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48勝手目 過去戻りの禁忌:京都府京都市(3)

「気をつけるのは当たり前よ。ちゃんと帰って来るのも当たり前。わかった!? 宇吉!」

「あいわかった!」


 禁忌を初めて犯す4人の顔はこわばっていた。唯一、宇吉だけが樺恋に奮い立たされて緊張が解けていても、完全に恐怖は拭えないようで。


「あ、あの……あ、愛ちゃん……も……」


 自らを"愛ちゃん"と名乗る女性は、か細い声で相馬に近付いた。京都支部の4人は顔見知りなのか、久しぶりだなと声をかけた。


「その人は?」


 問いかけると、服部が得意げな顔で女性を紹介し始める。


「愛ちゃんは医師免許持っとるんじゃ! 過去に連れていけば、怪我も治せるぞ!」


 彼女は松原愛まつばらあい。 新見の幼馴染で医師免許を持つだけで医師経験のない、頼っていいのかわからない人間だ。

 彼女は新見を止められなかった責任を感じているらしく、行きます、行かせてくださいと何度も頭を下げて懇願する。


 正直、戦略になるとは思えない。まず、オドオドして落ち着きがない。自分が過去に行けば新見の行いが許されると思っているだけなのでは?


 でも、過去に戻ってすぐに手当をした方が助かる確率が上がる?

 いやでも……。


「いえ。現代に残って祈と待機してください。処置に必要な物があれば準備を」


 迷いに迷い、現代に留めることにした。医師免許が本当なら、祈と協力して帰りを待ってもらった方がいいでしょう。


 祈は涙を拭いて「わかった」と立ち上がり、愛と共に必要な医療用品を求めて街へ駆けて行く。

 

「では……行きますか!」


 宇吉が頬を叩いて鏡を潜る。続いて暖簾を潜るように谷、服部と続いた。


「相馬さん」

「なん?」


 相馬が鏡を潜る寸前に引き留めた。鏡の縁にかけられた手の親指は、既に過去へと溶けている。


「出来ればあなたには新見の所へ行って欲しい。どうするかは任せます」

「それは、それ相応の粛正を望んでるってことやね?」

「――解釈も任せます」


 連れ帰って来るな、と言いたい気持ちを抑える。しかし相馬はそれを察して、処罰という言葉でぼやかした。

 新見に恨みのありそうな相馬ならやってくれるでしょう。


「ほんまなら自分で手ぇ下したいんやろ。ええよ。気持ちは受け取った」


 そして相馬は薄らと笑いながら鏡を潜る。

 

 誰とも構わず殺したいわけじゃない。けれどあの人だけは許せない。ドス黒い感情だけに支配されないよう、まだ動かない守のパソコンの履歴を探って情報を集める。


 樺恋とネリーが守を挟む様に座り「苦しいね」と慰めた。

 

 


「よかった。4人一緒や」

「禁忌初心者としては嬉しいですが……いや、しかし……これは……」


 ピークは去った後なのだろうが、雨は降らずとも大きな風が吹く。


 降りたった場所は望んだ通り三条付近は壊滅的な被害を受けている。川の氾濫で家屋や飲食店、そして橋の一部も流されている。

 

 河川敷は完全に水没しとるし、橋の上にはまだ助けを待ちながら欄干に捕まる人も居る。


 荒れ狂う川の中から肌色がポコポコと浮き上がり、動いていたり、そうでなかったり――人が流されているのが確認できた。


「この中から山崎学を探すんか……!? 無理じゃろ。ワシら素人じゃぞ!」


 服部はこんなに酷いと思わんじゃろ! と、腕を組んで恐怖を抑えている。そらそうや。最初の尾形の言うことを聞いていれば、こんなに酷いならやめたほうがええよと行き先を変えられたかもしれん。


 けどボクは土方はんから室戸台風を選んだ理由を聞いていた。これまでの禁忌も自然災害を選んできたのは、沖田はんのためやって。


 人から向けられた悪意で傷ついて欲しくない。自然災害ならどうしようもないと、どこか諦めがつく。そう土方はんは言っとった。

 

 確かにこの光景を見れば諦めはつくけど、これは破滅的絶望に等しいんちゃう? 


「おーい! 学ゥ!」


 谷の声はよく通る方や。しかしその声も濁流や混乱で戸惑う大勢の言葉の中に紛れてしまう。

 もちろん、返事もない。


「地道に探すしかありませんなぁ……さすがに我々があの濁流へ飛び込むのは……なぁに、学殿は生きておられる! 芸能界を干されてもピンピンしておられるのですぞ? 川に飲まれたくらいじゃ死にませんな!」

「おいおいおい。さすがにこれで……なぁ……?」


 谷の言う通りや。さすがにこんな状態、しかも飲み込まれたとわかっているボクらや。ボクかて生存の可能性はほとんど期待できないと思っとる。

 お気楽な谷も深刻に受け止めとるんや。宇吉はんは気でも狂ったんか?


「何をおっしゃる。宇吉は信じてますぞ。人は案外、間近に迫る命の生き死により、人から受ける善悪で死んでしまいたくなる物ですからなぁ。気持ちより、体は意外と丈夫なのですぞ。となれば……学殿は大丈夫ですな」


 行きますぞと大声でボクら引っ張ってくれる。宇吉はんの言葉は嘘を言ってるようには思えんし、かっこつけているようにも見えんのよ。楽天的に見えるようでそうでない。


 その背中が頼もしい。

 

「ワシらにはない信頼関係じゃな……ちと、羨ましい……」

「まあ、オレ達は新見に集められた飲み仲間なだけだしな」


 谷と服部は顔を見合わせて寂しそうな表情を浮かべる。後ろから吹いた風に背中を押されると、ボクはそんな2人を慰めるように肩を叩く。

 

「何言うとるん。ボクは2人のことを信頼しとるよ? やからさ」


 伊東はんから任されてることがある。とは言わず、ボクしか出来ない目的を果たすために動かなくてはならない。今の指導者は伊東はん。リーダーの指示は聞かんと、ねぇ?

 

「ボクは沖田はんを助けに清水に行く。新見もおるしなぁ。ワガママ2人を一気に相手出来るんは、ボクしかおらんやん? やからあとの3人は君らと宇吉はんに任せる。ええね。宇吉はんには上手く言っといてや」


 頼んだでと両手で2人の背中を押し何歩か後ろ向きで歩くと、宇吉はんが振り向かないのを確認してから反対方向へと一気に走り出す。


 新見を粛正するためにというより、あんなに弱った土方はんを見たら居てもたってもおれんていうか。

 最推しカプには一緒におって欲しいやん?


 バッドエンドは地雷やもん。

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