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48勝手目 過去戻りの禁忌:京都府京都市(1)

「まさか京都で禁忌を冒すとはねぇ……壁掛け電話持ってきて正解だったな」

「鏡も洋が買ったのがあるし、いつでも出来ちゃうんだよね……」


 とほほと揃いのジャージを纏いながら、京都の地で禁忌を冒す。

 本当は京都市内中心部で行いたかったのだが、いくらなんでもと顔を顰める京都支部の4人の視線が痛くて断念。


 そしてほぼパターン化されたかのように、鷲ヶ峰という山を指定された。人気のない場所だが、紅葉が美しい。東北とはまた違った京都の空気がより紅を際立たせているようだ。


 というか……山は人が居ないから指定されるのは納得なのだが、別に禁忌を冒すからって現代に大きな影響があるわけじゃないぞ。


 栗駒山のように死者が怨霊化するならまだしも、今回は突発的な物。予定していなかったんだ、京都支部が心配するような事は起きないだろう。


 見たいと言ったものの顔が強張る京都支部の不安を他所に、沖田は早朝からエンジン全開でぶっ飛ばしている。


「禁忌だ禁忌だ! 日付はアタシが書くぞ!」

「ダメ! 洋さんの事だから、また新撰組に会いたいって言うんでしょっ」


 沖田の手から紙とマジックペンを取り上げたのは洋斗だ。ナイス、さすが兄妹。考える事はお見通しだな。


「人斬りの時代ですよ? 本物に会ったら、容赦なく斬られるかも」

「伊東、アタシを誰だと思ってんだよ。沖田だよ? お、き、た」

「確かに八木邸での動きは驚きましたけど……それでも、幕末に行ってらっしゃいなんて言えません」

「伊東ならいいよって言うと思ったんだけどなぁ……チェッ」


 あからさまにやる気をなくした沖田は、キャンプ用の椅子に身を投げた。それから骨が無くなったかのようにダラけ、めんどくさいと大きなため息ばかり吐く。


 幕末に行けないならどうでもいいって顔だ。死者を救わなきゃ眠れないくせに、他人事なのは相変わらずだな。


「もう行く年は決まってるんだよね」

「あぁ」


 禁忌の準備が整った晴太は、後は日付だけだよと紙を受け取りに来た。

 とその前に、俺は全員をアウトドアテーブルの周りに集め、ノートパソコンの画面を見せた。


「今回は1934年に行ってもらう。事象は室戸台風だ」

「室戸台風?」


 数人が口を揃えて疑問符を浮かべた。東北に生まれた人間からすれば、台風はあまり馴染みがない。


 宮城に至っては大型台風が来ると言われても、雨が降ってる、風が少し強いくらいで特別危機感なんて持ちやしない。

 風は年中家を揺らすほど強い風が吹いているから、台風の異常性はニュースで見る物くらいの認知でしか無いのだ。


「室戸台風……知識は浅いですが、戦後最大勢力の台風では? 禁忌って、当時の現場に行くんですよね……?」


 尾形の声は震えていた。毎年9月にどれだけの勢力、被害があったのかを各媒体で報じるらしい。それを見ていれば、経験がなくても危険だと判断出来る――と、尾形は止めるのだ。


「禁忌はやってはいけないことだから禁忌なんだ。危険は承知、それでもやる。それが俺達だ」


 前は上手くいったから、今回も上手くいく保証はない。それでも冒し続けるのは呪いを解く為。


「ってな訳で、行きますか。どんだけ危険か知らねぇけどさ、山ん中で大地震と土砂崩れ経験してっからなぁ」

「アタシは熊に耳抉られてるし」

「僕は右半身複雑骨折したしね!」

「勲章みたく言わないでよぉ! ボクは凄い怖いんだからぁ!」


 学を皮切りにこれまでの怪我は誇りだとばかりに、3人は目元で横に向けたピースをする。洋斗は足をガクガク振るわせて、禁忌が怖いと半べそをかいている。

 

 慣れれば怖くないと堂々と言える3人だ。ちょっとやそっとじゃ挫けんぞ。


「はぁ……ボクも行かなきゃダメぇ……?」


 洋斗を除いて――は。しかし、渋る洋斗には強制的に背中を押してくれる存在がいる。携帯や必要最低限の荷物を持ったかと確認されると、洋斗の後ろから彼より高い影が立つ。


「ジャ、行こうか!」

「早く腹括ってください。お義兄さん」


 ネリーと伊東が暴れる洋斗の両腕を掴み、鏡の前まで連れて行く。洋斗は浮かんだ足をバタバタさせて、心の準備がなってないと騒ぐがおかまいなし。


「ねぇ! ボスのお兄さんの漢字! 絶対に違った! 義理のお兄ちゃんじゃないぃ!」

「もうオレの父親とも会ったでしょう! 顔合わせは済んだみたいな、もん、です!」

「あ!」


 訳の分からない会話が繰り広げられ、洋斗は鏡の中に詰め込まれて姿を消した。そして強情だなぁと慌てた晴太が即座に鏡へ潜る。

 次は沖田、という時に俺は声を掛けた。


 今回に至っては、禁忌以外に心配な事があるからだ。


「沖田。台風は水害と言っていい。兄貴が泳げるから、出来る限り離れないように行動してくれ。居る場所さえ教えてくれれば、現代こっちで情報を探す。無理だけはするなよ」

「わかった! 行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 手を振り返すと、沖田は黄色いジャージをはためかせて鏡の向こうへと行ってしまった。その後に学が続く。


 これで4人全員、過去へ戻ってしまった。


「しんどい……しんどい……」


 相馬の苦しそうな声。左胸を押さえて苦しみ、その場に膝をついてしまっている。禁忌が恐ろしくて耐えられないのかと、祈が呼吸を整える為に即座に相馬の背中を摩る。


「あー……大丈夫だぞ。その……志蓮のコレはよぉ……」

「病気じゃ……病気」


 腕を組んで呆れるのは谷と服部。過呼吸のような状態なのに大丈夫と言われて、祈が引くわけがない。


「吸うよりも吐くのを意識するのよ!」

「ア……あっ……」


 じゅるると、液体を啜る音。喘ぐ様な嗚咽。


「伊東はんのお父さんとお兄ちゃんに顔合わせさせとんのに、幼馴染の土方くんには行ってきますって笑顔で手ェ振っちゃうん何!? あの空気! もう、家族やん! 何!? アァァ……死ぬ……萌え死ぬ……取り合いは至高……スゥ――ッ……アカン、死ぬ」


 暴走した相馬は口の端から涎をダラダラと垂らしながら早口で喋り倒し、満足そうに昇天した。

 そのまま死んどけ。祈もドン引き、軽蔑した目で見下ろしながら樺恋を抱く。


「樺恋、あぁいう大人になっちゃダメよ。人前で涎を垂らすのは恥ずかしい事なの」

「あ、あたしそんな事しないもん! でも洋は寝てる時垂らしてたわ! それは!?」

「あれは安心してる証拠だからいいの。でも相馬みたいなのはダメ。近づいてもダメだからね」


 コレでもかと釘を刺している。


「守殿、学殿が泳げるのと、洋殿に離れないように告げたのは何故でしょう?」


 宇吉が質問してくるが、昨日理不尽にキレてしまった事を思い出すと顔を見れなかった。何故怒っていたのかも聞いてこず、普通に話しかけてくれるのはありがたい。大人の対応に自分が情けなくなる。


「沖田は泳げないからな。万が一の時のために、泳げる兄貴と居てくれって伝えたんだ」

「ほぉ……なるほど。洋殿から伺ってはおりましたが、守殿が水泳が得意なのはそういう事でしたか」


 宇吉は顎に手を当てて、うんうんと頷く。沖田が宇吉に何を言ったんだか。


「これは宇吉の推測ですが……洋殿のお話ですと、洋殿か5歳の時に海で溺れかけてから水泳教室に通い始めた、と……そして数々の水泳大会で賞を総なめ、インターハイでは全国にまで行ったそうですなぁ? つまりあれですな? 守殿はぁ、洋殿がぁ、泳げないからぁ、水泳に励んだ訳ですなぁ!?」


 かまぼこのような目で、痛いところを突くように詰めてくる。沖田の奴、なんでそんな事話してんだ!

 

「おぉ、昨日何部じゃったかの話で言いよったな。なんじゃ、守も過保護じゃの」

「違う! 俺はただ得意だった物を極めたくて――って痛テテテテ」


 右肩に激痛が走る。骨の砕け散るような軋みが全身を巡り、左肩を払うが痛みは止まない。

 

「禁忌中ですけど。もっと真面目に待てないもんですかね」


 伊東が持つ力全てを左肩に込めてくる。ギラギラとわかりやすい嫉妬心を目に浮かべるオッドアイはナイフのようだ。


「過保護な幼馴染と独占欲強めな御曹司……捗る……捗る……ぐはッ――!」


 喀血でもしたのかと相馬を見ると、メモ帳を片手に倒れ込んでいた。もうダメだ。収集がつかん。


「き、禁忌なのに、随分賑やかですねぇ……」

「待つノモ疲れる。このくらい元気のホーがイイヨ?」


 汗を垂らす尾形の横で、昨夜の残ったいなりを食うネリー。


 変に緊張するよりかはいいのかもしれないが、あんまりにもカオス過ぎやしないだろうか。

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