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48勝手目 過去戻りの禁忌:京都府京都市(1.5.3)

洋さんの横顔を見た。晴太さんは気が付いてなかったけど、ボクによく似た顔だったもん。


 でも洋さんったら足が速くてなかなか追いつけない。黄色のジャージを羽織っていたはずだからすぐに見つかると思ったけど、そんな人もいない。


 そういえば、洋さんを見かけた時はどんな服装だったっけ? 黄色でも浅葱色でもなかったし……ボクが見たのは、本当に洋さん?

 


 朝の通学通勤の時間みたいで、小学生くらいの子供達がわらわらと同じ方向に向かって歩いていく。通してねって言えばいいのに、過去の人と話したら何か変えちゃいそうで言葉が出てこないんだもの。


 子供は話に夢中になっているかと思えば、あ! と口々に何かを見つけて小さな足で走り出す。

 そしてボクが洋さんだと思っていた人に抱きついて、笑顔を咲かせていく。


「幸才先生! おはようございます!」

「おはよう。今日は風が強いなぁ」


 その人の声を聞いて、ボクは全身に電気が走るような衝撃を受けた。洋さんだと思った顔、そして声はボクと全く同じもの。洋さんと初めてあった時のような、血の繋がりを感じずにはいられない。


 子供達の中心でニコニコと話す姿は昨晩の洋さんそっくりだ。


 晴太さんを待たせているのも忘れ、気が付かれないように後をついていく。目立つオレンジ色のジャージを脱ぐ。ワイシャツならこの時代でも溶け込める。普段は気にしない服装にも気を配らなきゃ。


 いつもより緊張する。胸がザワザワと騒いで落ち着かない。洋さんだと思ってついてきたのに、気付かれたら終わりだと思うのはどうして? 


 きっと瞬きも忘れている。一時もその姿を離さないように、ジッと見張るんだ。

 

 暫くすると、小学校が見えてきた。現代で見れば時代を感じさせるのだろうけど、過去に来ているから見慣れない校舎もすっかり馴染んで見えた。

 その東側にはコンクリートで出来た新校舎らしいものがあって、どことなく現代へ近づく予感をさせる。様子を見ていると、新校舎はまだ使われてないみたいだ。


 木造校舎に吸い込まれる様に入っていく子供達、そして風に吹かれそうになりながら子供達を出迎える先生達。何気ない日常。何も疑うような事はないや。


 敷地の中へ入るのは流石に良くないと思って、目立たない所から外に立って生徒を出迎えるその人を見た。洋さんみたいな顔だから中性的なんだろうけど、どうしてボクと似てるのにボクは美人じゃないのさ。


 眉毛が太いから? ゲジゲジった言われるけど、これでも整えてるんだよ?

 でもあの人はシュッと描いたような眉毛でさ、笑うと周りの大人も「いい男ね」なぁんて言っちゃうんだ。


 やがてチャイムが鳴る。授業が始まるんだと思ったらハッとして、晴太さんの事を待たせていた事を思い出す。


 いけないと立ち上がる。そしたらビュウと大きな、立っていられないほどの強風――いや、暴風に尻餅をつかされてしまう。


「すんごい風強い……! 晴太さんもさすがに、避難してるよねぇ!?」


 何処か安全な所に行かないと。目の前には学校、行くしかないじゃないか。不審者だと思われるかもしれないけど、ここは素直に話して中に入れてもらわなくっちゃ。


「何か御用……ですか?」


 自分の声に肩を叩かれる。


 いつの間にだろう。さっきの人がボクの隣で無表情に首を傾げている。

 洋さんと同じ顔、ボクと同じ声。それはとても不気味で、冷たい恐怖で感情を冷やしてくる。


 視線を外そうとも、掴まれて離れない。


「……まだ、居たのか」


 ため息ではない、冷気を吐くような呼吸。


「あ、あの、風が強くて! だから、その、校舎の中に入れて頂きたくて……」


 怪しいものじゃない。確かに後をつけたけど、それはごめんなさいと謝った。何故と聞かれ、妹に似ていたから気になってと、素直に答えたんだ。


「もう1人いるのか……」


 ボソリと呟き、舌打ちもする。得体の知れない恐怖には、死すら感じる。

 喉が詰まるような感覚がする。心臓が跳ねて、全身が震えて止まらない。喉がヒューと鳴って声にならないんだ。


 そしてその人の口角が少し上向くと、打って変わって微笑んで手を取ってくる。ボクは思わず手を引っ込めたけど、指先は力強く握られて離してもらえない。


「いいでしょう。どうぞ」

「あ……ぁ……」


 要望を飲んでくれたのだから、ありがとうございますと言うべきなんだ。この人について行くならいっそ、雨風にさらされていた方がマシなんだって思ってしまう。


「本当に風が強いですから。こんな強風じゃあ、校舎が倒れたりしてね」


 不敵に浮かべる笑みは今からそうしますとでも言っているみたいだ。


 さぁと強引に手を引かれ、ボクは校舎へと連れて行かれる。異様に冷たいこの人の指先に震えながら、きっと帰れないんだと人生の終わりを予感している。


 本物のドッペルゲンガーに会ってしまったのかも、しれない。

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