51勝手目 その自己中には裏がある(2)
愛ちゃんのお願いは「新見吉乃の心を助けて欲しい」っていう、漠然としたもの。
洋達が過去へ戻っている時に一緒に買い出しに行って、少し新見の話をしたけど……結論、2人の力関係が良くないのよね。
新見という親分の下に、愛ちゃんという子分。
愛ちゃんは本気で心配しているのかもしれないけど、私には"そういう性分"が染み付いているように見えちゃう。
ましてや親同士がその力関係の下で生きているみたいだし、松原家は一家揃って新見家の子分なのよ。
洋が快く……いえ、あれは真面目に考えてないわね。考えなしに新見を助ける――なんて言ったけど。
愛ちゃんのことを《《だけ》》を考えるなら、このまま関係を絶った方がいいと思う。
一生新見の腰巾着でいるなんて、人生棒に振ってるのと同じよ。
ここはやんわり、洋に手を引きましょうと言ってあげるべきね。世の中には切れた方が良い縁だってあるんだもの。
「ねぇ、洋。新見に何て言われたか覚えていないの?」
「覚えてるよ? だから?」
ブーツに付着した泥をタオルで拭き取りながら、疑問符を浮かべる。
だから……って。
「あのねぇ、私達は嫌なことを言われたの。ましてや鏡まで壊そうとしたのよ!? 洋達が帰って来れなくなるところだったの! 愛ちゃんには悪いけど――そんな女、私は受け入れられないからね!」
洋の決断だもの、洋が受け入れるかはどうかは洋の勝手よ。でもね、人の容姿を傷つける言葉を吐いて、命まで脅かして。
結果的に全員生きて帰って来たけど、洋だってすっかり呪いが解けていたら危なかった。
洋は助けたら新撰組に入れると言うんだろうけど、あんなの"癌"でしかないわよ。
誰だってあの女とは上手くやっていけないわ!
「だからほっときなさい!」
洋はブーツを磨き終えると、すぐに足を通した。そのタオルをゴミを回収していた晴太に渡して何処かへと歩き出す。
「洋、聞いてるの! 人の話を無視してダメじゃない! ちゃんと聞いてよ!」
声だけで洋を引き留めた。新見のところに行こうってんなら、全力で阻止してやるんだから!
「あぁいう女はね、絶対に性格直らないから! ずっと自分のことばっかり考えて、人の気持ちなんか考えずに好き勝手に行動すんのよ! それがどれだけ周りに迷惑をかけてるかなんてお構いなし。しまいには命に関わることも目的のためなら躊躇わずに犯すの! そんな奴と一緒に居たくないでしょ!?」
こんな奴のどこに助けてやりたい要素があんのよ。絶対一緒に居たくない。誰かにマウントを取りたいなら、SNSにでも篭ってなさい。性格をますますこじらせて、人の温かさに触れられずに孤独に生きてりゃいいのよ。
酷いけど、人の輪に入っちゃいけない人間もいるの。それを洋はわかってない。
「それはアタシの話か?」
「新見の話!」
誰が洋の話してたのよ! ほんっとに話聞いてないんだから!
「んじゃ大丈夫だな。皆一緒に居てくれるし。安心安心」
「新見となんか居ないわよ!?」
「あ、そう? じゃあ新見とアタシは似てるんだな」
「似てるわけないでしょ!」
洋は聞く耳を持たない。そしてちょっと行ってくるわと言って、新見の世話係だという相馬を引っ張っていくの。
守や秀喜がついて行こうとしたけど、晴太が止める。何よ、晴太まで新見を庇う気?
「なんで止めるんです? また危害を加えられたら――」
「まあまあ、伊東さんの気持ちも、祈の気持ちも。すごくわかるよ。けどさ……」
晴太は思い出し笑いをするように笑う。何がおかしいのよ。
「祈が言った新見さんの特徴、まんま洋じゃない? 祈が洋と出会ったばかりの時の事を思い出してみなよ。自分勝手で挨拶の一つも出来ないって怒ってたでしょ」
「そうだけど! 洋は私達を危険に晒したりしないじゃない!」
「僕もそう思ってるよ。でも、洋の中では違うんじゃないかな」
それでもやってはいけない事をしたの。それを許せるなんて善人じゃなく、ただのバカ。晴太もバカ。洋もバカ。
洋かいつ私達を危険に晒したのよ。イライラが止まらない。何かにぶつけたくって、広がったままのビニールシートを手に取る。形を整える口実で思い切り両手を振れば、少しは紛れるの。
「にしても、新見はどうしてあんなに攻撃的なんだ。沖田の我儘には理由があるが、新見も何かあったのか?」
さっきまで泣いていた守が冷静さを取り戻してる。腕を組んでいるから、きっと私と同意見なんだわ。
許したからって新撰組には入って欲しくない。洋が血迷わないといいけど。
愛ちゃんは長い髪を左耳に掛けた。すると大きくて釣り上がったぱっちりとした黒い瞳が現れる。
「き、吉乃ちゃんは……昔はあんな感じじゃなくて……」
きっと庇うように昔話をするんだわ。私は許すつもりはないという気持ちで、愛ちゃんの声を聞くことにした。
◇
――人の体にはそれぞれ個性がある。
同じ部位でも十人十色。鼻一つとっても、高い、低い、横に広い、鼻の穴が大きい等、様々だ。
背の高さ、髪型、体型、目に見える全ては全部違う。
みんな違って、みんないい。誰が最初に言ったのかな。それなら、容姿の悩みなんてないはずなのに。
愛ちゃん――わたしのコンプレックスは顔。小さい時に囲炉裏に落ちてしまって出来た火傷の痕が気になって、いつも髪の毛で顔を隠している。
それは高校生になってからも変わらない。むしろ四六時中考えるようになったの。
そして幼馴染の吉乃ちゃんも、同じ体にコンプレックスを持った女の子だ。
「なんやのぉ、もぉ。二重テープじゃどぉにもならんやん」
「の、のりもあるよ……あ、愛ちゃんがやってみる……」
腫れぼったくて重たい一重瞼。吉乃ちゃんの悩みのタネ。毎日メイク道具を調べては二重にしようと努力する。
個性なんだから気にしなくていいのに……と吉乃ちゃんのご両親は言うんだけど、そうじゃないんだもん。
自分の子は何だって可愛い。愛ちゃんちだってそうだもん。
目に入れても痛くないよって言ってくれる。
「明日こそ二重で学校行かんと……! またバカにされたらたまらんて!」
だけど、外に出たら違うの。愛ちゃん達は笑い者として目をつけられる。吉乃ちゃんは瞼を見て「ぼった」と、愛ちゃんは火傷の痕を隠すために髪の毛で目を隠しているから「めくら」って、差別用語で呼ばれてた。
それは学年が上がってもずっと続いて、高校に入っても変わらない。愛ちゃんはどこかで諦めていたけど、吉乃ちゃんは負けずにコンプレックスと向き合う日々を送っていた。
彼女は悪口を言われても「愛嬌はあんねん」と笑って返し、顔がダメでも性格は腐るなと口癖のように言ってた。何を言われても表情は曇らない。
無視をされても挨拶して、誰もやりたがらないようなことを進んでやって――。
愛ちゃんはそんな吉乃ちゃんが頼しかったし、強くて素敵だな、愛ちゃんもそうなりたいなって憧れてた。
高校では相馬くんにも出会った。彼もまた「男のくせに少女漫画が好きなキモい奴」として、皆の標的になっていて。
たまたま読んでいた漫画が、吉乃ちゃんの好きなタイトルと同じで声を掛けたのが交流の始まり。
学校生活は窮屈ながらも楽しくて、3人でいる事が多かった。日常生活も、行事も、修学旅行も。3人でいればコンプレックスも怖くない。
ちょっと目立たないけど、3人とも新撰組の苗字やね、って笑ってた。
そして、卒業した愛ちゃん達はそれぞれの道へ行った。
吉乃ちゃんは神霊庁へ。
相馬くんは漫画家の道へ。
愛ちゃんは自分と吉乃ちゃんのコンプレックスを治すために医者になろうと大学へ。
そして20歳。忘れもしない成人の日。
その日の同窓会で、前向きで明るくて努力家な吉乃ちゃんは"居なくなっちゃった"。




