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47勝手目 仲間って何だろう(3)

「なんで!? 誕生日なのに! いなり!?」

「しょうがないでしょ。まさか10人が14人になるとは思わなかったんだから。そこは服部に感謝しなさいよ」

「狭いし、いなりだし、いなりだし、いなりだし!」


 沖田の誕生日を祝うべく伊東が予約していた飲食店に向かったものの、人数が増えるなら難しいと断られてしまった。


 ここまではいい。店側の当たり前の対応と言える。

 なら正規の10人でという話にもなったが、すでに酒を飲んでいた谷とネリーが騒いだせいで信用されずに出禁。いくら利用回数が多い伊東だとしても、連れて来た奴の中にうるさいのがいれば話が変わると。


 その後も大変だった。14人をいきなり受け入れてくれる店なんてある訳がない。観光シーズンでただでさえ人の多い京都だ。行く宛が無くなったと途方に暮れていると、服部が「狭いが、ワシの店とか」と提案してくれたのだ。


 お世辞にも広いとは言えないが、この狭さが親睦を深めるかもしれないと皆有り難く使わせてもらおうと口を揃える。


 相馬がしれっと壬生寺から机や椅子を借りて来てくれたおかげで席も出来た。

 並べられた料理は……いなりだけなのだが。明日、店に出すはずだったいなりを消化したいからと、服部は丁度良かったと笑顔になる。

 

 明日は禁忌の見学で臨時休業。仕込んだお揚げにせっせこ飯を詰めている。

 それを祈と宇吉、尾形が手伝っていた。提供スピードはファストフード並。無限いなり地獄の始まりだ。


「無限においなりさんだけ出て来るね……でも、美味しいよ?」

「限度ォ! まさか、ケーキもいなりで作ったとか言わないよな!?」


 晴太か沖田にいなりを取り分けるが顔が引き攣っている。そりゃあ大皿5枚分、山のように盛られたいなりを見りゃ誰でもそうなる。


「……どうでしょうね」


 いなりを運んで来た祈は目を逸らした。マジでいなりしかねぇんだ。


「……飽きて来たわ」

「ほらぁ! 樺恋も飽きたってぇ! 何食いたい!?」

「お汁とかかなぁ……宇吉ぃ! 何か作ってぇ!」

「なんだよ汁って! アタシはポテトとかピザとか、唐揚げとか唐揚げとか唐揚げとかが食べたいッ!」


 樺恋の方が大人だ。宇吉はまるでその場にいるような大声で「お待ちくだされ」と返事をした。相変わらず声がデカい。八木邸に居た時の声量で話せよ。


 沖田はいつも通りというか、所謂子供のお誕生日メニューみたいなものを所望する。


「うるさい奴じゃのぉ! ほら、唐揚げじゃ!」

「え……」


 湯気を立てた唐揚げが沖田の目の前に置かれた。唐揚げの一つに、即興で作ったと思われる手製のピックが刺さる。旗には誰が描いたかわからないが、ジト目のニワトリが羽を広げていた。


「宇吉が死ぬ気で走り回って鶏肉買って来たのよ。今は汁の具材買いに行ってるけど。ちなみに、味付けは私よ」

「唐揚げにゃあ一切触れさせようとせだったけぇな」


 祈は簡易エプロンを取り、高く結んだ一本の髪を解いた。


「洋は私の作った唐揚げが、世界で1番好きなんだものね」


 祈が微笑むと、沖田は口を尖らせて唐揚げを1つ箸で掴み、隣に座る樺恋の皿に置いた。


「くれるの? 洋の誕生日でしょ?」

「美味いから。食ってみ」

「ありがとう! 洋、大好き!」


 樺恋が沖田の体に勢いよく抱きつく。それは子供の無邪気な愛情表現だが、樺恋にとっては別な想いも含まれる。

 沖田は唐揚げを幾つか頬張って、祈の優しさと樺恋の愛情を誤魔化した。


 引き戸が荒々しく開く音と共に、買い出しに行った洋斗、兄貴が入って来た。2人の手には引きちぎれそうなビニール袋が複数。袋からはペットボトルや菓子が飛び出ている。


 その後にダンボールを抱えた相馬、そして大中小と大きさの異なる白い箱を3 つ抱えた伊東が入って来た。


「死ぬ! 死ぬ! 手が引きちぎれる!」

「だぁからボクは最初にケーキ買おうって言ったんだよぉ! ボスは絶対に拘るから、飲み物買うのは後でにしようってさぁ!」

「まぁええやん? 結局予約しとったんやし。店が……遠かったんやけども……」


 相馬は缶の飲み物をテーブルに静かに置いていく。ジュースは初めに樺恋に選ばせ、次に沖田に選ばせた。

 14人分の飲み物を3人で買って来るのは大変だったろう。労いの言葉を掛けると、兄貴はキッと目つきを鋭くさせて谷とネリーを睨んだ。


「あの2人が酒さえ飲まなきゃあな、もう少し楽に買って来れたんだよ!」

「怒んなよォ、イケメン俳優が台無しだぞォ!」

「谷、元イケメン俳優ダ。今は、タダの山崎学!」


 酒に酔った2人は大声でガラガラ笑う。楽観的な2人だが、なんだかんだ意気投合したらしい。


 伊東は一言も発さずにケーキを奥へと持って行く。なんで3つも箱があるんだ? 予約していたって言うんだから、10人分であの量って事か?

 アイツの考える事はわからん。


 さあ、全員が揃った所で沖田の誕生会が始まる。沖田は散々祝えと偉そうにしていたくせに。いざ口々に「誕生日おめでとう」と言われると、唇をへの字にしながら照れている。


 しかし目線を下に向けながら、喜びで唇を震わせた。


「あ、ありがとう……こんなにいっぱいの人に祝われた事ないから、照れ臭いな」

「いつもは育てのご両親と?」


 尾形の何気ない質問に悪気はない。祈と晴太、そして俺もそれは……と俯いたが、沖田は迷いなく答えた。


「土方ん家でしか祝ってもらった事ない。お父さんもお母さんも忙しいと思ったから。性格悪いって言われてたから友達も居なかったし? ま、自業自得だよ」


 沖田の声色はどこか自信に溢れていた。悲観したっていいのに、それを感じさせない力強い声。


「土方はアタシの誕生日皆勤賞! お前らもこれから、皆勤賞狙ってくれよな!」


 な! と歯を見せてニカッと笑いかけてくる。が、少し眉は垂れている。だからアタシは不幸じゃないよねと、確認して来ているように見えたのは幼馴染だからか。確かにそう見えた。


「気をつけろ。たかられるってどころの話じゃないぞ」

「本当だよぉ。ボクもお兄ちゃんなんだからって、ちょっといい布団セット買わされちゃったし……」

「本来なら洋の布団を汚した学が買うべきなのにね。私は基礎化粧品のセットをあげたわ。ちゃんと使いなさいよ?」

「おれはゲーム内で洋にアイテムいろいろやったから……」


 洋斗、祈、兄貴が沖田へのプレゼントを公表していく。それがどんなに幸せな事なのか、沖田の顔を見ればわかる。

 沖田にとってプレゼントの内容ではなく、今この瞬間が嬉しくて仕方がないのだ。


 だから皆勤賞を狙ってくれ、と言った。そうだろう、沖田。


「その皆勤賞はワシらもか?」

「当たり前ダロ! オイナリ野郎!」

「ネリー殿。少々飲み過ぎでは……」


 場が笑いで溢れ、飲み食いしながら会話を楽しむ。沖田の横顔を見るたびに、晴太や兄貴が言った、「呪われているのも悪くない」を思い出す。


 呪われなければ繋げなかった縁。呪われなかったら永遠に聡さんや葵さん達と居れたかもしれないという後悔。


 仲間と楽しそうに笑って、感情を偽らず、我慢もしない。そして俺も含め、沖田が誰かの弱さに触れて入り込むと人が集まってくる。


 大勢を敵にしても、これだけ心強い味方がいれば、いつか全ての呪いが解けると希望を持ってしまうな。

 

「そういえば、伊東さんは洋に何をあげたの?」

「……いや、教えたくないですね」


 晴太の不意の質問に、伊東はそっぽを向いた。


「京友禅の羽織もらったぞ。このパーカーと同じ色」

「きょっ……京友禅の羽織!?」


 ピンからキリまであるだろうが伊東の事だ、絶対に安価な物は買わない。

 目を逸らしたのも渡した物を知られたくないのではなく、金額の詮索をされたくないからだろう。


「よかったぁ。ボスが洋さんに指輪とかあげてたらどうしようと思ってたけど、案外普通だったや」

「普通ではねぇじゃろ……」

「なん……? 土方はんと伊東はんは三角関係的なアレなん? そうなん!?」

「俺は違う! 巻き込むな!」


 洋斗は唐揚げを食べながらホッとした顔を浮かべ、相馬は興奮気味に端に座る伊東に詰め寄った。

 

「残念。四角関係だ。ここにも報われないのが居るぞ」

「やめてよ学さん! 報われないとか言わないもらえます!?」


 兄貴が缶ビール片手にほろ酔いで晴太を指差した。

 

「えぇ……なんそれぇ……美味ぁ……歪ぅ……少女漫画じゃ見たことないぃ……良き……」


 相馬は目を回しながら倒れ込み、左胸を押さえた。心配する事のない発作だろう。しかしコイツ、一体何にクラクラしているんだ?


「相馬君、恋愛作品が大好きなんですよね。特に早くくっつけ! みたいなじれったい関係が嗜好らしくて、多分刺さったんではないかと……」


 なるほど……と祈と兄貴は酒を飲みながら感心する。沖田の思わせぶりな態度があるから尚更かもしれないな。


 というか、俺は別に入らなくてもいいんだが? 幼馴染なんだから別枠だろ。いや、なんでこんな事考える? 酒のせいか? いやいや、俺は飲んでないし……いや、でもさっきから頭がクラクラする。


 コップを覗くと、泡のない小麦色の苦味が注がれている。


「酒……か?」

「守もお酒だと思って注いじゃった。ダメだった?」


 隣に座る樺恋がビール瓶を抱えて眉を困らせた。酒はよそうと思っていたが、樺恋の善意を無碍にするのも心苦しい。


「いや、いい。沖田には注いだのか?」

「洋はレモンの奴しか飲まないんだって」


 本当は沖田に注いでやりたかったのだろう。俺は気を利かせてレモンサワーの缶を開け、樺恋の持つビール瓶と取り替えた。


「これなら飲むから。渡してみろ」


 樺恋の表情はたちまち明るくなり、弾ける笑顔で「うん!」と返事をした。


 沖田が助けた子供。沖田に助けた責任があると言わせた子。もし樺恋が親が欲しいと言ったら、沖田はどうするんだろうか。

 宇吉が居るから心配する必要もないのだが、酔った頭でそんな事ばかり考える。


 親の居ない沖田だ、親になると言ってもおかしくないぞ。その時の父親は誰だろう。宇吉か? あぁ嫌だな。


 考えれば考える程酔いが回っていく。ダメだ体と思考が一致しない。言わなくていいのに、言わなければ気が済まん!


「宇吉! お前、絶対に許さんからな!」

「はい!? 守殿、どうなされた!? 宇吉……何も心当たりがッ……」


 宇吉は目を丸く、いや白目を剥きながらぶるぶると怯えていた。何がどうなされた、だ。


「あぁああ、すいませんね! うちの守は酒癖が悪くてね!」

「そ、そう! ちょぉっと外の空気を浴びさせてくるから! 今のは忘れてあげてね!」


 兄貴と祈に両腕を掴まれ、外に引きづられる。自分でも酒癖が悪いとわかっている。だけど酒に飲まれてしまえば制御が効かん。


 ピシャりと引き戸が締められると同時に、俺は情けない事にボロボロ涙を溢してしまった。


「沖田が宇吉と樺恋の親になったら、どうしようかと……」

「……何言ってんの?」


 俺には深刻なのだが、2人は呆れて肩を落とした。俺にもわからん。酒は飲んでも飲まれるな。酒に弱いなら、尚更だ。

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