馬さんには何の説明もしてないんだなぁ……。


 なら恐山で観光しようよ――そうは言っても、洋の気は乗らない。相馬さんの安全運転が道をスムーズに行くから、いつもより早く到着してしまうような気がして。


 恐山の文字が見えるたび、洋は行きたくないとゴネる。そしていよいよ、入口門をくぐってしまう。腹を括る時が来た。

 相馬さんも雰囲気が変わると、ハンドルを強く握る。


「晴太くん」


 洋が後部座席を向いて真剣な顔で僕を呼ぶ。


「ちゃんと守ってね」


 命令でもお願いでもない。信頼してくれているような、でもちょっと、か弱い言い方。


「ずっとそのつもりだよ」


 おばあちゃんが何を言ってくるのか、大体の見当はつく。おばあちゃんの中ではいつまでも孫なんだろうけど、僕はもう子供じゃないんだ。


 何を言われても言い返す。怖かったおばあちゃんにも立ち向かえるくらいになれたしね。


 車を停め、地に足をつけた。文句を少しでも和らげるべく、食べるのが好きなおばあちゃん用のお土産を抱える。


 洋がすり寄ってきたかと思ったら、「あんまりここ好きじゃない」と珍しく弱気だ。

 人によっては地獄の風景って言うくらいだしね。岩肌から火山ガスが出ているのとか、いかにもって感じだし。


「大丈夫だよ。観光地なんだし、そもそもお寺だからね」

「帰りてぇえ……」


 さらに洋の足取りが重くなる。相馬さんも、霊感が強かったりすると体調が悪くなるんちゃうと不安を煽った。


「アタシ、また呪われるのか? 寝れなくなったりすんのかな、それともアタシも具合悪くなったり……もしかして、そのために呼ばれたのか?」


 洋が感じる不安は僕らとは違う。もっと黒くて、底の見えない途方もないもの。

 連れて来たのは間違いだと思ったよ。あぁ、傷つけちゃったって。


 だけど、僕の事情もあるから一概に優先してあげられない。安心させるのも難しそうだけど……。


「僕のおばあちゃん、そこまで怖くないよ。ナタ持って追いかけて来たことはあったけどね」

「ナタ!? 聞いてないんだけど!?」


 よっぽどびっくりしたのか、不安そうな顔は消えた。かわりに怯えちゃった。

 おばあちゃんは一日中恐山中をうろうろしている人だ。行動することが正しいと言う人というのもある。


 体力の消費がすごいから食欲旺盛、よく食べるイタコとしてテレビ出演したこともあった。


 とにかくジッっと静かにしているのが苦手で、年齢を重ねるごとにそれは徘徊と呼ばれるようになって。


 だから歩きながら探すんだけど……。


「あれ? 沖田はんは?」

「もぉおお! ご飯屋さんの前で立ち止まってる! 洋! 行くよ! さっきご飯食べたでしょ!」


 洋もお腹空いてるのかな。でもさすがに青森来てから食べ過ぎだし、あんまり遅くなるとおばあちゃんもうるさいし。

 だから先を急ごうと言ってるのに。


 洋は店内を覗きながら、口をあんぐり開けて指を指す。


「ご飯めっちゃ食べてるばあちゃんがいる……」

「ほんまや……なんぼ食べとるんや……」


 まさか、とは思ったけど。店内を覗く2人の隣へ立つと、見慣れた白髪頭が何杯目かもわからないそばをズソゾと啜っている。テーブルには食器が重なって、店内のお客さんも通りすがりの人も、皆おばあちゃんに釘付けになる。

 そりゃそうだよね。いかにもイタコ! って服装で大喰らいなんだもん。見ちゃうって。


 孫である僕は、恥ずかしくてたまらないんだけどさ。


「あれ……僕のおばあちゃん……」

「おばあ」

「ちゃん」


 2人は2度パチパチと瞬きする。そして、てんてんてん、と木魚の音が3回なるような間が入る。


 2人がエーッ! っと。絶叫したのは言うまでもない。


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