48勝手目 過去戻りの禁忌:京都府京都市(1.5.2)
「やべ……洋いねぇ……」
守に洋は泳げないから一緒にいろ、離れるなと言われたのに――洋の姿が見えない。
が、目の前には川がある。確かに溺れたらおれが助けられるようにって、水がある前提で話はされたぜ?
必要なのは川じゃなくて洋なんだよなぁ。もし洋と一緒に居ないなんて素直に言ったら、あの鬼は容赦なく息の根を止めてくるだろうよ。
誇りの弟と来たら、ねぇ? 表向きはクールで才色兼備な土方君だってのにさぁ、蓋を開けたら、過保護で幼馴染に依存癖のある土方くんって訳よ。
そりゃ伯父さんと叔母さんも洋を受け入れるわな。ま、あの2人は誰でも受け入れんだろうけど。
洋さえ助かれば、おれはワンチャン死んでも……とまでは思っちゃいないだろう。でもなぁ、過去の事が許された訳じゃねぇから、多少の怪我は知らんとか思ってそうだわ。お兄ちゃんには厳しいねぇ。
「洋を探すかぁ。守にまた口聞いてもらえなくなんの困るし」
風も強いし、雨も降っている。さっきから物が舞い上がってるし、自転車を漕ぐ人もフラフラ、すれ違う人も手で風除けを作っている。
ヤバい天候になる前に合流しねぇと。ここは焦らず落ち着いて、皆と連絡を取ろう。
過去と未来の交換手である山崎学が皆様を繋がせて頂きますよ、と。
工作が得意な洋斗が壁掛け電話をショルダーにしてくれたお陰で動きやすくなった。それだけでご機嫌なおれが受話器を取る。
もしもし、と何度発しても応答はない。全員ガラケーを触ってないのか? んなわけない。それとも時代的なアレか? でもいく子の時は通じたし……等、いろいろ頭を巡らせる
電話の調子が悪いのか。そんな訳——
「ゲッ」
受話器から伸びるコードがだらんと垂れて風に吹かれている。本体には引きちぎれたコードの根本が残り、どうりで繋がらない訳よと冷静にさせられた。
「ま、こんな事もあろうかとコードの直し方は予習済みよ」
お兄ちゃんは抜かりないんだ。いつだって対応出来るように、洋斗から借りた工具一式を持って来た。予習してるとはいえ、やるのは初めて。
雨風を凌げるところを探せればいいが、生憎そんな都合のいい所はないと思うだろう?
あったんだなぁ、それが。日頃の行いってやつ?
近くにあった大きな橋の下なら凌げそうだ。横風に吹かれる雑草達を踏み締めて、橋下で工具を広げて胡座をかいだ。
ちょっと直すくらいだし、万が一増水したら上に登ればいいし。
もし川に飲み込まれても泳げるしな。守には劣るけど水泳は得意だ。慌てず焦らず行動すればなんとでもなる。
「なんだこれ。古い方が単純だったりしねぇのかよ」
受話器のコードを直すのは苦戦しそうだ。連絡付かないと現代も過去も心配するだろうし、さっさと直さねぇと。
「洋斗が居ればなぁ。直してくれたかもしんねぇけど……」
電話を直すのに夢中になって、目の前の川の水嵩が少しずつ増していく事に気がつかない。
それに周りに人も結構いるし、大丈夫だろう。1人じゃないなら平気だ。
――こうやって犠牲が出るって、おれはなんで気づけなかったんだろうな。




