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51勝手目 その自己中には裏がある(5)

沖田が来てもうた。落ち葉を踏む音が近づいてくる。


 責められる。何て言われるんやろう。悪い事をした自覚はある。でも仕方ないやん。いざ沖田のことを目の前にしたら、呪われているからなんやってくらい、キラキラしとるんやもん。


 禍々しい呪いすらオーラにしてるんやもん。住む世界が違う、選ばれた人間に見えたんやもん。


 尾形も、服部も谷まで、そして相馬も――1番付き合いの長い愛まで、あっちの味方するんやもの。


 みんなしてそっち向いたら、ウチを相手にしてくれなくなるやん。そしたら元凶に居なくなって欲しいと思うものやないの。


 だから全身全霊で沖田を羨望という嫉妬で呪った。なのに沖田はウチを庇った。


 いたたまれんよ。どんな顔して皆とおったらええんの。一生白い目で見られて生きて行くの?


 世界中に聞こえていそうな、追い詰められて脈が大きく打つ。耳がこもる。こんな思いするなら、いっそ死んでしまった方が楽なんちゃうか。


「新見」


 ウチを呼ぶ声はすぐ後ろから聞こえる。喉が詰まって言葉が出てこん。

 そうや。きっと浴びせられる叱責に耐えて、一言も話さず黙っていたらやり過ごせるんやない?

 さっさと言いたいだけ言って帰ってくれたらええんよ。


「助けに来てくれたんだろ? ありがとな」


 わざとなんか? 助けに行ったんちゃうわ。誰かからうちがやったこと聞いとるやろ。

 心の中で言い返す。口は開かん。


「怖い思いさせて悪かった。アタシ達は禁忌に慣れてるけど、新見はそうじゃないだろ。何かがトラウマになったらごめん」


 腹が立つ。責めるならちゃんと責めろや。なんでこっちが罪悪感持つような話し方してくんねん。

 キレたろうかな。ほんまに嫌なやつや。


 だけど口から嗚咽が漏れる。着物の袖は熱く濡れる。


「やっぱ、怖かったか」


 沖田はうちの背中を摩る。ぎこちない動き。下手くそ。だけど背中をさすられると安心してしまって、嗚咽が大きくなる。


 確かに禁忌は怖かった。だけど現実味がなくて、悪夢を見ていたような気分だ。

 よっぽど、相馬に過去に置いていかれそうになったのが1番怖くて、そこばかりリピート再生される。


 そして沖田のあてつけのような優しさが、怒られるよりも恐ろしい。


「ウチに、かまわんでよ! もう死ぬから! 死んだらええんやろ!」

「誰もそんなこと言ってないだろ」

「ウチがやったこと責めに来たんと違うんか!? 皆に過去に置いて来いって言われたんやろ!? 殺しに来たんやろ!?」


 この後悔は取り返しがつかない。死んで詫びるしかないって、こういう時に使うんや。

 沖田から逃げようと膝を立てようとしても、大量の落ち葉で草履が滑ってしまう。


 沖田はウチの体をがっしりと掴み、真っ直ぐ目を見て来た。

 

「愛ちゃんが新見のこと助けてくれって頼んできたんだよ!」

「愛……?」


 毎日見ていた顔が頭をよぎる。あの子に最後、二度とウチに関わるなと吐いたのに。それなのに、助けてって――?


 またいい人ぶるんか。今度はウチを引き立て役にしようってか。弱み握りって恩売って、ウチのこと見下すつもりやろ。


「すごい心配してたぞ」


 沖田の言葉で、その疑念はすぐに晴れる。


 愛はそんなこと考える子やないもん。ウチが成人の日を堺に黒く染まって、それでも隣に居てくれやないの。


 あぁ、嫌だなぁ。人の優しさも悪意に受け取ってしまう。

 どうせ死ぬなら、最後に愛の優しさに乗っかってみようかな……。


――。


 落ち葉を絨毯がわりにして、沖田と向かい合って座る。ウチは星座、沖田は胡座。はしたないと言いたいところやけど、美人は何しても様になる。


 沖田は相馬からウチの過去を聞いたと言った。心がズキッと痛む。


「沖田にはわからんやろ。ウチがどんだけ嫌な思いして来たか。顔が整ってれば大抵は許される世の中やし」

「それ、相馬にも言われた。そう見えるか?」

「見えるよ。土方と幼馴染ってだけで勝ち組やん」


 あんなゾッコンになってくれるイケメンの幼馴染なんて、漫画でしか見た事ない。


 沖田は組んでいた腕を解いて「SNSやってるか?」と聞いて来た。やっていると応えると、指定のアプリを開くように言ってくる。


 検索欄を表示して沖田に携帯を渡すと、画面を素早くタップしてスクロールを繰り返し、戻して来た。


 画面に表示されていたのは過去の投稿。そこには誰かの悪口がずらりと並べられていた。

 1人、2人ではない。誰でも閲覧できるグループチャット内で、複数人がよってたかって、1人を叩く。


「今日の体育、女子1人余るからってわざわざHくん呼んだの引いた」

「休み時間も1人でいられないからHくんにくっついてるよね笑」

「アイツの机邪魔だったから廊下に出したら泣いてたんだけど」

「親と全然顔似てないよね。捨て子なんじゃない?」

「小学生の時に整形したらしいよ。お母さんめっちゃ地味なのにアレが生まれて来るわけない」

「プールの時に男子が胸でかいって騒いでたけど、泳げないくせに水着着てアピールとかビッチじゃん」

「Hくん、アイツといないほうがいいのにね。家が隣だからって縛られてるの可哀想」


 ウチがされていた事と同じや。刃物のような言葉を楽しみ、それを誰かに向けている。


「これ……」


 沖田を見ると、真顔だった。


「アタシは自分で顔が整ってるとは思ってる。でもそれが受け入れられた事は少ないぞ」

「だって、アンタ! あんなに友達もおるのに……!」

「呪われてからだよ。皮肉だよな」


 沖田は自分の話になっちゃうけど、と過去を話し始めた。


 友達は土方以外にいなかったこと。家に帰っても誰も居ない、寂しい家庭だったこと。ましてや最近、両親が神霊庁の職務として自分を育てていたと知り、本当の親子ではなかったこと。

 

 常に悪い噂が一人歩きして、誰にでも体を許す女だと見られていたこと。


 そのせいで何度か襲われそうになった事もあるって。だからずっと土方が隣に居て、1人にならないようにしてくれていたんだと。


「新見の言う通り、土方が居たからなんとかなって来たんだよ。じゃなきゃアタシ、本当にひとりぼっちだった。今は皆が居てくれるけど、それだって土方や晴太くんが集めてくれた縁だと思ってる。アタシだけじゃ新撰組は作れなかったよ」


 それでもいいなと思ってしまう。今の沖田が成功しているからや。ウチはその沖田しか知らん。

 

「そ、その……育ての親っちゅうのは、どうしてるん? 良くしてくれるんやろ?」


 目に入れても痛くない。ウチと愛はそう言われて育ってきた。産んでなくても、情はあるやろ。しかし沖田は首を静かに横に振る。


「もう会いたくないって言われてる。お父さんは最後まで顔も見てくれなかった。お母さんは特にそうだと思うなぁ。アタシのこと好きじゃないんだなって、薄々気付いてたからさ」

「好きじゃないって? 嫌いって言われたん?」

「嫌いの方がマシかもな。お風呂から出た時にさ、お母さんに"買春女みたいな体して気持ち悪い"って言われたから」


 耳を疑った。親がそんな事言うんか。沖田の話を聞いて、自分はマシだったんやないか……と思い始めた。


 容姿が整っているのに受け入れてもらえないなんてあるんや。だからあんなに「1人でも欠けたらダメだ」って息巻いて。


「アタシの親って誰なのかなって考えるとさ、土方ん家のお父さんとお母さんと、それから祈なんだよね。祈がいたから、ちょっとまともな人間になれたんだ。新見も祈と居たら変われるかもよ」

「無理や。もうウチは皆のところに戻れん。助けようとしてくれたのは嬉しい……けど……もう無理よ」


 みんなの話をちゃんと聞いていたら。そう思っても、もう遅い。羨ましくて傷つけようとしたけれど、そもそも沖田も得たばかりだった。


 苦しくてもなんでも許してくれる土方に甘えられたから曲がらずに来れたんや。

 ウチにはそんな相手――


「やらんうちから決めんなや」


 ウチを見下ろすのは相馬。


「だってアンタ、ウチのこと過去に置いてこうと……」

「アホ! ほんまにそんなことするかいな! 頃合いを見て迎えに行くつもりやったわ! ああでもせんとバカは治らんと思ったんよ」


 相馬は言い方はキツいけど、ウチのこと見捨てたわけやなかったんや。


「それに――沖田はんのことを助けに来た時、まだ完全に腐った訳やないんやなってわかったから。ボクも愛ちゃんもおる。せめて東北の方々に謝罪くらいしてから、無理って言いよ」


 これが、チャンス。許されなくても、変われるチャンスなんやないかな。

 

 容姿に対する偏見や誤解が解けた。顔が整っているから幸せな訳じゃない。見にくいから不幸な訳じゃない。


 あるものに目を向けず、無いものを欲しがって怪我をして、その恨みにずっと執着していたウチが少しずつ居なくなる気がした。


 相馬は早よ行くぞ、とぶっきらぼうに歩き出した。謝りに行くのは怖い。けど、沖田が見せてくれた弱みが救いになった。

 沖田はSNSや過去の話は他には言わないでと言うから、知られたく無い過去なんやろう。


 強く、誰から見ても幸せそうな自分でありたい。沖田はそう思ってもらいたいのかもしれない。


「沖田……ブスとか、酷い事……言って……ほんまにごめんなさい……あと、助けてくれてありがとう」


 まずは沖田に謝罪する。あんなに忌み嫌っていた沖田が、今は頼もしく見える。愛の言っていたかっこいいって感情、なんとなく理解できる気ぃするわ。


「別に気にして無いよ。アタシはブスって言われても傷付かないし。ほら、人は自分が言われて1番嫌な言葉を他人に吐くって言うだろ?」

「あぁ……確かにそうやね」

「アタシを傷つけたいなら、"可哀想"って言わないとな」


 なんでもないよ。そう言ってくれているようで、沖田の懐の深さに涙がまた溢れる。

 沖田はウチの左手を優しく握って、皆で飯食べるから行こうと相馬の背中を追う。


「なぁ、沖田は土方の事、好きなんか?」

「出た出た。またそういう話。定番なんだよな」


 ふと気になっただけやもん。まあでも、腐るほどされとるか。

 この反応だから、きっとそういうんじゃないんやろうか。ごめんと謝る。


 沖田は少し歩みを遅くする。そしてウチの顔を見て、誰にも言わないでねとまた釘を打つ。


「大好きだよ」


 顔を赤くするわけでもない。男女の好きとはまた違う。ウチも少女漫画の読みすぎなんかな。


 その大好きは、"愛してる"に近い気がした。


「ま、新撰組は皆大好きだ。晴太くんも伊東も、お兄ちゃんも祈も学さんもネリーも、宇吉も樺恋も皆平等に大好きだから、深い意味はないぞ。もちろん、京都支部も大好きだ」

「なんやそれ。ちょっとドキったしたやん」

「勝手にお花畑想像したのは新見だろ? 相馬と長くいるだけあるわぁ」


 沖田はケラケラ笑う。


 そう言うけど、きっと本当は土方のことが大好きなんやろうな。

 ずっと隣で守ってくれているなら、尚更、手放したく無いって思うはずやもの。


 謝りに行くけれど、許されない方がいいような気がするんよ。

 その方が、皆沖田が大事なんやなぁって――"可哀想"って言ってやれなくなるやん?

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