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48勝手目 過去戻りの禁忌:京都府京都市(5)

宇吉はさっぱり話さなくなった。さっきまで「生きている」「信じている」と大声を張り上げていたのに、じゃ。


 学が死んだ。


 悲しんで当然じゃ。抜け殻のようになってもおかしくないのに、足取りは確かで目も生きている。それだけで立派だと思う。


 学と出会って日の浅いワシらがたった一晩酒を交わしただけで胸が苦しくなるんじゃから、宇吉をはじめとした他のメンバーは身を引き裂かれる想いじゃろ。


 洋斗が居るという小学校までは少なく見積もっても、三条大橋から歩いて1時間はかかる。この気持ちを抱えたまま他2人の救助へ向かうのは酷じゃが、それでもやらんといけんのじゃ。


 河原町付近に入ると、宇吉はぴたりと立ち止まる。涙を溢さないように上を向いて大声を出した。


「申し訳ない! やはり宇吉は戻ります! 学殿の隣に居たい!」

「あっ、宇吉……」


 宇吉を引き留めようと思ったが、今は好きにさせたほうがいいと背中を見送る。


「放置してたら別な場所に移動されちまうかもしんねぇしな。そっとしとこうぜ」

「……谷は、悲しくないんか」


 ワシには谷が普通通りに振る舞っているように見えた。それともそこまで情が湧いとらんのか。チノパンのポケットに手を入れて、まるでチンピラのように歩くからそう見えるんか?


「学とはあんま話してねぇからなぁ。まぁまぁまぁ、話してたヤツが死ぬってのはやるせねぇよ」

「軽いのぉ……」


 谷なりに悲しんではいるんじゃな。それ以上は聞く気持ちにもなれんくて、ワシらは路面電車の線路沿いを黙々と歩いた。


 倒木や飛散物、電柱の倒壊、切れた電線がぷらんと悲しくぶら下がる。路面電車も横転すると、街の復興は難しいんじゃないかと絶望が頭を過る。


 しかしのう、未来の京都はしっかり繁栄しとるんじゃ。この時代の人らに踏ん張ってもらうしかない。ワシらの生きる時代の話をすれば希望になるじゃろうか。


 いつの間にか隣から居なくなっていた谷は、倒れた路面電車を見つめていた。


「なぁ、晴太って路面電車の中にいるんじゃねぇっけか」

「そういえば……。洋斗のことで頭が埋め尽くされとったが、先に合流するか」

「そうすっか。見た感じ、倒れてるだけで大したことねぇし。晴太は死なねぇらしいから、怪我は浅いってくらいの希望は持ちてぇよな」


 横転した路面電車の上に器用に登る谷は割れた窓ガラスを覗き込んだ。中に人は居ないらしい。


 この箱じゃないのではないかと言うと、乗客だったという通行人に声をかけられた。


 話を聞けば、強風が止んだ後に乗客は全て救助されたという。怪我人は病院に行ったと言うんじゃが、1人はなぁ……と言葉を濁す。


 単刀直入に「若い男性が怪我をしなかったか」と聞けば、あぁ居たよと大きく頷くんじゃ。


「そいつも病院に行ったのか?」

「その子は……助からなかったよ」

「……ん? いや、死んでいないと聞いたんじゃ。体はどこにある?」


 通行人はあそこだと、路地の入り口付近に横たわる上半身に上着がかけられた体を指差した。

 

「嘘じゃろ……晴太は死なないと聞いたんじゃ!」


 転ぶようにして駆け寄る。砂埃で汚れた上着を勢いよく剥がした。


「晴太!」


 顔には細かなガラスが刺さり、喉もガラスで切れたのか血の渇いた跡がある。

 頭をぶつけたと言っていたらしい。ワシは静かに頭を動かした。


「ヴっ――!」


 頭が、割れていた。大きくはないが、パカっと見るだけで痛々しい。胃から込み上げてくるものがあり、思わず口を抑えた。悲しいより恐ろしいが全身を支配して目に熱いものが溜まる。


 吐く息は不規則になり、立ってもいられない。


 昨日、ワシの作ったいなりを食べて美味しいと笑ってたじゃろうに。

 なのになんじゃ。その頭、顔。学は水に濡れて冷えちょったが、晴太は体温が無くなって、陶器のように冷たい。

 

「お前は呪われちょるんじゃろ! なんで死人みたいな顔しとんのじゃ!」

「服部! もうダメなんだ! 諦めて洋斗のこと助けに行くぞ! さっき宇吉にそう言ってたろ!」


 なんじゃ。なんでなんじゃ。見つけたら死んでるってなんなんじゃ。ワシが最初から新撰組を受け入れてたらこうはならんかったんじゃないか?


 晴太、お前言っとったろうが。洋と宇吉とワシで学生時代は何の部活に所属しちょったかって話してた時のこと、もうなかったことにするつもりなんか?


「学校に行ってなかったから、青春って経験がないんだ。守と洋に1年だけ青春をもらってね、それをずうっと大事にしてたんだよ」


 ワシのお気に入りの日本酒をご機嫌に呑んで、僕は幸せ者なんだって酔いしれてたろう。


「禁忌も仕事も怖いけど、みんなと居れるのが嬉しいから無理も出来ちゃうんだよね。痛みも希望に感じちゃうっていうかさぁ。部活もそんな感じなのかな」

「いやぁ、違う気がするけどのぉ」 

「そう? んでも、僕は今が1番楽しいや。これ、青春だよね?」


 青春を続けるんじゃなかったのか。皆一緒だったら嬉しいなって笑ってたの、嘘にする気か。


 呪いなんて嘘っぱちじゃ。何が神だ。奪って与えて、また奪うなら悪魔じゃろ。


 谷に呼ばれても足に力が入らんし、立とうとも思えんかった。

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