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47勝手目 仲間って何だろう(1)

新見が去った後、相馬は険しい顔をやめてニコニコとタレ目を糸目にする。あの女が本気でストレスなのだろう。

 愛嬌もなくて救いようのない人間である事は嫌でもわかった。


 加入……いいや、入隊してもいいという相馬、服部、谷、尾形の4人に"沖田が受けている呪い"と"過去戻りの禁忌"について説明した。


 各メンバーの役割や役職は勿論、澄んでいる場所や共通の携帯電話、晴太と兄貴の能力まで事細かに話す。


 ノリに任せて深く考えずに入隊を考えていた尾形は、また少し迷った顔をした。

 

 誰も保証してくれない、命懸けの禁忌。死んでも誰も責められない。送り出す後ろ姿が最期の姿かもしれない。


 その寂しさ、辛さ、待つ事の過酷さに耐えられるか。過去に戻る4人は勿論、現代で待つ方の心労も並ではない。


「1つ呪いが解けたのに、まだあるぅ? どうやって解くんじゃ! さっさと教えろ!」

「それがわからないカラ、昔に戻っテル言ったのにネ。ハットリ、話聞いてナイ」

「おぉ……あ、そうじゃった……」


 ネリーと会話にもなっていないやり取りを交わしただけで、風呂上がりかと突っ込みたくなるくらいのぼせて口を閉じる。


 正座でモジモジとトイレを我慢するような動きまでする。そんなんなるなら、さっさと帰っていなり作ってろ。


「今回呪いが解けた理由はわからないけど、とにかく解けるって事がわかって良かったよ。洋が寝れなくなるから禁忌を犯してる様なもんだったしさ、少し前進したよね!」

「長ぇ道になりそうだな。兄ちゃんは最後まで付き合うぜ!」

「学くん、洋さんはボクの妹なんだけど……」


 晴太の言う通りだと全員が頷く。そして兄貴の言う通りだと頷く。沖田の呪いが全て解けた時、晴太と兄貴の呪いも解ける。


 全てを手放して呪われた晴太と、当たり前が出来ないと嘆いて呪いを得た兄貴。


 沖田だけでなく、この2人の呪いを解く方法も見出せていない。八十禍津日神に頼み込んでどうにかなるならまだしも、生憎慈悲深い神ではない。


 呪いをかけたらかけっぱなし。神が1番我儘でどうしようもない気がしてきた。まあ、神ってそんなもんか?


「ところで、沖田はんと藤堂はんは生き別れの兄妹なんやろ? 2人の両親はどない人だったん?」

「え……?」


 相馬の質問は酷だと思った。


 沖田も洋斗も育ての親が異なり、実の親の事は殆ど知らない。沖田は捨てられたに近いが、洋斗はどうなのだろうか。


 沖田と洋斗は口を半開きにして顔を見合わせた。意思の疎通が出来ているのか、一言も発さずに同時に3度の瞬きをする。


「わかんなぁい……」


 関西のノリなのか、相馬、服部、谷は大袈裟に机に頭をぶつけたり、後ろに横転したりとオーバーリアクション。


 京都だからと言って皆が想像している京都人ではないだろう。が、こんなにわかりやすい反応をされると少し後退ってしまう。言葉は選んだが、引いているということだ。


「ふ、普通は興味もたん!? 生き別れの兄妹に会うて、苗字もちゃうのに気にならんの!? 本当の親に会いたいとか、ならんの!?」

「ボクはおじいちゃんとおばあちゃんに育ててもらったけど、両親の話を聞いたらすごい怒られたんだよねぇ……だから親の話はタブーってのが抜けなくてぇ」

「今更知って、それでじゃあ会いましょうってなってもなぁ。ここまで来たらほぼ他人じゃん」


 洋斗は「たしかにね!」と軽く笑い、やっぱ兄妹だねと沖田と小さくハイタッチした。


「横から失礼。洋殿と洋斗殿のご先祖が同じ――まぁ兄妹なのですからそうではありますが……ルーツを辿れば見えてくるものがあるかもしれませんぞ? そもそもご先祖は何を思って神社へ放火したのか……悪戯にしても度が過ぎますからなぁ。何か深刻な理由があるのでは」


 頭を下げ、失礼と締めくくる。宇吉の洞察力にハッとさせられた。沖田が産みの親は知らないでいいと興味なさげに言うから、気に留めないでいた。


 そういや、ルーツを辿るという発想に至らなかったな。きっと聡さんや葵さんが沖田の親なんだと、俺はまだどこかで信じている。


 沖田もそうであるように、22年隣に居た幼馴染の両親として接して来た関係を今更「はいわかりました」では納得できないのだ。


「八十禍津日神を祀る事で災厄から逃れられる……ですが、沖田さんの先祖はまるで災いをお越しに行っている様に思えますね」

「しかもわざわざ49番目ってのがのぉ。生まれただけで呪われるなんて災難じゃな」


 尾形の発言に服部は首を縦に振り、沖田を憐れむ。すると服部の横にフリスビーのような何かが横切った。


 壁にぶつかり、タイヤのように転がったのは湯呑みの受け皿。


 おい。文化財だから壊すなって、言ったよな?


 沖田を挟んで隣に座る伊東の右手は肘を折り曲げ、ダーツを投げた後のように宙に浮いている。

 黒スーツに黒シャツ、全身真っ黒のために圧が増す。シャツの色で人格も変わるのか?


「すみません。何故かとってもイラっとして」

「す、すまんじゃった……」


 服部は口元を両手で覆い、何も喋らんと息まで止める。


「秀喜が怒るのも無理ねぇよ。確かに洋の事を気の毒だと思う気持ちもわかる。でも1人で呪われてる訳じゃあねぇ。晴太もおれも呪われてんだ、ほら」


 兄貴は自分の目を指で大きく開き、緑色の瞳を服部らに見せつけた。カラーコンタクトではないと瞳を摘むようにしてみせたり、俳優時代の写真を見せて本当だと証明する。


 そしてテーブルに壁掛け電話を置き、注目を集めた。


「呪われてんのはダリぃよ。禁忌とか怖ぇえし。この電話は鳴り止まねぇし。でもよ、悪い事ばっかじゃねぇのよ。こうやって仲間も出来たし、案外楽しいぜ? 呪われてんの」


 湯呑みの縁をなぞり、学はウィンクする。


「僕も学さんと同じかな。イタコの力は殆ど無くなっちゃったけど、元々は洋と守と隣に並びたかったから修行してたんだし。今できる事をこなして、皆と一緒に並んで、自分が動く事で役に立ってると思うとさ。呪われてよかったかなって思えちゃうかも」

「ま、割と幸せってこったな」


 本当に役に立ってるかは皆の評価次第だけどさと、照れを誤魔化すようにお茶を啜った。


 兄貴も釣られて顔を赤くし、隣に座る伊東に照れるだろうと軽く腕を叩いて返り討ちにされている。ざまぁない。

 

 晴太と再会した時、確かにそんな事を言っていたな。自分は隣に居られないなんて言っていたのに、今や神霊庁の東北地域には欠かせない立場になった。


 刺されるような場に立たされても、逃げずにちゃんと立っている。そういう勇気に溢れた幼馴染がいる事を、俺は誇りに思うよ。


「……すまんじゃった。洋も、ごめん。勝手に気持ちを決めつけてしもうた」


 服部は正座をして手を揃え、深々と頭を下げた。そこまでしなくてもいい気もする。真面目な奴なんだな。


 謝罪された沖田は服部を見つめ、アタシはと小さく吐いた。


「皆と唐揚げ食べてる時が1番幸せだな!」


 呪いに何も関係ねぇ……沖田らしいと言えばそうなのだが、場の空気を考えられないのは呪いじゃなく"性格"なのか。


 こうなると呪いが解けたのか本当にわからん。希望が見えた先走ってしまったかもしれんと後悔した……いや、沖田は昔からこういう奴だったわ。


 しかし、沖田の一言にほっこりとした空気が漂っている。そりゃそうか。大事な物とか言われた後だもんな……俺は忘れられてたけど。


 京都支部もにこやか――かと思ったら、相馬だけは真顔。どうしたと問えば、手をパチンと一度鳴らした。

 

「ボクらの加入、一体ステイさせましょう」

「はあ? ここまで聞いて何しぶってんだよ、志蓮。俺は入るぜ、そっちの新撰組」

「あかん。谷はクズでも藤森神社の息子。これはボクらだけやなく、京都支部に関わってくる問題や。何もわからずにポンと入るんはリスクがあり過ぎる」


 そして机に頬杖をついて沖田に向き、首を傾けた。きっとこの仕草は、挑戦的な意味を持つのだろう。口元は期待を交えた笑みが浮かんでいる。俺には確かに、そう見えた。


「そやから見してや。その呪いで出来た絆っちゅうのを」


 それは京都支部から、俺達への挑戦状。京都で禁忌を冒せと、遠回しに言っているのだ。

 行動は言葉よりも雄弁。綺麗な言葉を並べても、人の道を踏み外す事をしているんだからリスクを回避したいのは当然だ。


 見せてやりたいのは山々だが、あまり乗り気になれない。そりゃあだって――なぁ?


「沖田、いいか?」

「なんでアタシに聞く?」


 折角の京都旅行が禁忌で染まるなんて嫌に決まってる。と、思ったのに。


「今日は沖田の誕生日だろ!」

「あ」


 誕生日を忘れられて泣いたくせに。思い出してもらって満足したのか、あっさりしてやがる。


「今日は嫌だ。明日でもいい?」

「ええよ。準備もあるやろし」

「んじゃあ、明日。おい土方、ちゃんとライター買っとけよ。これ、燃料切れてるから」


 沖田はスーツのポケットから菓子のゴミとライターを取り出して俺の目の前に置いた。自分で買え。ゴミは捨てろ。


 しかもなんだその、ゆるっとした約束は。遊びの予定を決めているんじゃないんだぞ……?


「よし、じゃあ禁忌は明日って事だし――」


 沖田は縁側に立つと右足だけで立ちながら、左足で片方の太ももを掻いた。スーツのショートパンツから伸びる白い脚が、黒に映えてより長く見せる。


 それに喉を鳴らすのは服部だ。祈が「拗らせてるどころか手遅れね」と呆れると、わかりやすくしょげる。 


 だが、東北こっちも負けていない。晴太も「足っていいよね」とデレっとした顔で情けなく涎を垂らしていた。


 沖田はそんなことも気にせずに、ネクタイを緩めてワイシャツのボタンを幾つか外し、ジャケットも脱ぎ捨てた。

 

 固い話は終わりだと、開放的な笑顔を見せる。


「ちゃんと祝えよ、アタシを!」


 偉そうに。一生呪われてろ。

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