51勝手目 その自己中には裏がある(4)
吉乃ちゃんの過去を話し終えると、皆なんとも言えない顔をしている。
御涙頂戴って話に聞こえたかな。愛ちゃんの話が下手だったかな……吉乃ちゃんのこと、ますます嫌いになったのかな……。
人の胸の内は知りたくない。吉乃ちゃんの言う通り、人の嫌なところをたくさん見てきた。
だけど今は知らなきゃ。吉乃ちゃんがどう思われているのか、望みはあるのか、どうしたらいい未来があるのかって、見つけなきゃいけない。
「き、吉乃ちゃんのことっ、こういう過去があるから、許してとは言わない……です! だっ、えっと、で、でも! た、ただの嫌な人じゃない……です……」
「……」
祈ちゃんと目が合ったけど、顔を逸らされちゃった。絶対に許さないって、顔に書いてある。
他の人も祈ちゃんと似た表情だったり、気まずそうに黙ったままなの。
何を言えばいいのかわからない。本当は吉乃ちゃんを許して欲しい。そんな過去があったなら辛いよね、じゃあ皆で仲良くしよっかと言ってくれないかな。
そんなのあるわけないんだけど。京都支部が最初から皆を受け入れる姿勢でいたら、仲良く出来たかもしれない。
愛ちゃんは隣の部屋に居たから何も出来なかったけど、もしもを考え出したらキリがないよ。
「沖田に助けを求めた理由は?」
誰とも話さないからかな。土方さんがため息混じりに質問してくれる。
自分から話すよりも質問してして貰えた方が助かる……。
「えっ……と……お、沖田さんは……吉乃ちゃんが酷いこと、言った後でも、新撰組の加入を迫ってきたから……な、何か変えてくれるかなって……」
「新見自身が変わろうとしない限り、難しいだろ。沖田は差別も区別もしないが、俺達は違う。過去のことを踏まえても、禁忌中に犯した事実は許されんぞ」
許されると少しでも期待していたから、がっかりしてしまう。だけど正しくて真っ当な厳しい言葉。
「弟は厳しいねぇ。でもよ、容姿を貶されんのは辛いわな。おれは見ての通り顔面がいいんだけど、逆を言えば顔しかねぇからさ。でもまぁ、人間失敗しても、なぁんとかなるもんよ?」
金髪でチャラチャラして、愛ちゃんの苦手なタイプ。山崎学さん――だけどこの人、確かいろいろ失敗した人だ。
吉乃ちゃんより酷いんじゃないかな。色んな人に迷惑かけて、いつの間にかテレビに出なくなった人だよね。
この人が許されて新撰組に入れるなら、吉乃ちゃんだって――!
「お願いしますっ! 吉乃ちゃんのこと見捨てないでください!」
「なんでおれ!?」
「あ、あなたが、ひ、ひとりぼっちになってないから、です!」
山崎さんが着ているジャージの襟を、うんと言うまで話さないつもりで掴んだ。
緑色の目がぐるぐる目を回してる。逃がさない。この人なら独りにならない方法を知ってるはずだから。
愛ちゃんは隣にいるけど、愛ちゃんだけじゃ足りないもん。吉乃ちゃんが欲しいのは、人を外見で判断しない集団なんだから。だから新撰組を集めたいって言ったの。
女の人が居たら、吉乃ちゃんは自分を見て貰えないって思っているから、だから男の人だけ集めたかったの。
女の人でも見てくれるなら――沖田さんがそうだ。なんとか、なんとかしなきゃ。
手に力が入る。そしたら手首を掴まれて、山崎さんが苦しそうな顔で「暴力反対」と無理に笑う。
「アッ……」
何やってるの。必死になり過ぎて、人の首を絞めちゃった。やっちゃった。これじゃあ進展するどころか、悪い方に行く。
人を苦しめた罪悪感と動揺で体の軸がブレる。倒れると思ったら、背中に支えが出来た。
「おいおいおい。焦んのはわかっけどよ、アクセル踏み過ぎな?」
「た、谷くん……」
「俺の親父が言ってんだけどよぉ。人に物頼むときはまず、自分に何が出来るか言えってんだよ。だから愛ちゃんもよぉ、何か提示すれば考えて貰えんじゃね?」
谷くんの言葉にハッとした。そう言われればそうだ。何か納得して貰える、愛ちゃんが出来ること。
医師免許はあってもないようなものって思われるだろうし、コミュニケーションも苦手。
もっと手っ取り早く差し出せる何か。
頭を下に向けると視界に、愛ちゃんにとって無くてはならない物がだらりと垂れてきた。
これだ――!
「い、命は差し出せませんけど! あ、あ、あ、愛ちゃんが、ないと、困るものを手放します……!」
伊東くんが沖田さんの処置のために使った、まだ血のついたハサミを拾う。
それを見た尾形さんが飛んで来て、まるで自殺を止めるかのように腕を掴むの。
「愛ちゃん、待って! 早まっちゃダメです!」
「で、でも! あ、あっ、愛ちゃんには、これしかっ……」
ザクッ。
刃と刃が重なって、ばっつりと切れた髪の毛が地面に落ちる。
1箇所切っちゃえば踏ん切りが付く。膝まであった、カーテンのような長い髪を鎖骨下辺りで切って行く。
尾形さんは目を覆って「やっちゃった」と残念そうにしてくれた。
京都支部のみんなは、わかってくれている。
この髪の毛が、火傷痕や好奇の視線から身を守るための盾だったことを。
「こ、このくらい本気で、お願いしてるん、です……」
足元に散らばる髪の毛の束の上に膝をつけた。髪の毛を切ってしまったショックもある。
だけど、吉乃ちゃんの粛正をして欲しくない気持ちの方がうんと上で、地面に額を押し付けた。
「仲間にしてとは言わないから、ここだけの話にしてください……愛ちゃんには、京都支部には――吉乃ちゃんが必要なんです……」
せめて神霊庁には言わないで欲しい。吉乃ちゃんどころか、吉乃ちゃんのお父さんまで失職してしまうかもしれない。
いくら煙たがられている人達に対しての行いだって、命が関われば神霊庁も黙ってないと思うから。
愛ちゃん、やれることはやったよ。あとは沖田さんに吉乃ちゃんの傷を、少しでも治してもらえたら。
「い、居場所はッ……残してください……!」
絶対に許さない。そう言っていた、祈ちゃんの顔は見れなかった。
◇
「ふぅん。言うほど顔なんて気になんないけどな」
「まあ沖田はんは美人さんやから……」
沖田はんか新見が居そうな場所へ案内しろと言うので、どうせ清水やろ、と交通機関を乗り継いで向かう。
道中は禁忌のことを話そうと思ったら「そんなん後でいいから新見のことを教えろ」って言うんやもの。
新見はどんな人間でどんな人生だったのかを簡単に伝える。興味があるのかないのかわからん反応や。
バスに揺られ、観光客の会話に掻き消される会話。一度諦めて清水寺で下車してから再び口を開く。
「呪われてからやろ? 色んな人から嫌やって言われるようになったの」
今までは恵まれて来たんやろうなぁ。新見を庇う気はないけど、漫画みたいに出来過ぎた幼馴染が居て、生まれた環境も吉。何より友達も多い。理不尽な呪いはあれど、それなりに充実してるんちゃうかなって思うけど。
沖田はんはピタっと歩幅を開いたまま止まる。なんや、違ったんか?
「……まぁな。呪われてる以外はイージーモードよ」
ドヤッと鼻息を漏らして得意げな顔。
「わざわざ止まって言うことちゃうやろ」
やっぱりそうやん。
沖田ちゃんは腹減ったから早く新見と話すべきと言って、ボクより先を歩く。
清水寺はいつも通り。
さっきまで数十年前の同じ場所におったのに、被害の痕跡は全くない。夢でも見ていた気分や。けれど体には疲労、服には戦った形跡が残る。
秋の紅が燃える美しい清水寺。新見はきっと、木の中に紛れてるんやないか。
高校生の頃、頭上にある紅葉を見上げるのが好きやって言っとったもんなぁ。
その場所を目指すと、やはり居た。
ボロボロの袖を集め、膝と一緒に抱いている。
「にいっ……」
新見と呼びかけた。しかし沖田はんの手が唇に蓋をする。土方はんとかに見られたら怒られるんちゃうか。
「待ってな」
声を顰め、落ち葉を踏み鳴らして新見へと近づいて行く。新見が気付いて逃げようとすると、沖田はんは「逃げたら揺らす」と脅しをかけた。
新見は観念したようにうつむき、肩を震わせて沖田はんを待つ。
その後ろ姿は、学生時代に存在を否定されて泣いていた新見に戻ったようだった。




