56勝手目 2人になれると思った?(2)
いつもの帰省に緊張が加わる。
新幹線に乗るのも慣れたし、おばあちゃんに会うのだって怖く無い。
雪が心配とか、財布の手持ちが不安とか、忘れ物はないかとか、そんな緊張でもない。
「晴太くんの弁当のおかず、一個ちょうだい」
「いいけど。洋は何をくれるの?」
「え」
新幹線車内で2人並んで座る。ただの横並びなのに、他の誰も居ないっていうのが特別なんだ。不謹慎だけど、最近は禁忌でだって2人きりはないんだし。
洋の顔、こんなに近くで見たの久々かも。
「もう弁当食っちゃったよ。何もあげれない」
「それなのに、僕のおかず狙ってるんだ。随分悪い子だね」
「そんな重罪か? じゃ、これあげる」
お弁当のおかずと引き換えに差し出して来たのは、ガムの包み紙で折った鶴。少し前の僕なら喜んでたろうけど、今は違う。
要らないと言うと、何も無いもんと言って外を眺め始めちゃった。
洋より優位に立った成功体験に味をしめて、また意地悪したくなる。
駅弁のメインであるはらこめしの鮭を箸で掴み、洋の口に放り込んだ。
洋はビクッと驚いたようだけど、味の染み込んだ秋鮭の美味しさに目を細めて喜ぶ。
「1番いいおかずあげたんだから、ひとつくらいお願い聞いてね?」
「……鮭くらいのお願いしか聞かないよ? そういえば、屯所から出て来る時に学さんから何かもらってなかった?」
綺麗に話を変えられた。これ以上踏み込んで嫌われても嫌だから黙るけど。僕ってばヘタレだなぁ。
洋の言う通り、学さんがくれたものってなんだろう? 事務用の茶封筒が半分に折ってあって、中には平べったい物が入ってる。
気になるから見てみてよと、急かす洋にワイシャツの袖を摘まれた。
「どうしよっかなぁ」
仕返しとばかりに意地悪しちゃうんだ。そして自分だけ先に中身を見ると、目を疑った。
「何入ってんの?」
「……お手洗い行って来るね」
「は?」
よろめきながら席を立つ。洋には嘘をついた。デッキに傾れ込むように立つと、手を小刻みに震わせながら携帯を操作する。あのエロガッパ!
『はいよ、兄ちゃんです。楽しんでる?』
何も考えてなさそうな軽い応答。学さんらしいっちゃ、そうだけど。仕事中と言いながら、カチカチとコントローラを操作する音が聞こえるね?
「封筒の中! アレなんですか!?」
『あぁ! 見た?』
「見たから電話してんでしょうが! あんなの封筒に入れて渡さないでくださいよ! びっくりした!」
『おいおい、三途の川のよしみだろ? 晴太が生き返れたのは、ほぼ性欲みたいなもん。本当は守に渡したかったんだけどよ、殴られたから晴太にやるよ』
「理由最悪」
中に入っていたのは要するにそういうもの。確かに三途の川の記憶はあるけど、あのエロガッパは踏み込みすぎだよ。
健闘を祈ると言われても、僕はそんなつもりで青森に帰るんじゃない。
一気に疲れた。封筒をポケットに丁寧にしまい、席へ戻る。洋は中身なんてどうでもよくなったのか、足と腕を組みながら寝ちゃった。
肌寒いのに太ももを出して、組んだ腕が胸を強調させる。そしてポケットには、mm単位で表される欲の象徴。
変なことを考えないわけがない。
それが健全な22歳の男性だと思うけど。洋はこんな事を知ったらどう思うかな。
「いやぁ……最低だよ……」
手で顔を覆う。誰かに居てもらわないと、獣になってしまいそうで恐ろしいよ。
◇
八戸駅で下車。数時間ぶりの外気温が僕を正気に戻してくれる。仙台より少し気温が下がっているから、尚更良い。
おばあちゃんのいる恐山まではまだまだだ。ここからの移動はレンタカー。緊張して運転出来ないかなぁと思ったけど、車じゃないと何かと不便だ。
洋は初めての青森県に心が躍らせているのか、無邪気に観光案内板へ僕の手を引く。今はあまり触れてほしくないんだけどな!
「せっかくだから観光しよ! 急いでないんでしょ?」
「そうだけど……でも2人で、いいの……?」
「どういうこと? 2人しか居ないんだから、よくない?」
洋は何にも考えてないのはわかるんだ。八戸市を経由地にするだけではもったいないから、少し見て行きたいっていう普通の会話じゃんか。
今なら、洋を独り占めにできる。だけど守や伊東さんの顔がチラついて、申し訳ないという気持ちにもなる。ズルをしているような気分なんだ。
それもこれも学さんのせい。だけどそんな下心が、僕を大胆にさせる。
「じ、じゃあ……葦毛崎展望台にでも行く? 太平洋が一望出来るって……」
「海か。いいね、行こ! ついでに海鮮とか食いたいなぁ。八戸ばくだんにいちご煮ねぇ……ウニかぁ、美味そう」
僕ったら、無意識にデートスポットみたいなところを選んでしまう。今まで散々、想いを伝えて来た。こんなモノを持って2人だけにされたら、1人の"女性"として意識してしまうじゃんか。どうしようもないくらい汗が噴き出て来る。
あぁもう! 下心丸出しの感情引っ提げて、どんな顔しておばあちゃんに会えばいいのさ!
誰か僕を引っ叩いておくれよ!
「えぇなぁ。ボクもウニ食べたいわ」
「んあ?」
洋ではない、はんなりとした京都弁。僕と洋の間に、違和感なく入り込んでいた。
「相馬さん!?」
「おぉ、相馬だ! 皆いるのか!?」
相馬さんとの再会を喜ぶ洋は、あたりを見渡して他のメンバーも探した。だけど今日は相馬さんだけみたいだ。洋はそれでも嬉しそうに、相馬さんとハイタッチする。
「なんで青森にいるんですか!? 縁もゆかりもなさそうですけど」
「んー、どなたさんからのご依頼? 2人じゃ不安やから、着いてってたげてって。ほら、運転下手くそさんもおるし。ねぇ?」
絶対に伊東さんじゃん。そうだ。あの人がすんなり僕と洋を2人にするはずないじゃんか。
"新選組"の中でも1番信頼できる相馬さんを送り込んで、僕が変なことしないように見張らせてるんだね。
ついさっきまで、ズルしてるみたいでやだな……なんて遠慮してた。だけど今度は、邪魔しないで欲しいと感情がコロっと変わる。
「あやぁ、2人になれると思った? 残念やけど、新撰組の秩序を守るためやから、かんにんしてや」
手を合わせて、にこっと微笑む。言ってる事はわかるけど……まぁ、変な下心で洋を傷つけてしまう事がなくなっていいのか。
洋も嬉しそうだし。ちゃんとヤキモチも妬いちゃうし。
洋のことは大好きなのに、男としては小学生の頃と変わらないなぁ。




