56勝手目 2人になれると思った?(1)
11月も下旬。染みついた大学生活もあと数ヶ月で終わってしまう。惰性で受けていた講義も、噛み締めるように受けている。
両親の離婚話も決着がつき、気持ちもようやく落ち着いた。
変わった苗字も、いつの間にか違和感がなくなるもんだなぁ。
――と、思ってたんすよ。
"星拓美"から"武田拓美"になって数ヶ月。ようやっと苗字にも慣れて来たって時に、長い事顔を見せなかったイケメンが「星!」と呼ぶ。
副長こと土方くんが学校に来始めたのは、ついこの間。留年という言葉に酷く焦ってるようで、まさか副長がね……と周りも驚いてて。
なんでも卒なくこなす、容姿端麗才色兼備な土方くんだからなぁ。
連絡もまちまちだし、どうして休んでいたかなんてわから……いや、自分には見当つくっすけどね。
今も隣で、携帯のトーク画面を開きっぱなしにしたままガン見っすもん。
「沖田ちゃん?」
「沖田」
画面から目を離さず返事するんだ。もう病気だよ。
「なんて来たの?」
「何も……送って……こない!」
既読は付いている。だけど返事がない。だから心配。いやいや、過保護がすぎますって。
この数ヶ月で「沖田が居ないと死んじゃう病」が悪化したんだなぁ。
自分から見れば副長らしいっちゃらしいけど、こんなに取り乱してるのは見慣れない。
今日は一段と荒れている。講義中もソワソワしているし、何かと携帯ばかり気にしてる。よっぽど何かあるんだろうけど。
「何て送ったの?」
「到着したら連絡しろって」
「着いてないんじゃなくて? そもそも沖田ちゃんって、連絡マメなの?」
「メッセージを送ると電話で返事するタイプの女だ……」
「じゃあ着いたら連絡来るよ。心配しすぎだって」
「そうじゃないんだよ……今日は」
そう言って項垂れて、喉から唸り声を出してる。どうやら沖田ちゃんが近藤くんと一緒に青森に行ったとか。それも近藤くんのお婆さんの所らしくて、それを不安がっている。
なるほどねぇ。ついに近藤くんも動いたか。周りから固めて、沖田ちゃんをモノにしたいと。で、沖田ちゃんも着いて行ったわけだ。そりゃ、副長もこんな風になっても仕方がないか。
「さっさと告白しちゃえばいいのにさ」
「…………」
違う、そんなんじゃない! 顔を赤くして言う、いつもの決まり文句。沖田ちゃんが好きなのに否定する。またそんなこと言うんだろうなぁと思ったら、だんまり。
ちょっと踏み込みすぎたかな。
「……知り合いの話なんだが……」
「知り合い」
モジモジしながら、突然知り合いの話ですか。なら、副長が恥ずかしがる必要ないのにね。突っ込んだら負けだから、黙って聞いてあげよう。
「その……好きな奴に……告白したつもりだけど、届いてなかったらしくてな……で、その……本人は本気だったんだが、相手はいつも通りで……」
「フラれたってこと?」
「フラれてない!」
声デッカ。副長ってこんなにデカい声出せるんだ。めちゃくちゃテンパってるし。絶対に副長の話じゃん。
ってことは、沖田ちゃんに一応告白はしたんだね。だけど普段通り。しかも近藤くんの家族に挨拶に行く……と。ん? やっぱフラれたのでは?
「ちなみに、なんて言って告白したの?」
「え……いや……その……まぁ……」
目、泳いでますけど。まさか告白になってないんじゃない? ごもごもごもごも。口から言葉が出てこないって?
副長、と呼ぶと、首をガクンと下に向けた。
「……てるって」
「え……?」
聞き間違いだと思いたい。なんか、すごい甘ったるい言葉が聞こえた。さすがに気のせい――……
「愛してるって……言ってしまった……」
「ギョ!?」
耳まで真っ赤にし、どうしようもなく恥ずかしそうに口元を覆う。目は潤んで、多分その瞬間を思い出しているんすかね。
「でも、酔っ払い扱いされて、返事は何もなくて……結構、思い切ったのに」
「思い切り過ぎだよ。重ッ」
「お、重!?」
何をびっくりしてるんですかね。重いでしょ。幼馴染に急に"愛してる"なんて言われたら。沖田ちゃんも何も言えないのわかるよ。
「なんで好き、付き合ってって言わなかったの!?」
「出ちゃったんだからしょうがないだろ! 色々あって……こう、好きがブワッってなったんだよ!」
「知り合いがね?」
「そう! 知り合いが!」
無理あるぅ……。顔真っ赤、息切れ、照れ顔に絶望と切なさを混ぜた、ザ・複雑顔。必死なんだろうなぁ。周りにギャラリーが出来ちゃってるのに気付かないんだもん。
あのクールな土方くんが取り乱してるって、結構ビッグニュースよ?
「ちなみに、その知り合いさんの好きな子は本当に何も変化がないの? 振り回されて大変だね、副長も」
敢えて大きい声で言う。これは土方守とは無関係の出来事なので、どうか皆さん散ってくださいという意味もある。
大きな効果はないけど、数名が居なくなった。
「手は、繋いでくれた。でも酔っ払いが迷子にならないようにって意味でって……」
「へぇええ? 手は繋いだんだ。じゃあちゅーはくらい出来たんじゃない?」
「それは……」
あ。
したんですか。そうですか。ちゅーして、告白したのに何も進展らしい事がないのね。
なるほどね。自分ならフラれたのかなぁって思うけど、沖田ちゃんが副長は要らないって言うとも思えないし。
でもなぁ。近藤くんも伊東くんも、話を聞いてる分には悪い人じゃ無さそうで、沖田ちゃんがそっちに靡いてもおかしくないわけで。
「でも別に初めてじゃなかった。寝てる間にも何回かしてるし、それも気づいてるはずなんだ。なのに何も言ってこない! いつもと変わらない! 照れる仕草も、避けるわけでもない! なんなんだよ! アァッ!」
「知り合いがね?」
「あ、あぁそうだ。知り合いが」
なんとかしてあげたいけど、自分が出来る事なんかないしなぁ。沖田ちゃんの連絡先も知らないし、近藤くんなんて尚更ね。
でも、副長と沖田ちゃんがどうなるか気になるなぁ。この4年で何か変化があると思ってたけど、結局何もなかったし。うなだれてるところを見てると、相当参ってるな、こりゃ。
仕方ない。もう少し踏み込んでみますか。
「副長、ふくちょー」
机に顔を伏せる副長の腕を揺らす。涙目で困り眉。熱っぽい顔。そんな姿を通りざまに見た女子が、ちょっとざわつく。
「もう知り合いなんて嘘いいからさ。行きますか?」
「どこにだよ」
留年もかかってるけど、次休んだら絶対アウト! って感じじゃなさそうだし、1日2日くらい学校へ来なくても大丈夫っしょ。
副長は口を半開きにして情けない顔をしているけど、それを治すのは自分じゃなくて沖田ちゃんの仕事だし。
副長の鞄を肩にかけ、移動しようと合図する。
「行こうよ、ブルーフォレスト。心配なんでしょ?」
連絡が無いから心配になって、青森まで来た。ま、副長らしい理由じゃない?




